A Solitary Battle Another World Fight Stories 6th stage第40話
「そう考えて見ると、少しおかしい気はしますね」
「ワイバーンを借りて金が無いから山に行ったのか? と言う考え方も出来たのだが、あの山の中はそれなりに深いし
そもそもワイバーンが着陸するのはきつい気が……って、あれ?」
今度はクローディルが異変に気がつく。
「どうしました隊長?」
「ワイバーン……1匹じゃ無いぞ?」
「……本当ですね。1、2……3匹ですか?」
こんな時間に5匹ものワイバーンがあの山の中に飛んで行くなんて。
これは絶対何かがありそうだと隊長と副隊長の2人は顔を見合わせて頷くと、宿に帰るのは後回しにして
山の登山道の入り口に向かってダッシュで駆け出した。
そのワイバーンの乗り手達2人は、リーダーの乗り手の指示に従って異世界からやって来た軍人を担ぎ上げて洞窟へと運んでいた。
下手に歩かせて万が一逃げられでもしたらかなわないとばかりに、手も足もしっかりと縛り上げて身動きが取れない
状態にしたままでのんびりと運ばれて行く。
タイミング悪く雨が降って来て、山の斜面は非常に滑りやすくなって来ているからであった。
それでもメイベルの足も部下2人の足も止まる事は無い。
「わざわざ近い場所に降りたんだから頑張ってね。このまま少し上った場所にお目当ての洞窟がある筈だからね」
あの時アイベルクに一旦倒されてしまったライオンと狼の獣人2人に応援の言葉を送り、その自分達を倒した男を
担いで獣人達は歩いていた。
「姉御ぉ、本当にこの男に使い道なんてあるんですか?」
「あるわよ。無かったらこんな男に用なんて無いし、さっさと息の根を止めてる所だからね」
自分を担ぎ上げている男達の会話が嫌でも耳に飛び込んで来るアイベルクにとって、うすうす自分が
これからどうなるのかが見えている。
(こいつ等は最終的に私を解放する気は無さそうだ。用が済んだら私の口を封じる為に人気の無い場所に
連れて行き、そこで殺すつもりだろうな)
それだけは何としても避けたいが、この手足を縛られて担ぎ上げられている状況では情けない事に何も出来ないのもまた事実である。
でも最終的に殺されると予想がついているのであれば逃げ出すしか無い。地球にも帰れずにこんな異世界で、
しかもこれだけの屈辱的な扱いを受けた上で死んでしまうのはアイベルクにとっては絶対に嫌だからだ。
その思いを抱えたままアイベルクは洞窟の前へと連れて来られた。
「姉御、ここから先は担ぐのは無理そうですね」
「なら下ろして進むしか無いわね。たいまつは私が持って進むから、この男が逃げ出さない様にしっかり見張っててね。
いざとなったら刺さったままのそのナイフでえぐってあげてね」
「イエッサ−!」
ナイフを抜かれなかったのはまだ不幸中の幸いと言えるだろうか。
早く治療しないとまずいが、この状況ではまだまだ治療されそうにも無かったし自分でも治療出来ない。
(何とかしなければ、何とか……)
1人の人間で出来る事は限られている。
(自分が万全の状態で3人相手ならまだ何とかなるかも知れないが、ナイフが肩の部分に刺さっててその上で
縛られているとなれば……やはりどうしようも無いか)
せめてこのロープだけでも解ければまだ少しチャンスはあるのかも知れないが……とアイベルクが考えている内に獣人達の足が止まった。
どうやらお目当ての場所に着いた様である。
ただでさえ夜の闇で光が入って来ない洞窟の中の最深部に辿り着いた一行は、まずアイベルクを獣人達が肩から下ろした。
「ほら、歩け!」
足のロープだけを切られて歩かされる……筈だったが、メイベルがそれにストップをかけた。
「ちょっと待って。その男、手を縛られたままでも足を使った体術でそれなりに戦える男だからロープは切らないでもう1度担ぎ上げるわよ」
アイベルクとメイベルのファーストコンタクトとなったあの馬車の襲撃事件。
あの時のアイベルクは今と違って手を身体の前で縛られた状態であったが、それでも足技として名高いテコンドーのおかげで
足だけでも戦う事が出来ていた。
テコンドーの事は全く分からないメイベルでも、その時のアイベルクの戦い方は今でもしっかりと自分の記憶に焼きついているので
油断はしたく無かったのである。
それを知らない獣人2人はメイベルの命令に渋い顔をした。
「そこまでしなくても、この狭い洞窟ですし手を縛られてるんですよ?」
「確かにこの男はそれなりに強いですが、それこそ今はナイフでえぐってやれば……」
担ぎ上げてここまで運んで来た獣人はまだ運ぶのか……と思ってしまう。
「分かってないわね貴方達。どんな鍛錬を積んで来たかは知らないけどかなりの足技の使い手らしいし、実際に私はこの男と……それも、
手を縛られた状態のこの男と戦って負けちゃってるから余計にその怖さが分かるわ。だから油断はしない様にするのよ。ほら、分かったらさっさと運んで」
この獣人とは別の獣人を2人も倒されている事もメイベルは知った上で獣人達にそう命令し、もう少しだけ部下の2人に頑張って貰う事にした。
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