A Solitary Battle Another World Fight Stories 6th stage第10話
「その武術大会が終わった後、魔力を持たない格闘戦で優勝した男は姿を消した。
トイレに行って来る、と言い残して表彰式に現れなかったんだ」
「……それきりか?」
「その時までは俺もそう思っていた。現に闘技場にはその後姿を見せなかった訳だからな」
でも……とセバクターは足を組み替えて続ける。
「その夜の事だった。俺は武術大会の後片付けをして城に戻ろうと帝都を歩いていた時の事だったんだが、
曲がり角を曲がった時にその男とぶつかりそうになったんだ」
「……いきなりか?」
今度は無言で頷くセバクターに対して、アイベルクは自分のストレートな感想を述べる。
「何か、縁が無いのかあるのか良く分からないな」
それにしても、その男は何故闘技場から姿を消したのだろうか?
そして、何故夜の帝都で出会う事になったのだろうか?
その疑問をそのままセバクターにぶつけてみるアイベルクには、セバクターから戸惑いの色を含んだ回答があった。
「それが俺にも理解出来ない。しかし、恐らく男は闘技場の地下に隠されている秘密を何処かで知ったのかもしれない」
「闘技場の……秘密?」
何だそれは、と思わざるを得ないアイベルクの心境が欲しがっている説明を、これからエスヴァリーク帝国の
騎士団長がしてくれる様である。
「帝都に着いたら貴様にも一緒に見に行って貰う事になるが、我がエスヴァリーク帝国の帝都ユディソスの闘技場の
地下には古代の遺跡らしき場所があってな。騎士団の上層部や王族関係等の限られた人間しか知らない筈だったのだが、
一体何処から情報が漏れだしたのかさっぱり分からなかった。……その時はな」
「なら、今は分かっているって事か?」
「少しではあるが情報を得られた。その男はエスヴァリーク帝国中を旅していた人間らしくて、色々と情報を集め回って
最後にユディソスに流れ着いたと言う話をあちこちの町や村から得られた。少々荒っぽい言動だったとの証言があるものの、
住民が困っていれば進んで助けてくれる様な人間だったらしい」
「成る程な……」
だとしたら、それなりに気配りが利く男なのかもしれないとアイベルクは予想した。
「その男が色々と情報を集めていたと言うが、どんな情報を集めていたかまでは聞いているか?」
セバクターは首を縦に振った。
「ああ。それは俺も気になっていた事だったからな。口を揃えて町や村の住人達が証言したのは、どうやら「地球」と言う
世界についての話だったらしい」
「地球だと……!?」
その瞬間、アイベルクの顔に明らかに驚きの表情が浮かぶ。
冷静沈着で、感情を表に出さないタイプの寡黙な高級将校がこれ程までに表情を表に出すのは珍しい事なのだ。
そうとは知らないセバクターは、その驚きの表情に対して訝しげな表情を見せる。
「やはり貴様も、地球に帰りたい人間なのか?」
「……そうだ。隠しても何時かはあんたに話す事になっていたかも知れないからな」
それは一旦さて置いて、その地球からやって来たかも知れないと言う男とセバクターが何故もう1度戦う事になったのかが
今の話の主題だったので、ここで話のレールを元に戻して行く2人。
「そして、その男とぶつかりそうになった後に戦う事になったのか?」
「そうだ。でもそのぶつかりそうになった時では無くてその後の話だ。話す時も何処かしどろもどろと言う感じだったし、
何か慌てている様子だったから気になって仕方が無かった。だから俺がその男の後をこっそりと尾行してみれば、
その男は闘技場の裏口から盗賊の如く侵入したんだ」
「つまり、闘技場に不法侵入をしたからその男を捕まえる為に……」
「ああ。だが、その男は強かった」
何処か遠い目をしながら、その時の事を思い出しつつセバクターは続ける。
「闘技場の舞台の方に向かった男は何かを探している様子だった。だが不法侵入は不法侵入。俺も騎士団の人間として
見逃す訳には行かなかった。城に来て貰う様に説得したが、男は聞き入れずに実力行使と言う形を取らせて貰う事にした」
「それで戦ったのか。しかし、その口ぶりからすると男はかなりの実力を有していた様だな?」
苦々しい思い出ではあるものの、その男がどう言う男だったかを知って貰う為にはその過去の傷を全てひっくるめて話すしか無い。
ぼかして話せる所は話す様にしてセバクターの説明は続く。
「正式に言えば、その男と本格的に戦ったのは闘技場の舞台の上では無い。一瞬のスキをついて逃げられ、俺でさえも2〜3度しか
入った事の無い地下のその秘密の場所に、男は迷い無く飛び込んで行った」
「その秘密の場所が、その男の探し求めていた場所と言う事になるのだな」
「ああ。でも、その秘密の場所を知られたからにはますます城に来て貰う必要があった。
だが、男は俺と戦う素振りを剥き出しにして拳を構えたんだ」
立ち上がったセバクターは確かこう言う感じだったかな? とファイティングポーズを取ってみる。
そのファイティングポーズを見て、アイベルクの頭の中に1つの確信が出来た。
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