A Solitary Battle Another World Fight Stories 6th stage第13話


一体何がどうしてこうなったのかと言うのは、馬車の奥に押し込まれていたアイベルクには全く持って理解出来ない。

今の彼が理解出来るのは、自分の命が危ないと言う事である。

「くうっ!!」

ライオン頭で人間の身体を持っている……獣人とでも言えば良いのだろうか?

その襲撃者の斧が馬車の幌を容赦無く切り裂きながらアイベルクに襲い掛かる。

まだ中に彼が乗っているのにも関わらず、だ。

恐らく、その獣人にとっては中にいる人間が生きてようが死んでしまおうが関係無い……いいや、どちらかと言えば

死んでしまった方が気兼ねなく荷物を奪い取れるのでは無いのか? と必死に斧の攻撃をかわしながら

アイベルクは馬車の中を転げ回る。


だけど幌はあらゆる所が切り裂かれてもう既にボロボロの状態であり、このままでは馬車の中に乗り込まれて

殺されてしまうと判断したアイベルクはここで反撃に出る。

と言うよりも、逃げ切れないのであれば反撃をする事。少しでもそれで逃げられる可能性があるのであれば……と

言う願望も含めての行動だ。

ただ単にこれが道端の強盗であれば、アイベルクは財布をおいてさっさと退散してから警察を呼びに行く。

だけど今の状況はまるで違うし、そもそも自分を護衛していた筈の騎士団の人間も外で戦っているのでそちらの対処に

一杯一杯なのが分かっている。

この状況で頼る事が出来るのは自分自身のみ。

だからこそ、今はここで反撃が出来るのも自分だけなのでアイベルクはゴロゴロ転がるその身体をコントロールして、

幌の切れ目を足で蹴り破って拡大させて外に飛び出る。


そのアイベルクの姿を見た斧使いの獣人が襲い掛かって来る。

未だに襲われる側のままのアイベルクには、手首に巻き付いているロープを解いている時間も隙も油断もありはしない。

なのでここは足技と可能な限りの上半身のテクニックだけで勝負するしかない。

「うがあああああっ!!」

鳴き声なのか咆哮なのか分からない声を上げながら、斧を全力でアイベルクに向かって振り下ろす獣人。

しかしアイベルクにはかわせないスピードでは無いので、右に身体をずらして回避しつつ回し蹴りで獣人の顔面に

スピードの乗った足を叩き込む。

「げへ!?」

獣人から変な声が漏れるが気にしてはいられない。

気にしていたらそれは隙になってしまうので、アイベルクにとっては命取りだからだ。


その隙を見せない為に、獣人の顔面に回し蹴りを食らわせたアイベルクは立て続けにかかと落としを食らわせる。

バレエダンサー位まで足を高く振り上げ、そこからそれこそ獣人が斧を振り下ろす様なスピードでその獣人の脳天目掛けて

かかとを振り下ろす。

「げゃっ!?」

発音に困る様な奇妙な声が再び聞こえ、ドサッとアイベルクの前に獣人が意識を失って倒れ込んだ。

「はぁ……」

一息つきたい所ではあるものの、未だに大乱闘は続いている様子だ。

だけど自分があの中に飛び込んでも足手纏いになる可能性が高いし、騎士団なら騎士団らしく戦いのプロに

任せておくべきだと思っていたのもつかの間。

「きしゃあああああ!!」

「えっ?」

再び馬車の陰から、今度は狼の頭をした獣人が姿を見せて躍りかかって来る。右手には鋭く光る

鉤爪(かぎづめ)を装着している為、この地面に今しがたノックアウトさせたライオンの獣人とはスタイルがまた違う。


「ちっ!」

舌打ちをしつつ横っ飛びからのローリングで奇襲を回避し、自分の身を守る為に立ち向かおうとするアイベルクだが先程の

ライオンの獣人よりも装備が軽いせいか、あるいは狼の性質なのか動きが速い。

見切れない訳では無いのだが、それでもアイベルクに反撃のチャンスを与えてくれそうに無かった。

それでもこのまま逃げ続けるだけでは力尽きて殺されてしまうだけなので、アイベルクはどうにかこの状況を打開出来る

方法は無いものかと周囲を窺う。

「く……っ!」

だったらこっちは身の周りの場所を最大限に生かすだけだと決意し、さっき自分が閉じ込められていた馬車の中へと逃げ込んだ。

「じゃあああっ!!」

耳障りな鳴き声が自分の耳に届くのをアイベルクは顔をしかめて鬱陶しく思いつつ、自分を引きずり出そうと

幌に向かって突き立てられた鉤爪の姿をその目で確認する。


「ぬん!」

鉤爪ごと腕まで貫通して来たので、アイベルクは縛られたままの両手でその腕を掴んで全力で獣人を引っ張り込む。

「ぐ、ぐがっ!?」

予想外の身体に加わった力に獣人は驚きながらも馬車に引きずり込まれ、立ち上がろうとしたもののその顔面に

アイベルクの足の裏がヒットする。

「ぎゃはっ!!」

うつ伏せに倒れ込んだ獣人のその鼻を今度は全力でアイベルクは踏みつぶし、反対側の幌の裂け目から獣人の腕を掴んで

引きずり落とした。

地面に対してもうつ伏せに倒れ込んだ獣人の右手首を思いっ切り踏んでから、その武器を足で外して素手の状態にさせる。

最後に起き上がろうとして来たその獣人の頭目掛けて、ライオン獣人の時と同じ様に全力のかかと落としでアイベルクは

獣人をノックアウトさせるのだった。


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