A Solitary Battle Another World Fight Stories 6th stage第6話


そのまま歩かされる事、アイベルクの体感時間でおよそ20分。

やっとの思いで出口から外に出たアイベルクは、薄暗い場所から直射日光の照り付ける場所に

出て来た事で思わず目を強く閉じたり開いたりして光に目を慣れさせる動作をする。

更に黒1色の軍服であるが故、その直射日光をグングン吸収してしまう性質を持っているとなれば

上着だけでもまずは脱がせて欲しい所である。

(略装で過ごすべきだったか……)

各国の大佐以上が出席する事を義務付けられている会議があった為に、アイベルクもまたそれなりの

格好となる礼装で出席しなければならなかった。

そしてこの格好のままデスクワークに励んでいたのが、今となっては動きにくさと言うデメリットになって

アイベルクに苦痛をもたらしているのだ。


でも、アイベルクを連行している自称帝国騎士団長の男はそうはさせてくれないらしい。

「上着だけでも脱がせて貰えないだろうか。暑いし動きづらいからな」

「断る。服の下に武器でも隠されていたのではかなわんからな。これから俺と一緒に馬に乗っていれば、

風で少しは暑さも和らぐ筈だが」

どうやら、自分の様な不審人物の申し出はこの男にとっては却下の対象になるらしいとアイベルクは思った。

仕方が無いのでこれ以上自分から何かを言うのは諦める事にして、今は素直にこの男に従った方が得策だろうとの

判断をアイベルクは頭の中で下した。

そんなアイベルクを引き連れて、自称騎士団長のセバクターは洞窟の近くの木に繋げてあった自分の馬に向かう。

「乗れ」

割と大きめであり、灰色の毛並みが特徴的なその馬に乗るには少し高さがあるのだが、そこは鍛え抜かれた

強靭な足腰を駆使して身軽な動きを見せるアイベルク。


(ほう、身体の使い方は分かっているみたいだな)

そのアイベルクの身のこなしを見て、セバクターはこの男が素人では無いと心の中で直感する。

素人であれば馬に乗る時も躊躇や恐怖と言う色々な感情によってあたふたするものなのだが、アイベルクは躊躇せずに

馬の背中に身軽に乗った。

(乗馬経験があるのかも知れないな)

実の所で言えば、アイベルクは乗馬の経験はまるでゼロ。

しかし、ここで躊躇していても仕方が無いと判断した彼はさっさと馬に乗ってしまう事を決意して乗った。

ただそれだけの話である。

軍に入る以前から、ただ馬の背中に乗るよりもずっと恐怖心を伴う位の競技の世界に身を置いて来たアイベルクにとっては、

馬に乗る事には微塵も焦りを感じなかったのだ。


そんなアイベルクの身のこなしに内心で少し感心しつつも、まだこの男が味方か敵なのかどうかも分からないので、

セバクターはアイベルクを抱え込む様にして馬に乗ったのだが……。

(でかい……)

180cmの自分よりも少しだけ、ほんの少しだけ大きなアイベルクの身体を抱え込むと言うのはさすがに無理がある事に気がついたセバクター。

「少し屈んでくれないか。前が良く見えん」

「あ、ああ」

だったら最初から自分を後ろに乗せれば良かったんじゃ無いのかと思いつつも、窮屈なこのスペースでアイベルクは最大限に

自分の身体を丸めてセバクターの視界を確保する。

視界を確保された側のセバクターは気を取り直して馬を走らせ始めたのだが、何とも奇妙な感覚だ。

(魔力が無い人間の身体が密着する程こんなに近くに居ると言うのは、俺でもさすがに経験した事が無い。魔力を感じられないと

言うのはこれ程までに不思議に感じるものだったのか)

物凄く複雑な気分になりつつも、怪しい人物であれば取り調べに連れていかなければならないのが自分の任務なのだから仕方が無い。


そんな複雑な気分を抱えたまま、セバクターは馬を走らせながら以前に出会った魔力が感じられない男の事を思い出していた。

あの時……闘技場のエキシビションマッチとその後の地下の両方で自分を打ち負かして、最終的には見た事も無い変則的な

素手の戦い方で自分を気絶させて逃げ切ってしまったあの男。

あの時から結構な時間が経っているが、未だにあの男の行方は掴めずじまいである。

分かっている事と言えばまず、さっき洞窟の奥で捕らえて連行している見慣れぬ格好の男と同じく魔力が一切感じられない事。

それから自分よりも明らかに年上だと分かる位に外見年齢が老けたものである事。

毎年、帝国内だけで無く周辺国からも腕に覚えのある者がエントリーして来る程の強豪揃いのエスヴァリーク帝国の武術大会において、

あろう事か一切武器を使わずに素手の戦い方だけでトーナメントを駆け上がって優勝した事。

最後に、自分との戦いにおいてまさかの自分が敗北する結果を作り上げた謎の男……。

もしかしたら、この魔力が感じられない人間の事を調べて行けばその時のその男に辿り着ける可能性があるかも知れない。

そう思うセバクターは、絶対にこの男を帝都まで連れ帰ってたっぷりと尋問してやろうと心の中で決意する。

(貴様がもし逃げ出そうとするのであれば、両足をへし折ってでも城まで連行させて貰うからな)

心の中でそう宣言したせばクターのその心が、無意識に愛馬のスピードをアップさせるのだった。


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