A Solitary Battle Another World Fight Stories 6th stage第15話


(なかなかの動きだ。しかし、大振りによる隙が見え隠れしているな)

アイベルクは女からバックステップで距離を取り、それでも自分に向かって来るその女の動きを

今までの攻撃とトータルで考えてそう評価した。長い事軍人をやっているアイベルクに、それだけの

評価をさせる腕前を持っているこの女は一体何者なのだろうか?

背中の半分位までありそうな長さの茶色の髪の毛をぶんぶんと揺らしつつ、女はアイベルクに

またもや襲い掛かって来たのだが、この辺りでアイベルクもいよいよ反撃に出る。

騎士団の助けはセバクターを含めて望めそうに無い状況が、横目に見える状況だけでも分かるからだ。

冷静に相手の技量を見極めたアイベルクは大振りによる隙を突く。


アイベルクの足元を狙った大振りの薙ぎ払いを繰り出して来た女に対し、それを鍛え上げられた

足のバネによるジャンプで回避。

続けて遠心力を利用してもう1度アイベルクに薙ぎ払いを繰り出そうとした女だが、その前にアイベルクの左足が

女の背中を蹴りつけるのが先だった。

「ぐえ!?」

反撃に妙な声を上げる女だが、すぐに体勢を立て直して振り向きざまに今度は胴体を狙った薙ぎ払い。

それをアイベルクは、瞬時に両足を前後に180度開脚して頭も下げてしゃがむ形で回避し、足の力だけで

立ち上がってから次の薙ぎ払いに合わせる形で女の頭部目がけてスピードある回し蹴りをヒットさせた。

「がはっ!?」

またもや奇妙な声が女の口から出て来たが、アイベルクは気にせずにその上段回し蹴りから下段回し蹴りに繋げて

女のたたらを踏んでいる足を払い飛ばした。


「ぐうっ!!」

右側面から地面に倒れ込む形になった女が起き上がって来る前に、アイベルクは革靴の底で女の胸を

ぐっと踏み潰した。

「ぐぅ……ぐえ!?」

「答えろ、女。何故この馬車を狙った? 貴様は一体何者だ?」

冷ややかなアイベルクの黒い瞳が女に突き刺さるが、女の視線が横に逸れる。

その視線の先に思わず自分も目を向けてしまったアイベルクが見たものは、自分に向かってナイフを持って

空から躍りかかって来るワシ頭の獣人だった。

「くっ!?」

背中には翼が生えているので、突進しながらナイフを振るって来たそのワシ頭の獣人の攻撃を回避した

アイベルクが見たものは、ヒットアンドランの戦法で上空へと翼を使って飛んで行く獣人の姿。


それと同時に視界の隅から女の斧が出て来て、その斧が自分の腹を突いた瞬間だった。

「ぐおっ!?」

完全に獣人の動きに気を取られていたアイベルクは、女の攻撃を受ける結果になってしまい背中から

地面に倒れ込んでしまった。

斧の先端に何も付いていない状態だからこそ攻撃を受けるだけで済んだのだが、これがもし槍だったら?

もしくは槍と斧の合体武器であるハルバードだったら?

恐らくアイベルクは良くて大怪我、悪くて死んでいただろうと自分自身で分析しながら立ち上がって、

女から素早くバックステップで再び距離を取った。


素手の人間相手でも、一般的には2人同時の相手が素手では限界と言われているし、女は長い斧を

持っている為に武器を持っていないアイベルクはそれだけで不利だった。

それにプラスして今度は、何と背中に翼が生えていると言う地球では絶対に存在しない獣人が襲いかかって来た。

翼が生えているその獣人は、アイベルクの攻撃が届かない場所まで逃げてしまう事も今の様に可能である。

おまけに、その獣人はナイフを懐に仕舞い込んで背中に背負った弓を取り出す。

こうなったらこっちも空に向かって飛んで行く事が出来る装備が無ければ、幾ら格闘術に優れていても

勝ち目は文字通りゼロパーセントなのだ。

地球で言えば空を飛ぶ事が可能な、リュック型の飛行装置のジェットパックを背負った敵を銃器類無しで

如何にかしろと言われている様なものである。


この世界に移動して来る前のアイベルクは演習時間外だった為に、武器の携帯は余程の事が無い限りは

許されていなかった。

そんな制限があった以上、礼服と言う事もあって当然拳銃なんか持っていない。

だから空からも地上からもコンビを組まれて攻撃されてはアイベルクも成す術が無かった。

(どうにも出来ない!)

絶望感がアイベルクの頭を支配する。

自分はここでこのままむざむざと殺されてしまうだけなのだろうか?

騎士団の連中は先程よりも敵を制圧している様だが、まだ時間がかかりそうだ。

そう考えてみると、この襲撃者達は騎士団と同等レベルの腕前を持っていると言う事になるとアイベルクは歯ぎしりする。

(実力を見誤っていたのは私だったか……っ!!)

「実力」は個人の力だけでは無い。団体の全ての力も立派な「実力」である。

その事実を見誤っていたと今更ながらに気が付いてももう手遅れ。

この劇的に不利な状況を、自分で乗り切るしか生き残る道は無いとアイベルクは判断。

足のロープをさっきほどいていなければ今の自分は生き残っていなかっただろうと身震いしつつ、縛られた両手のロープも

何とかほどきたいと考える。

でもまた何処かにこすりつける方法では、そのほどいている間が大きな隙になってしまう。

仕方が無いので、今は両手首を縛られたこの状態のまま戦うしか無いのだった……。


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