A Solitary Battle Another World Fight Stories 6th stage第16話
空から獣人が弓で狙撃して来るし、地上では女が斧で襲い掛かって来るのでアイベルクは防戦一方である。
だがその中で、彼はこの状況を自分に有利な展開に引っくり返す為のある手段を思いついていた。
それは一種の賭けでもあるし、葛藤する内容でもあるがこの緊急事態にそんな事を考えていたら
間違い無く死んでしまうのが結末で見えている。
だからこそ、アイベルクはその戦法を取る事にした。
「はああっ!!」
斧を振り被って女がまた向かって来る。
その女の振り下ろしを回避してから彼女の脇腹にミドルキックを叩き込んだアイベルクは、素早く彼女の後ろに
回り込んで自分の縛られている手首の「内側」に腕でスペースを作る様にして女の首を後ろに引っ張る。
「げへ!?」
縛られた腕を逆に利用して女の首を絞め上げるのと同時に、上空で弓を使ってこちらに狙いを定めている
獣人をけん制して、更にその弓で狙撃されない様にする為のブロック役になって貰う。
女相手にここまでするのは……とアイベルクは一瞬葛藤したものの、ここはまさしく戦場。
そんな甘い事を言っていたら、この先絶対に生き残る事は出来ないからだ。
空の獣人の動きをよく見て、その翼で後ろに回りこまれそうになったらグルッとアイベルクも身体を動かし、
女をブロック役にする。
多勢に無勢の戦場であれば、ルール無用の世界なので何でもありだ。
(そっちが数で押すのであれば、こっちもそれなりの対応をさせて貰わなければ)
そう思いつつズルズルと女を引っ張って馬車の中に一旦身を隠そうと思ったアイベルクだが、次の瞬間に
思いもよらない事が起こる。
「ぐううえええっ!?」
「んっ?」
上空からもだえ苦しむ様な声が聞こえて来たかと思えば、アイベルクの視線の先では空に居た弓の使い手の
獣人がドサリと地上に落下するのが見えた。
「良し、そこまでだ。後は俺達に任せてくれ」
それと同時にアイベルクの耳にセバクターの声が聞こえて来た。
どうやら戦いは終わった様で、アイベルクもその声に従って女を解放する。
「げほっ! がはっ! げほはあっ!!」
首を絞められていた女は激しくむせると、視線だけでヘビも射殺せそうな位の鋭い視線でアイベルクを睨み付ける。
その視線と一緒に物凄い殺気が女から出て来るが、アイベルクは冷めた目つきで女を見る。
「貴方……私をこんな目に遭わせて、ただで済むと思って無いでしょうね!?」
「……それは知らないが」
「格好つけてるんじゃ無いわよ!! 見てなさい……私の仲間で思い知らせてやるんだからね!!」
「ほら、行くぞ」
わあわあとわめき散らしている茶髪の女を、何処かうんざりしている様子でセバクターが引っ張って行く。
「……馬鹿馬鹿しい」
セバクターと同じ様にうんざりしている表情でアイベルクが首を横に振り、その様子を見届けてから
戦いの残骸に目を向ける。
(まさかこんな場所でまで戦争に巻き込まれるとはな)
軍人である以上は有事の際に戦いに巻き込まれると言う事は覚悟しているし、実際に自分が戦時昇進を
した時の紛争を始めとして実戦経験も豊富なアイベルク。
だけどまさか軍事演習中に変な現象で変な場所に飛ばされ、更にその先でも戦いに巻き込まれる事に
なろうとは彼自身思いもしていなかったのである。
つくづく自分の人生は戦争に巻き込まれる事が多いな……と思っているアイベルクの元に、女の身柄を
拘束したセバクターが戻って来た。
「待たせたな。それじゃあまた帝都に向かって出発しよう」
アイベルクを促して馬車に乗る様に促すセバクターであるが、それよりも1つアイベルクには気になる事があった。
「それは良いのだが、ここの後始末はどうするんだ?」
「俺の部下に任せてあるから心配はしなくて良い。それよりも、俺からも1つ聞いておきたい事が
あるのだが……この2人は貴様が倒したのか?」
馬車のそばに転がって気絶したままの2匹の獣人の姿を見てセバクターが問い掛ける。
問い掛けられたアイベルクは別に隠す必要も無いと思い、首を縦に振って肯定した。
「分かった。それじゃあ大多数の部下をここに残して後始末に従事させ、貴様は俺と数人の部下と一緒にこれから
帝都に向かう。その途中でまた色々と話して貰う事になる。後、城に着いてからも改めて調書を取らせて貰うぞ」
「ああ、それで構わない」
正直に言えば何回も同じ事を聞かれるのはアイベルクじゃ無くても嫌なものであるが、この状況が状況だから少しは
仕方無い部分もあるかと思ってアイベルクは了承する。
そんなアイベルクはセバクターによって腕が再びきつく縛り直され、帝都の城に向かって再度連行され始めた。
「ああ、それとこれだけは最初に聞いておきたいんだがな」
「何だ?」
「その……そっちの世界には獣人は居ないのか?」
「ああ、見た事無い」
事実、地球で身体が人間で顔が動物の生き物なんてアイベルクは見た事が無い。
そもそもアイベルク以外でもそんな生物を見た人間は居ない筈である。
だからこそ、それはこの世界が地球とは違う世界であるとアイベルクに認識させるのには十分だった。
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