A Solitary Battle Another World Fight Stories 6th stage第12話
野営地の片付けも終了して、アイベルクの身柄は荷物搬送用の馬車に押し込められる形で
護送される事になったのだった。
(……しかし、この扱いはどうかと思うがな)
逃げられない様に手と足をロープで縛り上げられ、まともに移動する事すらも難しい状態だ。
しかもアイベルクの押し込められた場所は馬車の1番奥。荷物の影に隠れる位置にその大きな身体を
曲げて入れられてしまったので窮屈な状態が長くなりそうなのが押し込められた本人にはすぐに予想出来る。
そんな状況でも、とりあえずは守られているだけマシかとも思ってしまう。
見知らぬ土地で見知らぬ人間達が居て、言葉がしっかりと通じてくれるだけでも良かったのだから。
でも、手を後ろ手に縛られてしまったのは結構きつい。
(前に手を移動させようと思えば出来ない事も無いのだが、この狭いスペースでは厳しそうだ)
身長があると言うのも時にはデメリットになると言う事を、今のアイベルクは身を持って知る羽目になっていた。
しかも馬車には窓すらついていないのでかなり暑い。
ガタガタと揺れているので舗装されていない路面状況なのは分かるのだが、それ以外の事は一切目に入って来る
情報が無い以上、外の状況を把握する事は出来ないのだ。
そんな外の状況を窺い知る事が出来ない状況の中だと、幾ら冷静沈着な性格のアイベルクであっても恐怖と
不安が襲い掛かって来る。
「見えない」と言う事はかなり恐ろしい状況である。
これは性格云々の話では無く、人間が持っている本能がそう感じる様になっているから仕方が無い事なのだ。
ガタゴトと揺れる馬車、押し込められている苦痛、そして外の見えない状況と言うトリプルコンボでアイベルクは
輸送されているのだが、その彼を突然の衝撃が襲った。
「ぬおっ!?」
明らかに地面の揺れとは違う類の大きな衝撃が車輪から荷台に伝わる。
いや車輪では無くダイレクトに荷台に伝わったと言う方が正しいか、とその状況でもアイベルクは何処か
冷静に分析していた。
それと同時に外から騎士団員達の怒声、それに合わせて人間のものでは無い鳴き声や足音、更には争う音が
アイベルクの耳にもはっきりと伝わって来る。
(何だ……一体何が起こっている!?)
外の状況が分からないと言うのはこう言う事だ。
音と気配から察するに、人間では無い「何か」に騎士団が襲われたと言うのは理解が出来る。
だがその「何か」がどう言う敵なのか、どれ位の数で襲って来ているのか、どれ程の強さなのかと言うのは全く分からない。
(とにかく、状況を把握しなければ!)
むやみに外へ出るのは危険であると理解しつつも、外の状況を把握せずにこの場でじっとしていれば、訳が分からない内に
自分の身に被害が及ぶ可能性だって無きにしも非ずと言う可能性もあるのだ。
なので、アイベルクはズリズリと身体を動かして何とか広いスペースに移動する。
そこから柔らかいその身体を活かして、後ろ手に縛られている両手を身体の前に持って来る事に成功した。
これだけでも随分と移動が楽になる。
更にその前に移動させた両手で、今度は自分の足を縛っているロープを外しにかかる。
手袋をはめたままでは作業がしづらいので、口で手袋を咥えて外してからロープを解きにかかるが……。
(ぬっ……固く結ばれているな)
アイベルクは別に手先が不器用と言うレベルでは無いのだが、それでもこのロープを解くのは難しいと判断。
仕方が無いので、手近な荷物の側面にそのロープをこすり付けて摩擦で緩める方法を取った。
ロープは意外と脆い。
50回も上下に足を動かしていれば、ロープが緩んでくれたのでアイベルクは今度こそ手でロープを解く事に成功。
これでやっと外の状況が確認出来ると思いつつ、白い手袋を再びはめたその両手で馬車の荷台の幌を開けて
そっと外の様子を窺った。
そこはまさに「戦場」と呼ぶに相応しい光景が広がっていた。
「……なっ……」
確かにアイベルクも戦場には何回も出て来ているし、実際に戦った経験だって1度や2度と言う訳では無い。
しかし、今の目の前で繰り広げられている「戦場」の光景はどう考えても人間では無い相手を含む集団に
襲われている騎士団員達であった。
身体は人間と同じ2足歩行なのだが、頭部は遠目でも分かる位に異形……地球では大昔に絶滅したとされている筈の
恐竜の頭部に間違い無い。
それ以外にも同じく頭部が狼だったりワニだったりと、地球ではあり得ない光景がその「戦場」には広がっていたのであった。
そんな光景に悪い意味で目を奪われていたアイベルクは、馬車の死角から近づいて来るライオンの頭部をしている
2足歩行の生き物に気がつくのが遅れてしまった。
「うらあっ!!」
「っ!?」
斧の鋭い軌跡が、アイベルクの頭があった場所の空気を切り裂いて通り過ぎて行く。
咄嗟の判断で馬車の中に身を引っ込めて間一髪で済んだものの、それはアイベルクもまたこの「戦場」の中に身を投じて
戦わなければならないと言う事を身を持って教える事になるのだった。
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