A Solitary Battle Another World Fight Stories 6th stage第39話
その行方が分からなくなりかけているワイバーンは現在高度を下げ、1つ目の目的地に向かって近づいていた。
「そろそろ降りるわよ。貴方の出番も近づいて来たわ」
「その前にこの肩の……っ、怪我の治療をしてくれないか」
自分でも分かる位にジワジワと血が染みているのは分かる。
ナイフが刺さったままなのでそれが栓となっているが、本当にジワジワとだが出血しているのでこのまま
出血が続くと最終的にはその出血性ショックによって死に至る事も十分に考えられる。
となれば治療して貰うのが当たり前の話だが、メイベルからの答えはNOだった。
「そっちの言い分は分かるわ。でも駄目ね。貴方がしっかりと自分の役目を果たしてくれれば、治療を考えてあげても良いけどね?」
「き、貴様……うぐぅ!?」
またグリッと傷口をえぐられ、アイベルクはその苦痛に思わず声を上げてしまった。
「貴様? ふーん、そんな口がまだ利けるんだ。もっと酷い事してあげても良いのよこっちは。
せっかく考えてあげるって言ったのにねー? どうしようかしらねー?」
いやらしい声色でニヤニヤと笑いながら、更にナイフでアイベルクの肩の傷をえぐるメイベル。
「ぐぅあ、あ、あがああ、ああっ!!」
「この先、私もそう言う口を利く度にこう言う事をしてあげるわ。貴方は黙って私の言う事に従っていれば良いのよ。
貴方の命は私が握ってるんだからね。例えばここから地上に落とせば強い貴方だって一たまりも無いでしょ?」
「うう、ぐぅ……」
「分かったならきちんと返事をしなきゃね? まさか、そんな基本的な事を教わって無いとかって言わないわよね?」
「あ、うう……わ、分かった……」
「分かれば良いのよ」
結局治療どころか更に傷口を広げてしまう結果になったアイベルクを乗せ、ワイバーンはメイベルのコントロールに
よって高度をゆっくりと下げて行く。
その先に見えて来たものは、この大自然の夜闇の中で月明かりにはっきりと照らし出された山であった。
「あそこの山に下りるわよ。目的地までは少し歩くからね。さっさと歩かないとナイフでえぐるよりも……もっと酷い目にあわせるからね?」
耳元で楽しそうに忠告しながらぐんぐんと高度を下げ、ゆっくりとだがしっかりとメイベルはワイバーンを着陸させた。
「さってと、それじゃあ体の良い奴隷も手に入った事だし進むとしましょうか」
自分の部下がコントロールしているワイバーンが数匹、自分の後ろに着陸したのを見てメイベルは出発の指示を出した。
自分は一体、この容赦が一切無さそうな女に何処に連れて行かれるのだろうか。
アイベルクはこれから先の旅路を少しイメージしてみたが、それはどれもこの山を包んでいる不気味な静けさと
周りの景色の様にお先真っ暗だった。
少し時間はさかのぼり、その山のふもとから直線距離にしておよそ200メートル離れた場所。
それ程帝都から離れていない山のふもとの町において、2人の男が酒場で遅めの夕食を摂っていた。
「明日は一気にこの町まで行くぞ」
「結構遠いが仕方が無いですね。急がなければ何があるか分からないですし」
今回の爆弾騒ぎの報告を受けて調査の為に馬を使ってここまでやって来たのは、エスヴァリーク帝国騎士団
特殊部隊所属のフォン・クローディルとニーヴァス・ローレディルであった。
「しかし今回の爆弾騒ぎは非常に厄介ですね。帝都の部隊も出動させなければならない位に広範囲に爆弾が
設置されて広がっている訳ですから」
「そうだな。帝都の事はセバクターが居るから心配無いとは思うが、早めに事件を解決してさっさと戻らなければな」
今はとにかくこの爆弾事件を解決する為に動くしか無いので、早めに戻りたい焦燥感と戦いながら2人は
遅めの夕食を済ませてチェックインした宿へと戻る事にした。
しかしその宿へと帰る道の途中、ポツリと雨が降って来た。
「……あれ、雨だな」
「雨だと馬での移動も満足に出来ませんね。これは明日の天気次第によっては……」
「くそっ、ただでさえ急がなければならないと言うのに……」
日が沈んだ丁度良いタイミングで見つけたこの町でしっかりと休み、次の日は朝早くから出発する予定だった。
人間である以上は食事も摂らず、それから睡眠も無しと言う事で行動し続ける事は不可能である。
もう少し先に進んで野宿と言う事も考えたが、もし野宿している途中で魔物や盗賊に教われでもしたらそれだけでも
面倒だし怪我をする危険性もあった。
だからこうしてこの町で休んでいた2人だったが、雨が降って来たので急ぎ足で宿に戻ろうとした……その時だった。
「あれっ? クローディル隊長、あの影は何でしょうか?」
「影?」
僅かながら夜空にうごめく影をその目に捉えたニーヴァスが、クローディルにも分かる様に指を空に向かって突き出した。
闇に紛れながらも何とかその指の先に見えたシルエットは、どう考えても空を飛ぶ類の生き物である。
「あれはワイバーンかな。しかし、こんな時間に空を飛んで山に向かうか?」
「何処かの乗り手が雨宿りの為に山に向かった可能性もありますね」
「しかしそれだったらこっちの町が見える筈だろう? 何か引っかかるな……」
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