A Solitary Battle Another World Fight Stories 6th stage第49話
「……え?」
呆然としていたアイベルクの口からようやくその一言が絞り出されたのは、謎の現象が起こってから約10秒後だった。
槍が地面に転がっているし、手には未だにしびれと痛みの感触が残っている事からこれも現実の出来事なのだと
嫌でもアイベルクに教えてくれる。
冷静沈着な判断力が持ち味のアイベルクでさえ、ただ武器に触っただけなのに何故こんな現象が
起こってしまうのかについては全くの未経験なので理解が出来ない。
(静電気……では無さそうだが……)
もしかしたらこの槍が何かの原因で今の現象を発したのでは無いかと思い、今度はそばの木箱に
詰め込まれている、鍛錬用に刃を潰して丸くしてある短剣の1本を手に取ってみる。
バチィィィッ!!
「ぬぐお!?」
これもまたダメ。さっきの槍と同じ結果が起こってしまった事でアイベルクは軽いパニック状態に陥る。
(一体何がどうなっているんだ……!?)
槍も短剣もダメとなれば恐らく他の武器でも同じ結果が出るだろうとアイベルクは考えて、他の武器で
検証するのは止めにしておく事にした。
だがそこでもう1つの不安がアイベルクの中に生まれる。
(まさか、武器が駄目なら防具も駄目なのか?)
防弾チョッキの様にせめて防具があればまた話は変わって来るので、アイベルクはキョロキョロと倉庫の中を調べてみる。
すると、いかにも「それっぽい」甲冑のセットが倉庫の中にパーツごとに分けられて整理整頓されて置かれているのが目に入った。
(あれなら……)
その中の1つである腕当てを手に取ってみる事にしたが、人間の本能と言うものがアイベルクに若干の躊躇をさせる。
だが実際に装備出来るかどうかを試してみなければ分からないので、アイベルクは思い切ってその腕当てを掴んでみる。
「……お?」
何も起こらない。
どうやら防具に関しては触っても問題が無さそうなので、触るだけで謎の現象が起こっていた武器とは違う事を確認して
アイベルクも無意識の内に安堵の息を吐きつつ、自分の腕のサイズに合うかどうかのフィッティングに入る。
……が。
バチィィィッ!!
「うぐぅぁっ!?」
何故だ、何が起こった、一体どうしてなのだ。
アイベルクの頭の中をグルグルと疑問が一気に駆け巡る。
(ま、まさか防具の場合は……装着しようとするとさっきみたいに?)
そんな馬鹿なと思いつつも今度はスネ当てを1つ手に取り、自分の武器である足にグイッと押し当ててみるアイベルク。
バチィィィッ!!
「ぐぅあっ!!」
どうやら自分の予想は当たっていたらしい。悪い方向にではあるが。
そう考えてみるとこれは予想外の事態であるのでは? とアイベルクは嫌でも思ってしまう。
(待てよ、これは私にとって非常に不利な状況では無いのか? 武器は持つ事すら出来ないし、防具は触る事は出来ても
装着する事が出来ない。となれば私は基本的に素手で戦うか、身の回りにある物で戦うしか無いと言う事になる……な?)
そんな状況に気がつく事が無かった今までの状況もそうだし、今まで自分が武器に触る事も無かった状況を思い返してみるだけでも
良く生き残る事が出来てたんだなーと今更ながら自分の幸運に自分自身で感謝している。
結果としては残念な形になってしまったものの、考え方を変えてみれば今この時点でこうして気がつく事が出来て
良かったんじゃ無いのかと思うのだった。
この先で武器を使わなければならない状況がもし自分にやって来たとして、その時にこの倉庫の中にあるような剣や弓等の武器しか
身の回りに無かった場合には、武器が使えない事に気がついて絶望感に包まれる所だったのだ。
今も絶望感が全く無いと言えば嘘になるが、今は誰と戦っている訳でも無いのでこれから先で幾らでも対策を練る事が出来る。
武器が使えないなら使えないなりの戦い方を、それこそ騎士団のメンバーに頼み込んで一緒に
トレーニングして貰う事だって可能だからだ。
それにこの事をセバクターに伝えておけば、この謎の現象を解明してくれる手伝いをしてくれるかも知れない。
セバクターがロングソードを使っていた場面はあの馬車の襲撃事件の時に見ているし、それ以外では特殊部隊副隊長の
ニーヴァスが槍を使っていたし隊長のクローディルだって大剣を使っていた。
その3人の例を思い返してみて、この世界の人間であれば武器が普通に使えるけど自分は使えない事に何か理由が
あるのかも知れないと踏んでそれも一緒にセバクターに伝える事にした。
(……まぁ、今の時点で無理をしてセバクターに伝える必要はあるまい。そもそも今は部下の騎士団員達が爆弾事件に
犠牲者になっててピリピリしてる状況だから、そんな状態のセバクターとこんな事を話している暇も無いだろうしな)
この爆弾テロ事件が全て解決してから改めて報告すれば良い。
そう決めたので、今は鈍っていた身体を動かす為にまずストレッチからしようと思っていたアイベルクが倉庫から出た瞬間、
彼の目に思いがけない光景が映ったのである。
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