A Solitary Battle Another World Fight Stories 6th stage第2話


(まさか、何者かが侵入したのか?)

合同訓練が行われる場合、メディアに訓練を公開して取材を受けるのはもはや常識である。

しかし、例えばハリウッドのスターの一部がパパラッチを嫌がる様に合同訓練の中でも公開したくない

情報だって勿論存在している。

それが外交的に余り仲の良くない国のメディアであるのなら尚更の事である。

そして今の様な夜中にこうしてストロボの様な光が見えると言うのは、誰かがその光で撮影をしている可能性があると

アイベルクの頭の中に浮かんだからだった。

不法侵入にプラスして諜報活動も行なっている様な輩が居るのなら、合同訓に参加している国々からは非難の嵐は避けられない。

もしくは、合同訓練に参加している国の誰かが諜報活動をしている可能性もある。

その場合も同じく、そうした活動を行なっていると分かれば次回からの合同訓練に参加出来なくなる確率は非常にアップする。


そんな光景を目撃してしまったアイベルクは、そうした可能性があると思い歩き出して光の元へと早足で向かっていた。

もう日付も変わってしまい、アイベルク以外の足音はこの建物の中には聞こえない程に静まり返っている。

これ位静かであれば外も同じ状況。つまりそっと侵入して諜報活動を行うにはまさにうってつけの時間帯であり

シチュエーションが出来上がっていたのだ。

だが、この後にアイベルクは大きな後悔をする事になる。

自分1人で光の元に向かうのでは無く、誰かを叩き起こしてでも一緒に連れて行くべきだったと言う後悔が待っている事は

勿論予想出来ないままに少しずつ、しかし確実にその後悔に向かって黒い革靴の音を響かせて進んでいた。

今はまだ軍服を脱いでいないアイベルク。

一昔前のフロックコート型の黒い軍服は、もしこの建物の中に明かりが点いていなければ闇に溶け込む形で侵入者に恐怖を与えるであろう。

でも明かりが点いていなければ満足に移動すら出来ないので、最低限の明かり位ならば点けっ放しの状況であった。


そんな状況の中で建物の外へと出て、冬の夜風が吹きすさぶのをアイベルクは肌で感じ取りながらさっきの光が見えた位置へと向かっていた。

(向こうの方か……)

なるべく足音を立てない様に重心と体重の移動に気を付けながら、革靴を滑らせるかの様にして1歩ずつ光が見えたと思わしき

場所に向かって足を進める。

その向かった先は、一見すると何の変哲も無い様な倉庫の裏側だった。

しかし使い古されている倉庫なだけあり、周りの地面は荒れ果てて整備されている舗装路は剥がれている。

そこから下に元々あった土の地面までが見えている有り様である。

だがそんな場所だからこそ、逆に身を隠して行動するにはうってつけの場所だとも言えるのでアイベルクはその辺りを重点的にチェックする事にした。

重点的に調べると言っても、その建物の周りだけで無く少し離れている場所一帯を探すと言う意味だった。

足音と気配を消しつつ歩いているつもりではあるのだが、自分が出来ていると思っていてもはたから見ると出来ていない事は意外とあるものだ。


となれば、自分のこの足音や気配に気が付かれている可能性もあるとアイベルクは考えた。

(気付かれているのだったら意味が無いがな)

それでも、あのストロボの様な光が見えると言う事は明らかに怪しい事なので、こうして調べておけば不安要素の解消になる。

何としてでもその不安要素を解消すべく、そして不審者が居るのであればしっかりと捕縛してしかるべき対応をして貰わなければならないので

アイベルクは気を引き締めた……のだが……。

(……誰も居ないな)

建物の周りをグルリと1周。しかし人の影も形も彼の目には映らない。

ならば少し離れた場所もくまなく探し回ってみようと思い、周辺一帯を時間をかけて回ってみたのだが……やはり誰も居ない。

(気が付かれて逃げられたか?)

あくまで自分の予想でしか無いのだが、今の所は気付かれて逃げられてしまったと言う可能性が最も高かった。

それ以外には特に違和感が無い事を確認し、風も割と強めなのでさっさと戻って寝ようと決意したアイベルクだったが……。


「……!?」

間違い無い。また、光った。

「誰だ!!」

自分のすぐ近くで光った様な気がして、思わず声を上げてしまうアイベルク。

「姿を見せろ、出て来い!」

合同演習中であり武器の管理は例え大佐であっても厳しくなっている。

軍の敷地内とは言えども、他国軍との無用なトラブルを避ける為にあいにく今は銃を携帯していなかったのをアイベルクは悔しく思った。

もし侵入者が武器を持っているのであれば 格闘術で何とか対応するしか無い。

それも、もしかしたら自分のすぐ近くに居るかもしれない侵入者相手にだ。

「……」

出て来る気が相手に無いと察したアイベルクは、極限まで意識を集中して次に光った場所に何時でも駆け寄る事が出来る様に身構えた。

(私を甘く見て貰っては困るのだよ)

見えない相手にそう宣告し、何時でも駆け出せる様に辺りに隙無く意識を集中させていた時だった。


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