A Solitary Battle Another World Fight Stories 6th stage第25話
アイベルクの情報収集の方はなかなか上手く行っていない状況である。
元々こう言うファンタジーな世界観にはまるで疎いのもあるが、それ以上にこのエンヴィルーク・アンフェレイアと
言う世界とはまた別の世界が発見された……等と言う記述はまだ見当たらないままだ。
まだ調べ始めたばかりとは言え、時刻は既に昼時になろうとしている。
帝国随一の保管書物数を誇っていると言うだけあって、図書「室」では無く図書「館」と言うだけの広さと本棚数がある。
だが、これだけの書物から関係のある書物だけを調べろと言われてもかなりの時間がかかる事は想像に難く無い。
実際の所、アイベルクもまだ5冊位しか読破出来ていないのだから。
それに、ずっと椅子に座って本を読み続けていただけあって目と肩と腰が疲れて来た。
40歳もそろそろとは言え、日々のストレッチやトレーニングは時間がある時にその時間が許す限りやっているのだから
一般人よりは身体が強いと自負している。
伊達にテコンドーで全国大会に出ている訳では無いのだ。
しかし、人間の身体は老化現象からはどうやっても逃れる事は出来ない。
今のアイベルクだってそれは一緒である。
(流石に少し肩がこったな)
時間的に丁度昼食時でもあるので、そろそろ昼食にしようと思い立ったアイベルクは一旦本を本棚に戻し、図書館を出て食堂に向かった。
朝食を摂らせて貰った時と同じ様に、昼食もこの城の食堂で摂らせて貰った方がアイベルクの気持ちに安心感を与える。
彼自身が寂しがり屋と言う訳では無い。むしろ、どちらかと言えば軍の業務以外では1人で居るのを好むタイプである。
だから非番の時の食事は外食で1人で食べていた事も多かった。
だけど、この世界は地球とはまるで異なる世界。
そんな世界に突然放り込まれてしまったアイベルクは、知らず知らずの内に人の温もりを求めていたのであろう。やはり彼も1人の人間らしい。
部屋で1人ぼっちで食べるよりかは、例え違う世界の人間しか居ない場所であっても周りでワイワイガヤガヤと賑わう声が飛び交う中で
食べた方が、精神的に安心出来ると気が付いた。
(そう言えば、王国軍の食堂に似ていると言うのもあるかもな)
食堂の構造が似ていると言う意味では無い。
部隊や階級が違っても、多数の人間が一緒のスペースでそれぞれ食事をそれこそ賑わいながら摂ると言う光景はまさにガラダイン王国軍の
食堂そのものだった。
そんな光景に既視感を覚えていた自分だからこそ、その懐かしい光景のフラッシュバックもプラスしているのかも知れないと自己分析をしつつ、
背筋をまっすぐ伸ばした姿勢で廊下を進む。
食堂に辿り着くと、やはりと言うべきか昼食時であるからこそかなり混みあっている。
しかもアイベルクの予想を超えた混み具合であった。
(うーむ、これは座れそうに無いか……)
軍でも時間をずらして食べる事はあったので、だったらもう少し時間を遅らせて来るべきだったと自分の見越した内容の間違いに
小さく頭を振り、食堂を後にして図書館へと戻ろうと踵を返す。
その時、そんなアイベルクの背中に声が掛かった。
「あんたか? 噂の異世界からやって来た人間って」
「ん?」
アイベルクが顔だけを振り向いてみれば、そこに立っていたのは水色の髪の毛を持っていて目つきが若干悪くて背が低い男と、
少し背が高めでオレンジ色の髪の毛を持っている軽薄そうな男の2人が立っている。
「やっぱそうだよな? 僕等には魔力感じられないしなー」
このセリフからしても声からしても、どうやらアイベルクに声をかけて来たのはオレンジ色の髪の男らしい。
「ルディスは感じる?」
「いいや、俺も感じない。こんな人は初めてだよ」
ルディスと呼ばれた水色髪の男も、オレンジ色の髪の男と一緒の回答をムスッとした表情のままで口から出す。
その単調な口調と表情の無さを見る限り、感情の起伏が薄い人間の様であるとアイベルクは悟った。
「私に何か用か? と言うか、君達は騎士団員の様だが一体何者だ?」
お互いの事を良く知らない内から馴れ馴れしく話し掛けられるのは、アイベルクに限らず気持ち良く感じない人間の方が多いだろう。
アイベルクもその1人であり、警戒心を解こうとはせずに2人に対して自己紹介をする様に求める。
「あーっとごめんね。僕はライウンって言って、帝国騎士団の第1騎士団員だよ」
「同じく帝国騎士団第1騎士団所属、ルディス・ジレーバーだ。よろしく」
「私はアイベルクだ。君達も食事を摂りに来たのか?」
そう聞いてみれば、肩をすくめてライウンが答える。
「そうだよ。だけどこの混み様じゃあねぇ? だから一旦引き上げようとしたらあんたの姿を見かけて声を掛けさせて貰った訳だよ。
セバクターから何かされた?」
「え?」
気軽に騎士団長を呼び捨てに出来る様なその口ぶりからすると、この場には居なくても上官に対する口の利き方で無いのは明白だ。
でも、ライウンの口調はそれがまるで何時もの事であるかの様に場慣れしているものであるとアイベルクはすぐに察知出来る。
だとすれば……。
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