A Solitary Battle Another World Fight Stories 6th stage第5話
そんな礼節を欠く様な相手が嫌いなアイベルクに対して、男は武器を突きつけたままではあるが
どうやら素直に話してくれるらしい。
「ああ……そう言う事か。俺はエスヴァリーク帝国の帝国騎士団長、セバクターだ」
「帝国騎士団長……何かのイベントか何かなのか?」
別に馬鹿にした訳じゃ無く、今の自分が思った疑問そのままにストレートに問いかけてみたアイベルクだったが、
セバクターと名乗ったこの男の反応は違った。
「イベントなんてある訳無いだろう。そもそも、イベントって貴様は一体何の話をしているんだ」
「君の格好の話だ。そんな格好、現代の世界じゃ絶対にありえない。あるとすればそれこそイベントか
何かの特別な時でしかしない様なコスチュームだからな」
そこで一呼吸置き、さっきセバクターに言われた事と同じ様な事をアイベルクは口に出す。
「それに、私の方こそ君の言っているエス……何とかと言う帝国は聞いた事が無いんだ。
少なくともヨーロッパの中の国は全て知っていると自負しているが、新しく出来た国家……なのか?」
ヨーロッパの全ての国の事を一通り頭に入れている筈のアイベルクでさえ、エスヴァリークと言う名前の
国は聞いた事が無い。人物の名前とは違い、国名からでは地球の何処の地域に当たるのかが
判別出来ないのでヨーロッパでは無いのかと予想する。
だが、目の前に居るこのセバクターと言う男の格好はそれこそ中世の頃のヨーロッパで良く見かけた
戦闘スタイルの装備だ。だから可能性としてはやはりヨーロッパの何処かに存在している国か、あるいは
そう言う格好をして楽しむ様なイベントに参加している人間の線がアイベルクの予想では濃厚である。
そんなアイベルクの予想だったが、セバクターの表情は至って真剣。
(そこまでして役になりきらなければならないものなのだろうか?)
イベントや仮装パーティ等は知らない訳では無いものの、軍の中で行われるそうしたイベントでも立場上
チラリと少しだけ顔を出してからすぐに引き上げてしまう為、割と疎い部分があった。
だから、この目の前で未だに自分に武器を突き付けているセバクターの表情に戸惑いを覚えるのは
ごく自然の流れであると言えよう。
そんなごく自然の表情と思考をするアイベルクの問いかけに対し、セバクターは更に目つきを鋭くして否定的な答えを言う。
「馬鹿な事を言うのも大概にしろ。我がエスヴァリーク帝国は世界各地にある大小20の国を統治している、長い長い歴史を
持っている由緒正しき超巨大国家なのだ。魔力が無い事もそうだが、どうやら貴様はこの辺りの人間では無さそうだな。
不法侵入の件もじっくりと話を聞かせて貰わなければならない。何が何でも帝都ユディソスのフィランダー城まで来て貰うぞ」
何だか話が噛み合っていない様だと言うのがアイベルクは分かったので、ここは大人しく連行された方が良いと判断した。
「分かった、君に着いて行く。そのユディソス……とやらは一体どの位の時間が掛かるんだ?」
「ユディソスはここから馬で3日かかる」
「馬?」
何で馬なのだろうか?
アイベルクが知識として取り入れている中で、馬を使って移動するのはモンゴルの草原を住所にしている民族だったり、
競馬場のジョッキーだったり乗馬が趣味の人間だったりと言う存在位のものである。
普通だったらそれこそ車とか、そんなに離れているのであればヘリコプターを使うとか色々あるだろうと思った
アイベルクだったが、この男に迂闊な事を言うと何をされるか分からないのでここはまだ黙っている事にする。
だけど、大きな疑問としてアイベルクの頭にインプットされたのは間違い無い。
そんな大きな疑問を抱えたアイベルクの手首を後ろ手にロープで縛り上げたセバクターに、まるでリードに繋がれた
犬の様に若干手荒に連行される。
正直に言ってこの縛り方でこうして連行されるのはきついものがある。
一方で、セバクターはアイベルクの様子を余り気にする素振りは見せずに何かを呟いていた。
「まさかこんな場所で再び、魔力が無い人間に出会えるとは……」
この洞窟の中は静まり返っているし、アイベルクは黙って着いて行く状況なのでその呟きも連行されているアイベルクの耳に届いていた。
(さっきから魔力が無いだの、2度目だのとは……一体、私を連行して城に連れて行ってからどうしようと言うのだ?)
疑問は尽きそうに無い。
何でこんな場所に居るのか?
何で連行されなければならないのか?
そもそもここは一体何処なのだろうか?
元を辿っていけば、自分が包まれたあの倉庫の横の光。あれは一体何だったのだろうか?
軍人だと言っても世の中に分からない事なんて沢山ある。
大佐だと言えども自分が理解出来ない分野だって山程ある。
だったらその分からない事、理解出来ない事はこの先で分かる様になれば良い。
しっかり理解出来る様にすれば良い。
だけどもし、自分を罠に嵌める様な事があるのならその時は全力で抵抗するまでだと思いつつ、アイベルクは薄暗い
洞窟の中を歩かされて行った。
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