A Solitary Battle Another World Fight Stories 6th stage第48話
肩の傷が癒えるまでは余り動かない方が良いと城に常駐している医師から言われているものの、
地球では前線での戦闘経験もあるアイベルクにとっては実は余り気にしていないレベルの傷であった。
それに元々身体を動かしている事がテコンドーを習い始めてから日常茶飯事だったので、
礼服を着ていないと落ち着かないのと同じ様に身体を動かさないと何だか落ち着かない。
それに、セバクターに言われた『武器が扱えると分かったなら貴様を連れて行けない事も無いが……』
と言うセリフが妙にアイベルクの頭の中で引っかかってモヤモヤする原因になっていた。
(そう言えば、この世界にはどんな武器があるんだ?)
セバクターのロングソードやメイベルの斧、それからメイベルの部下である鳥人に狙撃された時の様に弓もあったし、
ニーヴァスが槍を使っていたのも記憶に新しいので中世のヨーロッパレベルの武器があるのは分かっている。
だがこの世界は地球とは異なる世界。
アイベルクは自分が最初セバクターに出会った時に初めて聞いた、魔力がどうのこうのと言う話を思い返して考える。
(ファンタジーな世界故に魔術があっても不思議では無いか)
あいにくこの目では1度も見た事が無いがな……と付け加えたアイベルクは、あの時鳥人に襲撃された事もあって
1か所に留まり続ける事に不安を感じていたのもあって鍛錬場へと足を運ぶ事にした。
鍛錬場は広いので誰かが入って来てもすぐに分かるし、広いが故に襲撃されても攻撃が届くまでに
時間がかかる筈だと予想する。
その反面で襲撃された時には敵に見つかりやすいと言うデメリットがあるが、鍛錬中の騎士団員達に交じってしまえば
なかなか人の中から特定の人物を探し出すのは難しくなるので、そのデメリットを少しは無くす事が出来る。
もっとも、それなりの人数の騎士団員達が居なければそれも意味が無いのだが。
それにやはり身体を動かしておきたいと思ったのもあって、アイベルクは以前訪れたこの城の鍛錬場へと
足を運んでみたのだが……。
(やはり今は鍛錬をしている状況では無さそうだな)
爆発事件が連続して起こっている訳だし、一般人のみならず騎士団の人間までもがその犠牲と
なっている今、城の騎士団員達も鍛錬をしている場合じゃ無いと言う事で鍛錬場には誰も居なかった。
だがその状況がかえって存分に身体を動かせるとアイベルクは思い、誰も居ない鍛錬場で肩に負担をかけない程度で
トレーニングをする事に決めた。
その時、ふとあの教練着を借りた倉庫がアイベルクの目に留まった。
(そう言えばあそこの中に武器があったかな?)
あの時は倉庫の中で教練着を借りたので他の事には目が行ってなかったが、なかなか大き目の倉庫であるが故に
武器や防具があったっておかしくない。
テコンドーのトレーニングでは武器を使う事は無かったものの、王国軍に入隊してからは格闘術や拘束術の
体術だけでは無く銃火器類のトレーニングもしなければならなかったし、その銃火器類がアクシデントで
使えなくなってしまった時のメンテナンス方法も勉強した。
それからナイフを使ったナイフファイトのトレーニングや戦術の勉強も……と言う様に地球の軍隊には地球の軍隊なりの
戦い方があるのだが、前にセバクターから聞かされた時にはこの世界では魔術を使うのが当たり前らしいので、
もしかしたら騎士団員は魔術を使った攻撃や防御の仕方、それから戦術の勉強をしているのかな? と勝手に
アイベルクはイメージしながら倉庫のドアを開ける。
勝手に色々と探し回るのは良くないと分かっているのだが、それでも武器が使えれば……と言うセバクターの
セリフの引っ掛かりを自分で解消したかったので、別に武器を使わせて貰うのでは無くどんな武器が置いてあるのかを
確かめたかっただけなのだ。
だがこの行為が後にアイベルクの運命を左右する出来事に繋がろうとは、今の当の本人は勿論知る由も無かったのである。
倉庫の中へと入ったアイベルクの目に飛び込んで来た物は、様々なジャンルの武器が詰まっている多くの木箱だった。
教練着を貸し出して貰った時は帝国騎士団員の2人にすぐ教練着を探し出して貰えた為に余り倉庫の中を良く見渡せなかったが、
こうして今誰も居ない場所でじっくりと見てみると確かに使い込まれた形跡のある武器や簡素な防具が倉庫の中にあった。
(やはり騎士団も軍隊なんだな)
名前こそ違えど同じ軍隊である事に変わりは無いので、ここで今更ながら親近感を覚えつつもアイベルクは近くの壁に
立て掛けられる形で置いてあった槍を手に取ってみる。
しかしその瞬間、アイベルクは己の身体に伝わるショックに驚きを隠せなかった。
バチィィィッ!!
「ぐおっ!?」
倉庫の中に青白い光が光ったかと思えば、その瞬間自分の手に強烈な痺れと痛み、そして何かが破裂する様な
音が耳に響き渡った。余りに突然の出来事に思わずアイベルクはたたらを踏みつつとっさに槍から手を放して、
その異常事態にしばし呆然と立ち尽くすしか無かったのである。
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