A Solitary Battle Another World Fight Stories 6th stage第1話


数多くの国が、陸地で国境を作っている地球の地域であるヨーロッパ。

ヨーロピアンユニオン、通称EUで共同体を作り上げているこの地域においては、仲が良い国もあれば

勿論悪い国もあるので色々な思惑やしがらみがあると言えよう。

そんなヨーロッパの国々であるドイツ、ロシア、それからその他の2か国の国軍が集まって行われる他国との合同軍事演習。

2016年の11月16日から22日までの、およそ1週間のスケジュールが組まれている。

そんな1週間のスケジュールの中で、他人に話してもまるで信じられない様な経験をした人間が1人生まれるのであった。

「わが軍の成績は……ふむ……」

演習中の自分に与えられた執務室で、途中経過の成績表を見ながらヴィサドール帝国陸軍大佐の

アイベルク・グリスレインは顎に手を当てて考え込む。


現在38歳。大佐にしてはあり得ないと言われる年齢ではあるのだが、それは大佐に任命されている

アイベルク自身が1番あり得ない事だと思っている。

何故なら、自分は望んで大佐になった訳では無い存在だからだった。

そもそも、この年齢で大佐になれる人間は現代の世界各国の軍隊を見渡してみても、それこそ100人居るか居ないかだろう。

昔のヨーロッパであればナポレオン戦争の時に23歳で准将に昇進したダヴー、32歳の陸軍少将オットーは

第2次世界大戦のドイツ軍の軍人だ。

同じく第2次世界大戦のドイツ軍の軍人で、空軍においては30手前で大佐に昇進したパイロットが珍しく無かった時代でもある。

しかし、幾ら実力主義の社会で年齢に関係無く実力のある者が上に行けると言う世界だったとしても、

今の地球は一部の地域を除いて平穏な時代であるのは間違い無い。

なので、そうした戦争があった時の様な昇進については今の様な平時では絶対にありえないと言える。


では、どうしてアイベルクが大佐になれたのか。

それは彼が功績を立てて、それで昇進したからでは無い。

むしろその逆で、少し前に起こった帝国軍の争いで兵士や下士官だけでは無く、上官にまで戦死者が出る様な事態になってしまったからだ。

戦死者が出てしまう様な事態であれば当然軍隊は人手不足になる。

それも上官が戦死したとあればその代役を立てなければならない。

そこで、5年前の33歳の時に少佐になったばかりのアイベルクが大佐になる様にと抜擢されたのである。

佐官の仲間入りを果たしたばかりで、辞退したい気持ちで心の中は一杯だったアイベルクだが上官の命令は絶対の

軍の内部では断れなかったのが実情だ。

そこからの彼は佐官として職務を果たすべく、必死になって部隊を率いる立場の業務を覚えて勉学にも励んだ。

元々頭は悪くない方で冷静な判断が持ち味でもあったアイベルクだが、その後も争いが続いて人手不足の解消が

されないまま争いは終了しても少佐に戻る事は出来なかった。


そして5年の月日が流れ、38歳になったアイベルクは結局大佐のポジションに収まったままどうにか業務をこなせるまでに

自分を磨き上げたのであった。

ただし、これから先15年は大佐から上に行く事は絶対無いらしい。

(まったく、戦時昇進の大佐から戻れないとは勝手なものだな)

普通なら戦時昇進は一時的なものなので戦争が終われば元の階級に戻るのが当たり前なのだが、アイベルクにはそれが

適用されなかっただけの話である。

そんな過去の出来事を思い返しながら、アイベルクは自国軍の途中成績表を机の上において書類の整理を始める。

合同演習だからと言って事務作業が完全に無くなった訳では無いのだ。

それ程までに量がある訳では無い事務作業を終えて、自分も合同演習で色々部下に指示を出していたのでさっさと寝て

明日に備えるべくアイベルクは就寝準備に入った。

成り行きでなってしまったとは言え、大佐の地位についてもう5年のアイベルクにはまだまだやる事が沢山あるので睡眠は大切だ。

ここ最近はこの演習の準備もあってなかなか仕事から離れる事が出来ていない為、少しでも休めるのであれば休んでおきたいのが本音だった。


合同演習の時も与えられている自室でその大事な睡眠の時間を確保するべく、アイベルクは事務作業で終わった書類を

トントンとデスクの上で纏めていた……のだが。

(……ん?)

書類を纏め終わって窓に掛かっているブラインドを閉めようとして窓に近づいたアイベルクのその黒い目に、一瞬だけではあるものの

何かがバッと光った様な物が見えた。

(何だ?)

普段であれば特に何も気にはしないし、今だってそれで気にせずに終わる筈だった。

だけど、そんなアイベルクの目に今度ははっきりと何かが光ったのが見えた。

3階部分に位置しているこの部屋からでも、自分の目にはっきりと見えるその光。

主に写真撮影の際に使われる発光装置であるストロボの様な光だなとアイベルクは思っている。

同時にそう言う光が見えるとはどう言う事なのかをアイベルクは考え始め、そして歩き出した。


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