A Solitary Battle Another World Fight Stories 6th stage第4話


アイベルクは近づいて来る足音に対して警戒心をキープしたまま近づく。

そして、その足音の主が視界に入った。

「……んっ?」

「……は?」

アイベルクがエンカウントした足音の主。

それは、そう言う世界観に疎いアイベルクでさえも一目見て理解出来る程にテンプレートな

格好をしている男であった。

何故格好や性別が判断出来たのかと言うと、その男はたいまつを持っていて炎の灯りで薄暗い中でも

移動出来る様にしていたからである。

その男の格好はいかにも中世のヨーロッパの物語に出て来そうな肩当てや胸当て等と言った装備にプラスして、

腰にはロングソードをぶら下げている、良く言えばそう言う格好をするのが趣味の人間かもしれないと言う認識であり……

悪く言えば動きにくそうだし重そうだしどう考えても時代遅れのイメージは拭えないものとしかアイベルクには言い様が無かった。


余りに時代錯誤な男の格好に一瞬戸惑いを見せたアイベルクに対して、更に戸惑いを生み出すアクションを男が起こす。

「貴様、何者だ。何故この様な場所に居る? 答えろ」

腰のロングソード……はこの狭い洞窟内ではまともに振り回せそうに無いと判断したのか、腰の背中側から右手で

ショートソードを引き抜いてアイベルクの首筋に右手1本で寸分の狂い無く突きつける。

当然、アイベルクはこんな事をされるいわれは無い。

さすがに頭が混乱して状況がまるで呑み込めないながらも、ここでパニックになってはますます自体が泥沼になって行くだけだと

悟って何とか持ち前の冷静さを発揮して自分の置かれている状況を説明する事にした。

「わ、私は軍人だ。ヴィサドール帝国陸軍所属のアイベルク。階級は大佐だ。この奥の突き当たりに光が差し込んでいる場所があるのだが、

そこに気が付いたら私は横たわっていた。その前に私は倉庫の近くで謎の光に包まれて、そして起き上がってここまで歩いて来た」

若干パニック状態で話に纏まりが無い様な気がしているが、自分自身では嘘は言っていない筈だと頭の中で整理しながら

アイベルクは自分の今までの経緯を男に話した。


だが、男から返って来た言葉はアイベルクにとって全く予想外の物であった。

「何を言っているのかさっぱり分からん。まず、ヴィサドール帝国と言う国は聞いた事も見た事も無い。それからここはようやく

最近になって存在が確認された山の中の遺跡だぞ。転送陣等設置出来る場所では無い筈だし……」

そこまで色々と言っていた男の口が急に止まる。

「……どうした?」

「貴様、魔力が無いのか?」

「は?」

いきなり魔力と言われても、一体この男は何を言っているのかアイベルクの方こそさっぱりだ。

そもそもこの男のこの格好は一体何なのか。

魔力なんて言葉は現代の地球で普通に生活していてもしていなくてもまず出て来ない言葉であるとアイベルクは思っている。

(新興宗教の類か? それとも現実と妄想の区別がついていないサイコパスなのか?)

どっちにしても、人間的には余り関わり合いたくないタイプである。

男の身長はアイベルクよりも少し低いみたいで、体格で言えば自分の方が有利な筈だと思っているが、武器を持っているのが

大逆転の要素である事に違いは無いとアイベルクは判断。

ここは大人しくしておけば良いと思い、男の出方を窺う。


しかし次の瞬間、男は意味深な発言をする。

「これで2人目か……」

「え?」

「魔力を持っていない人間がこうして俺の前に現れたのは2人目だ。前の人間には逃げられてしまったが、

貴様は絶対に逃す訳にはいかないのでな。俺と一緒に城まで来て貰うぞ」

「城まで……って、君は何をさっきから訳の分からない事を言っているんだ。そもそも君こそ何者だ。私の事ばかりでは無く、

そっちの事も知っておかなければ私も素直に着いて行く気にはなれないのだがな」

一方的なこの男の言い分に、アイベルクもさすがに我慢の限界が訪れる。

城に連れて行くなんて、カボチャの馬車に乗せられたシンデレラでもあるまいしとアイベルクは思いながらも男の身分や正体を話す様に求める。

知らない人間にホイホイと着いて行くのは絶対に駄目な事なんて、子供でも知っている世の中の常識なのだから。

もし、男がそれを拒否して無理矢理にでも自分を連れて行こうとするのであれば、アイベルクだって軍人なのだから抵抗させて貰う事を決める。

そもそもこうして武器を突きつけられている時点で、自分には正当防衛が成立するのだから過剰防衛にならない範囲で反撃しても良いのだ。

明らかな不審人物ならばまだ分からないでも無いが、アイベルクはただ歩いていただけ。

初対面の人間に対してこうして武器を突き付けている時点で失礼。

思い込みで犯罪者に間違われる事は、本来絶対にあってはならない事である。

あくまでアイベルクが大人しくしているのは、相手が自分に対してきちんとした対応をしてくれればの話。

最低限の礼儀も知らずに、無理矢理実力行使をする様な相手ならば自分だって容赦はしないと決めた。


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