A Solitary Battle Another World Fight Stories 6th stage第42話


「心当たりと言えばこっちしかありませんね」

自分達が見つけたワイバーンの行方を探って、帝国騎士団の特殊部隊の副隊長と隊長は雨でぬかるむ山道を

必死に進んでいた。

泥で足元が非常に滑りやすくなっている上に、夜なので視界もままならない。

だけどこの雨の中ともなれば魔物達も雨を嫌って行動を控える様になるので、それだけが2人にとってはこの泥で

スリッピーな地面状況の山道を進む足を止めさせない事に繋がっていた。

その山道を進んでいる隊長のクローディルは、副隊長のニーヴァスの行動に対して疑問を覚えていたので

その張本人に投げかけてみる。

「確かにその洞窟はまだ調査が進んでないけどよぉ、そもそも洞窟の存在だってまだ帝国騎士団が公にしてない筈だろ?」

だからそんな場所にわざわざピンポイントでワイバーンを飛ばしに行くのか? と言うのがクローディルの見解だったが、

ニーヴァスはそのクローディルの疑問にこう答えた。

「それは私にも分かりませんが、旅人の間で情報収集がされてその情報が共有されているのであれば、

丁度そこを通りがかった時にふと思い出してそこを雨宿りに使う可能性は大きいでしょう」

「ああ、なるほどなぁ」

旅人の情報網は時に騎士団の情報網をも凌駕する事があるので侮れない。

ただの旅人であればそれで良い。

あの洞窟に入って、まだ騎士団の調査が進んでいない場所まで立ち入っていなければ別に何も問題は無い。

だがもし調査の邪魔をする様な連中であればその時は……と心に決めて、2人は自分達の武器をこの山道で

落としていない事を確認しつつ、泥でぬかるむ滑りやすい山道を確実にその足で踏みしめて上って行くのだった。


その特殊部隊の2人が向かっている洞窟の中では、とうとう獣人2人と2人の人間が洞窟の最深部の開けた場所に辿り着いていた。

その場所には騎士団の調査が入ったであろう工事の跡が残されており、洞窟の壁には照明用のランプが

設置されたまま残されている。そのランプがある事で、たいまつだけで進んで来た一行の顔にも幾ばくかの

安堵の表情が見て取れた。

それにこの洞窟は1本道だったので、迷う事無くまっすぐ進む事が出来たのも良かったのであるが、それ以上にメイベルと

獣人を喜ばせる光景が目の前に現れた。

「あった……あったわ!!」

開けた場所の奥側に存在している、岩山を掘り進めている区画で煌めいている大小を問わないシルエットの無数の物体。

物体が黒光りしているのが、掘削工事がしやすい様にその区画の周辺を強く照らしている大量のランプによって分かる

その光景は、メイベル達の目にはまるで自分達を歓迎している光の様にも思えた。


「これ……全部魔石よ!」

「いやっほぉ! 後はこれを世界中に売りさばけば俺達も大金持ちに……」

「まだまだ量が足りないからその話は早い。でも姉御、まだこの洞窟には魔石が眠っている可能性があるんですよね?」

大量の魔石を前にした事で思わず我を忘れかけるライオンの獣人を、冷静な声で狼の獣人がストップをかけつつ

メイベルに質問した。

「ええそうよ。その為にこの男を連れて来たんだから。だけどもし魔石が無かったらこの男にもう用は無いからここで死んで貰うだけね。

エドワルドはこの男を見張ってて。クロヴィスは私と一緒にまずはここにある魔石の回収よ。良いわね?」

「イエッサー!」

元気良く返事をするのはライオン頭の獣人クロヴィス。

一方の狼の獣人エドワルドはアイベルクの背中に乗りつつ、その肩に突き立てられたナイフを握りしめて身動きが取れない様にする。

(ここまで来て何も出来ないとは情けない……。この外道な連中の行いを、私はただ見ている事しか出来ないと言うのか!)

肩にナイフが突き刺さっていなければ自分のしなやかな身体を利用して拘束されている手を足に潜らせて前の方に

持って来る事位は出来たが、肩に未だに走っている痛みがそれを邪魔して出来なかった。


しかも今は狼の獣人エドワルドに自分の背中の上に座られているので、アイベルクはどうにも出来ないのが現状だった。

軍人だからと言って何でも万能な訳では無いのである。

そんなアイベルクの事は気にも留めず、メイベルとクロヴィスはあらかじめ持って来ていた大きな麻袋にせっせと一心不乱に

魔石を詰められるだけ詰め込んで行く。

一方のアイベルクの体力は今まで獣人2人に担がれていた事によって、肩のケガを差し引いても十分に動ける程までに回復している。

その肩のケガさえ無ければ体力的には万全なのだが、それ以上に後ろ手に縛られているのに加えて足も縛られてしまっている

この状況では得意の足技も全く繰り出せない。

しかも背中に乗られているのでロープを解く事はおろか手を動かす事も出来ない。

つまり何も出来ないこの状況で、着々と計画を達成して行くメイベル達をアイベルクは見る事しか出来なかった。

……のだが、今まで悪い事尽くめだったアイベルクの耳に足音が聞こえて来たのは次の瞬間だった。


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