A Solitary Battle Another World Fight Stories 6th stage第33話
アイベルクの質問に対して、メイベルは楽しそうな声色で答える。
「そうねぇ〜、私達の目的は色々あるけど、大まかに言えば私達の名前を売る事と、それから盗賊団の規模の拡大。
後はちょっと貴方に手伝って貰いたい事があるのよ」
「私に……?」
あんな惨劇を生み出しておきながら、これから一体何をしようと言うのであろうか。そして自分に手伝わせたい事とは一体何なのだろうか?
アイベルクはそれも質問してみた所、メイベルからはこんな答えが。
「んー、別に難しい事をやれって言うつもりじゃ無いわ。ただ、私達には少し気になる情報があってね。
その情報の真相を確かめたいって言う事かな」
「はぁ……?」
言っている事がアバウト過ぎてアイベルクも何が何だか分からない。もっと具体的に細かく説明して貰わなければいけないだろう。
「言っちゃ悪いがさっぱり意味が分からん。私にも分かる様にもっとしっかりと説明してくれ」
例え自分以外の人間でもきっとこう言うだろうと考えながら言ったアイベルクのセリフに対して、メイベルは何処か遠い目をしながら答える。
「少し前の話になるんだけど……この世界に、貴方と同じく魔力を持っていない人間が現れたとの情報を私達はキャッチしたの。
そして、その魔力を持っていない人間がしでかした事と同じ事が貴方にも出来るのであれば、私達は貴方を利用させて貰おうと思っててね」
「だから、その具体例を説明しろと言っている!」
若干苛立ちを見せるアイベルクにメイベルはズイッと近寄って来ると、メイベルの平手打ちがアイベルクの頬に飛ぶ。
「ぐっ!?」
「貴方、自分の立場が分かってるのかしら? 私が一言命令すれば、何時でも貴方なんて切り刻んだり穴だらけに出来たりするんだからね?」
今度はメイベルの部下の男女達から目前に色々な種類の武器を突き付けられ、アイベルクは言葉を詰まらせた。
「あははっ、幾らあれだけ強くても、これだけの人数じゃ手も足も出ないわよね。そりゃそうよね?」
ロープを解こうとしてみたものの、かなりきつく縛り上げられていたので結局無駄な努力に終わってしまったアイベルクに
メイベルは更なる屈辱的な要求をする。
「自分の立場が分かったら、地面に頭ついてしっかり謝りなさいよ」
「何?」
いきなりこの女は何を言い出すのか……と思う間も無く、今度はそのメイベル愛用の斧の切っ先が部下達の武器と一緒に
アイベルクの目前に突き付けられた。
「別に謝らなかったらそれで良いわよ? けど、貴方の表情から分かるわよ。この先も生き延びたいって言う心の声がね。
ここで素直に謝ればこっちだってこれ以上の事はしないわよ。でもあんな態度取られちゃあ……ねぇ?」
アイベルクは謝りたく無かった。
軍に入隊してからも色々と理不尽な出来事はあったにせよ、ここまで理不尽な要求はこれまでの
軍人生活……いや人生の中で初めてだった。
だけど元の世界に帰ると決意したアイベルクは、自分の中の「謝りたくない」と言う意志に負けてしまう結果になった。
「……済まなかった」
「え? 聞こえな〜い。はい、大きな声でもっと気持ちを込めてやり直し!」
すぐに出されるリテイク。クスクスとあざ笑う声も聞こえて来る。
学校のいじめじゃあるまいし、こんな事をさせる暇があったらさっさと自分を利用すれば良いのに……と自分でも無茶苦茶な事を
考え出す程アイベルクの精神は限界に近づいていた。
「……生意気な口を利いて、本当に済まなかった! 許してほしい!!」
アイベルクの絶叫に近い大声の謝罪が広場に響き渡り、その瞬間彼の目の前から武器が一斉に引かれる。
「分かれば良いのよ。次は容赦しないからね?」
アイベルクは地面に頭をつけたまま、無意識の内に涙を流して泣いている自分に気がついた。
(何故だ、何故私がこんな目に……)
望んでこの世界にやって来た訳でも無く。
望んであの城に向かった訳でも無く。
望んでこうしてこのメイベル率いる盗賊団に拉致された訳でも無いのに。
何故ここまで惨めで悔しい思いをしなければならないのだろうか。
この瞬間、アイベルクの心の中で憎しみの炎が静かに燃え出したのである。
その憎しみの炎を静かに燃やし始めたアイベルクを、部下達に命じてメイベルは強引に立たせる。
「それじゃあ貴方のお望み通りの質問に答えてあげるわ。北のソルイール帝国と言う国の研究施設の地下で、
茶髪の男に騎士団長と帝国の英雄が殺されたんじゃないかって噂が立っているのよ。その殺害疑惑をかけられた男は
今もまだ捕まっていないんだけど、その男が犯人で間違い無いだろうって言われてるの」
そこで言葉を一旦切って、メイベルはアイベルクに顔を近づける。
「それでその男に関してね、そっち方面に派遣している私の部下から面白い情報を聞いたのよ。
傭兵としてその部下は帝国騎士団からの依頼を受けてその男を追いかけていたらしいけど、
その男……研究施設の地下水路の奥にある、魔力で封じられている筈の扉を難無く開けて中に
侵入したらしいのよ。この意味が分かるかしら?」
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