A Solitary Battle Another World Fight Stories 6th stage第9話
「このエスヴァリーク帝国では、1年に4回……季節の変わり目に武術大会が開かれているんだ。
その武術大会で起こった話なのだが、突然現れたその男の戦い方が奇妙なものでな……」
「奇妙とは?」
アバウトな回答では無く、どんな戦い方をしていたのかをしっかりと説明して貰わなければアイベルクは何とも言えない。
その何とも言えない状態のアイベルクに対して、その時に起こった事をなるべく詳しく思い出しながらセバクターは話して行く。
「まず、武術大会では基本的に武器も魔法も個人の自由と決まっている。だから様々な魔法や
武器を使っての試合が見られるのだが、その男は武器を持っていなかったんだ」
「となると、格闘術だけで武術大会に出場したと言うのだな?」
確認するアイベルクに対して、セバクターは静かに頷いて続ける。
「ああそうだ。だからこそ楽な試合では無かった様だが、その男はトーナメントをしっかりと勝ち上がって行ったんだ。
俺も予選を突破して本選に来たと言う時は驚いたが、それ以上にトーナメント本選の戦い方には驚かされた。
基本的には肘と膝を上手く使う試合運びだったな」
この説明だけで、アイベルクは所属こそ違うものの自分と仲が良い年下の海軍将校の事を思い出していた。
(肘と膝を使うのがメインならムエタイの様だが……)
その部下も同じ格闘スタイルだと思っていたアイベルクは、トーナメントを勝ち上がって来た人間の事をもっと詳しく聞いてみる。
「その男の容姿はどれ位覚えている?」
「かなり覚えているぞ。その男はトーナメントを勝ち抜いて優勝し、その後に特別戦で俺と戦う事になったからな」
決勝戦も制して、エキシビジョンマッチと言う事でその男とセバクターがどうやら戦う流れになったらしいのだが、
セバクターまで倒してしまったと言う話をその倒された彼自身がする。
「対峙してみて分かった事は、俺は真剣のロングソードを使っていたのだが……奴は本物の武器を相手にしても全く躊躇せずに
飛び込んで来る男だったと言う事だ。多分、あの男は武器よりもその素手での戦い方で幾多もの修羅場を潜り抜けて来たのだろう」
「そんなにその男は強かったのか?」
アイベルクは本心からそう尋ねてみるが、セバクターは微妙な表情で答える。
「強いか弱いかで聞かれれば、正直に言ってテクニックにはそれ程差は無いと感じた。むしろ、武器を持っている
俺の方が有利な筈だったのだが……素手だと思って何処かに油断があったのかも知れない」
そう言われると、アイベルクはますますセバクターをエキシビジョンマッチで打ち負かしたと言うその男の事が気になって仕方が無い。
「では、その男の特徴とか気になった部分を出来るだけ教えてくれないか。その男には私も心当たりがある気がするんだ」
「本当か?」
思わず身を乗り出して来たセバクターに対し、アイベルクは真顔で頷いた。
「ああ。しかし、もしかしたら団長が言っている人間と私が心当たりのある人間は人違いかもしれないからな。だからその辺りを
ハッキリさせる為に詳しく教えて欲しいんだ」
セバクターはそのアイベルクの願いに対して、先にその心当たりがあると言う人物を誰か言って貰う。
「分かった。だけど先に、その心当たりがある人物が誰かと言う事を言って貰ってからだ」
「私と同じガラダイン帝国軍に所属している仲の良い友人だ。所属が違うから私の直接の部下では無いのだが、
長い付き合いのある男でな。その男も、さっき言っていた戦い方に良く似た戦い方をする男だから、もしかしたら……と思ってな」
「ふうむ、成る程な。だったらこちらも話すしかあるまい」
セバクターはそのアイベルクの心当たりがあると言う人物の説明に対して納得した表情を浮かべ、自分があの時にバトルした
男の容姿を語り始めた。
「顔立ちは少しやんちゃなイメージだったが、シワの浮き具合等を見る限りでは明らかに俺よりも年齢が上だったな。
身長も俺より低かったから、貴様から見ても間違い無く低い筈だ。後は髪の色が確か茶色……濃い目の茶色で
目の色が黒だった。髪の毛はオールバックだったが、若干オールバックが崩れている感じだった」
「……確かに良く覚えているものだな……余程その男に対して執着していると見える。それとも、何か別の理由があって男を探しているとか?」
そのアイベルクの疑問に対してセバクターの目が泳いで表情が動揺し……てはおらず、むしろ今の男に関する情報を
話し始める前と同じ様に真顔で頷いた。
「ならば自分の恥を晒す事になるが、これも話しておいた方が良いだろう。その男と俺が戦ったのは、実はその武術大会の時だけじゃ無いんだ」
「そう……なのか?」
ならば一体何時戦ったのだろうか? その男とセバクターは、それ程までに因縁がある者同士と言う事になるのだろうか?
ここまで来たら聞き出せるだけの事を聞いておかなければ、今のアイベルクは納得して一緒に帝都に行く事は出来そうに無かった。
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