A Solitary Battle Another World Fight Stories 6th stage第14話
この場所には自分から望んで戦いに来ている訳では無いアイベルクは、自分のするべき事を
すぐには頭の中で纏められない。このまま迂闊にあの戦いの中に身を投じれば死んでしまう可能性が高い。
だけど、黙ってここで見てて良いのだろうか?
軍人は国民を守る義務があるのでは無いのか?
うーんと悩むアイベルクだったが、最終的にこの結論に達する。
(待て……別に私はこの帝国の人間では無い訳だし、それにあのセバクターと言う男を始めとした
あの連中も軍人と言う事になるよな)
それに、こう言う未知の生物との戦いに関してはセバクター達の方が知っているだろうから、今さっきの様に
自分が襲われたりでもしない限りは自分から手を出さない方が余計なトラブルを巻き起こさなくて済むだろうと
言うのがアイベルクの考えだった。
だからこそ、アイベルクは遠目にその騎士団の戦いを見守るだけであった。
その中で、今の自分が見ているこの光景や自分の耳に届いている音は現実のものであると再認識する。
同時に、得体の知れない不安感がアイベルクの心に襲いかかる。
(……まさかと思うが、これは私を騙す為の壮大な作り話では無くて……)
かなり大掛かりなドッキリ番組が放送されていると言うのは他の将校達の会話を食堂で耳に挟んだ事がきっかけで
知っているのだが、バラエティ番組のジャンルをアイベルクは全くと言って良い程見ないので実際にそんなドッキリを
自分がかけられてしまったのかと思っていた。
だけど馬車に乗せられた時からだんだん違和感を覚え始めた彼は、この突然の襲撃によってその違和感を
確信に変えて行く事となる。
そう、これはドッキリ番組なんかじゃ無いと言う事。
今目の前で繰り広げられているこの光景が起こっているのは、自分が38年間ずっと過ごして来た「地球」上の
光景では無いのだと。
そんな地球上の光景では無い目の前の惨劇に対して、これからどうするべきかを他人事の様に考えているアイベルクの目に、
誰かが武器を構えて走って来るのが目に見えた。
(……敵か!?)
少なくとも武器を構えて走って来る時点で、自分に対しては友好的な存在では無いのが確かだろうとアイベルクは
考えながら迎撃態勢を取った。
「やあああああっ!!」
「……えっ?」
声の主からするとどうやらそれは女らしい。
その女が構えて向かって来るのは大きな……斧?
さっきの獣人が使っている斧とは長さが全然違うので、女の腕力では振り回すのも一苦労だと頭の片隅で考えながら
アイベルクは身構えた。
「ふんっ!!」
息を吐きつつ、女は自分の背丈以上もありそうな長い斧を振り下ろして来た。
普段は女に対しては紳士的な態度を取る事で有名でもあるアイベルクだが、こんな状況下でそんな事は絶対に出来ない。
そう言う事をしたら自分の命が無くなってしまうからだ。
戦場ではレディファーストよりも当然自分の命の方が大事なので、アイベルクは斧の振り下ろしを横に避けて回避。
しかし女はその斧を上手く使ってアイベルクに追撃を仕掛けて来る。
振り下ろしてからすぐに横に斧をぶん回し、更に斧の頭で突き攻撃や遠心力を利用した素早いコンボ等を見せてくれる。
だけどアイベルクの得意分野である徒手格闘程のスピードは全然出ていないので、リーチの差にさえ注意すれば
十分に見切れる動きとスピードである。
この女も間違い無く襲撃者の1人の筈だが、この馬車に向かって武器を振り被ってやって来ると言うのは何か理由があるのだろう。
やはり野盗の類だろうか?
金銭目当てだろうか?
だけど、それだったらわざわざ騎士団が運んでいる馬車を狙う必要は無い筈だとアイベルクは思ってしまう。
騎士団と言えば地球にもマルタ騎士団と言う団体があるが、そのマルタ騎士団は戦わない。
だけど中世の地球では国の為に戦う軍隊だったので、今のアイベルクを運んでいるセバクター達の様に「戦いのプロ」で
あった事に変わりは無い。
だからこそもし自分が野盗の立場であれば、騎士団の運ぶ馬車なんて最初から捕まりに行く様なものなので、
絶対に狙わないと考えている。
(騎士団に挑んで勝てるだけの実力を持っていると言うのか?)
確かに条件が揃いさえすれば、セミプロがプロを食ってしまう事もあり得ない事では無い。
けどそれもそうそうある事では無い。
セミプロとプロの間には色々な違いがあって、そう言うカテゴリー分けをされているだけの事はあるのだから。
(それともよっぽどのバカなのか?)
自分の力量を知らないと言う事はかなり危険だ。
それが戦場であれば尚更である。
自軍の力量を把握したその上で敵の力量を見極めなければ、戦場から生きて帰って来る事も出来なくなってしまうだろう。
名ばかりとは言え、高級将校である大佐の地位に存在しているアイベルクはその事をしっかりと分かっていた。
なので、初対面で力量も分からない自分に対して勇敢に向かって来るこの女の力量をまずは見極めるべくアイベルクは
彼女の攻撃をかわし始めた。
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