A Solitary Battle Another World Fight Stories 6th stage第32話


「おい、あの魔力が無いアイベルクと言う男は何処へ行った?」

「えっ? いいえ、俺は見てないですよ」

アイベルクの姿が見えなくなったのを知ったセバクターは、通りがかった騎士団員達に聞き込み調査を

しているものの、今の所は誰もその姿を見ていないと言う。

騎士団員達はそれぞれ襲撃者相手に戦いを繰り広げていた訳だし、殺されてしまった騎士団員も

結構多かったので目撃情報はなかなか集まらない。

鳥の獣人の襲撃者があの部屋に居た事から、アイベルクと部屋の中で鉢合わせになった挙句に

彼にやられてしまった事だけは何とかイメージ出来たセバクターだったが、ならばその先の足取りはどうなったのか?

(窓が破られていたが、あの割れ方からすればあの鳥人があの部屋に飛び込んで来たものだろうな。

となると、あの男は部屋から外に出たかもしくは窓から飛び降りたか……いや、窓から飛び降りると

なれば高さがあり過ぎるか)


とにかく今は、アイベルクの行方を捜さない事には話が進まないのは確かである。

窓から飛び降りたので無いとすれば、残りは当然部屋から出て城の廊下へと向かうルートしか無い。

窓から突然自分の部屋が襲撃されたとなれば、また窓から襲撃される事を恐れて廊下の方へと飛び出す

気持ちも分からないでも無い。

しかしその後の足取りが不明なままとなれば、城の何処かに身を隠している可能性が高いとセバクターは予想した。

その可能性を信じて、セバクターはアイベルクが隠れていそうな城の至る所を探し回ってみる。

立ち入り禁止であると言い渡し、城内のマップにまでその事を記載していた場所までも捜してみるのだが、

アイベルクは一向に見つからなかったのだった。

(おかしいな……城の外に行ったのか?)

騎士団長としてこの城の事は全て知り尽くしているつもりだったのだが、散々こうして探し回ってもアイベルクは見つからない。

ならば城の中では無く、城の外へと脱出した線が濃厚だ。

(全く、一体あの男は何処に行ったんだ?)

もう戦いは終わったのだから、あの男が違う世界の軍人であればとっくにそれを察知して姿を見せても良い頃なのに。


そう考えているセバクターが捜し求めている異世界の王国陸軍大佐は、既に城から遠く離れた山の中腹部にある

開けた場所へと連れて来られていた。

「尾行の類は大丈夫ね?」

「今の所は問題無い筈だ。それより、本当にこの山に色々あるのかよ?」

「間違い無いわ。この方面に潜入させていたメンバーの調べもついてるからね。それとこの男が噂に聞いている「魔力無し」の

人間だと言うのなら、期待通りの働きをしてくれる可能性は高いわよ」

目の前に居並ぶ30人弱の部下達を前にして、少しずつ名前を上げているその盗賊団のリーダーであるメイベルは、

足下に転がされて縛り上げられている「魔力を持たない人間」を見下ろした。

「姉御、用心して下さい。他の奴等がその男にやられてるんですからね。なかなかの腕前だと……」

「そこまで心配する程でも無いわ」

部下のセリフを遮ってメイベルは自信満々に言い切った。

「私もこの男とは戦ったからその実力は知っているわ。でもこの人数相手には幾ら何でも手は出せないわよ。

逃げようとしない様にしっかり見張って、もし逃げ出そうとしたら殺さない程度に痛めつければ良いだけの話だからね」


そう言いながら、メイベルは自慢の長斧の柄の先端で思いっ切りアイベルクのみぞおちをど突いた。

「ぐおっ!?」

目をカッと見開いて、身体を腹の部分から2つに折り曲げながらアイベルクは跳ね起きた。

「ご機嫌いかがかしら? 魔力の無い人間さん」

「うぐっ……こ、ここは……」

みぞおちの苦痛に悶えながらも、辺りをキョロキョロと見渡してここが何処なのかを確認しようとするアイベルクだったが、

周りが薄暗くて詳しい場所までは分からない。

分かるのは鼻から感じる土や草木の匂いと、背中の下から感じるゴツゴツとした地面の感触。それに自分の周りに感じる大勢の気配。

全てをひっくるめて、自分は何処かの山か森か林の中に連れて来られて大勢の人間に囲まれているのだと判断した。

そしてこの聞き覚えのある声。それは間違い無く最初に自分を襲撃して来て返り討ちにし、城が襲われた時にあの廊下で鉢合わせした……。

「確か貴様は……メイベルとか言う女だったか」

「ふぅん、私の名前を覚えてくれるなんて嬉しいわね」

アイベルクはメイベルのその声色が、最初から最後までトーンが変わらないながらも若干の喜びを含んでいるのが分かった。

だがそれと同時に感じる彼女の視線は、薄暗くて見えにくくても冷え冷えとしたものなのであると感覚で理解出来るものだった。

「貴様は一体私をどうしようと言うのだ? ここは何処かの山か? 森か? こんな場所に私を連れて来て、これから何を始めるつもりだ?」

そう問いかけながら、後ろ手に縛られた手首のロープを何とか頑張ってこっそり解こうとしつつアイベルクは逃亡のチャンスを窺うが、

この人数相手に逃げおおせるのは難しそうだと悟った。


A Solitary Battle Another World Fight Stories 6th stage第33話へ

HPGサイドへ戻る