A Solitary Battle Another World Fight Stories 6th stage第11話


「……ああ、それはムエタイ……だな」

アイベルクの指摘にセバクターは彼の方を向いたものの、セリフを言い終わるまで若干の間があったのが気になった。

「ムエタイと言うのか。だが、今の言い方だと確信し切れていない様だが?」

アイベルクは自分の心を見透かした様なセバクターの問いかけに対し、素直に驚きの言葉を口にする。

「ほう、分かるのか?」

「言葉の歯切れの悪さを見れば何となく……だが。それで、どうなんだ?」

別に嘘をついても何もお互いに得はしない為、素直にアイベルクは答える。

「私の知り合いの軍人が使っている武術の名前が「ムエタイ」と言うのだ。しかし、そのムエタイは近代になって

新しく生み出された、いわば競技としてのムエタイ。古代の戦士達が戦場の徒手格闘で使用していたのが「古式ムエタイ」。

今の構え方はその古式ムエタイのポーズに似ているな」


実際、アイベルクもその軍人から今のムエタイと古式ムエタイの構えをそれぞれ見せて貰い、その2つが違うポーズに

なっている理由まできちんと説明して貰った経験がある。

「そうなると、その男はその古式ムエタイの使い手だったと言う事になるのか?」

セバクターはアイベルクに問いかけてみたが、そう言われてもアイベルクは実際にその男とバトルした訳で無いので返答に困ってしまう。

「さぁ……実際にその男と対峙してみなければ私は分からないな。だが、もし古式ムエタイの使い手だったと言う事であれば、

私がやって来た世界と同じ世界から来たか、それとも別の世界から来た人間が似た様な武術を習得していたか、

この世界独自の武術が何処かで発展し、それがムエタイに似た構えやテクニックになって行ったか、位しか思いつかんが」

アイベルクは自分の頭で思いつく限りの予想をしてみる。

しかし、3番目の可能性に関してはセバクターは否定した。

「最後の予想は……やはり魔力が無い人間と言うのは考えられない。そう言う体質の人間が生まれ育った等と言う事を

俺は聞いた事が無いからな」

「そう……か……。しかし、もしかしたらあんたが知らないだけでこの世界の何処かに居る可能性もあるかもしれない。

この世界の人間では無い私が言っても説得力は薄いだろうがな」

「……」


そこまで言われると、セバクターは自分の心の中に疑問を生み出さざるを得なかった。

一国の騎士団長であるとは言えども、世界の隅々まで見て回った訳では無い。

まして、その魔力を持たないムエタイ? 使いの人間を捜索したのはあくまでこの帝国の中の話にしか過ぎないと言う事も、

生み出されたその疑問に拍車をかける結果になった。

「分かった。その可能性も視野に入れておこう」

今の話をアイベルクは自分の言葉で纏めてセバクターに伝える。

「つまり、そのムエタイらしき武術の使い手が武術大会であんたを負かした。その後に町で再会し、後を追いかけてみたら闘技場へ

忍び込んだのが分かった。更に一悶着あって、男はあんたを退けてその地下の部分から姿を忽然と消してしまった。これで合っているか?」

「ああ、それで間違い無い」


セバクターが頷くのを見て、アイベルクは続けて心の中に浮かんだ疑問を吐き出し始める。

「その忽然と消えてしまったと言うのが引っかかるな。この世界には魔法があるらしいが、その魔法の種類の中で違う場所に

一瞬でワープ出来る様なものがあったりするのか?」

もしそうだったら、その男がそう言う魔法で姿を消したと言う事も考えられる。

ちなみに魔法の知識に関しては、知り合いに誘われて映画館に見に行ったファンタジー映画からの知ったかぶりでもあった。

その知ったかぶりの知識で問いかけるアイベルクに対して、今度はセバクターが答えに困ってしまう。

「いいや、俺にはさっぱり分からん。俺は魔術が使えないから、魔術の事は魔術の出来る奴に聞いてみるしか無いだろう」

その発言からすると、どうやらそう言う知り合いがセバクターには居るらしいとアイベルクは予想した。

「そして、私も実際にそこの地下に行くべきなのだろう?」

「そうだ。何かヒントが得られるかもしれない」

実際にそれで魔力が無い人間の手掛かりが少しでも得られるのであれば、アイベルクとしても付き合わない理由は無い。


「それでは、これから昼食を摂って帝都に向かうぞ」

「えっ? もう?」

もう少し遅くなるのかと思っていたのだが、意外と早いこの行動にアイベルクはきょとんとした。

「当然だ。陽が沈めばそれだけ野盗や魔物が出て来る可能性が高くなるからな。ここに陣を張っていたのは今日の早朝からだし、

魔力が無い人間をこのまま何時までも城に連れて行かないと言うのは無理な話だからな」

「……分かった。手荒な真似だけはしないで欲しい」

「出来る限り約束しよう」

しかし、その約束が守られるかどうかは貴様の出方次第によるからな」

セバクターのそのセリフには、ほぼストレートの意味合いで「貴様がもし逃げ出したり抵抗したりするならば、こちらもそれなりの

対応をさせて貰う」と言うものを当のアイベルクは感じ取るのだった。


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