A Solitary Battle Another World Fight Stories 5th stage第60話(最終話)


しかし、アニータは残酷な事を言い出した。

「強くなった事と、この世界が滅ぶ事はまた違うわ」

「……何が言いたいんだ?」

「もう手遅れよ。この上にあるエネルギー砲台は起動させたわ。後5分もすれば世界中に強大なエネルギーの塊が降り注ぐのよ」

「な、何ぃ!?」

そんな事になったら世界が壊滅してしまう。

「てめぇ、今すぐストップさせろ!!」

アニータは薄ら笑いを浮かべてグレリスの要求を却下した。

「そんな事を言われて、私が止めると思う?」

「くっそ、なら力づくで……うお!?」

アニータはナイフを振るってグレリスを上に行かせようとしない。

「貴方は大人しく見てれば良いのよ、この世界が破滅する瞬間をね!」

「ざっけんなよおおおおお!!」


絶叫しながらアニータに向かうグレリスだが、焦りからか本来の実力が出せない。

ナイフをエスクリマで弾き、隙があれば攻撃。

だけどアニータはどうやらドゥルシラよりも強いらしく、ナイフと言う事もあってショートソードよりも振るスピードが速い。

弾いてもその弾いた勢いで回転し、再びナイフが襲い来る。

「くっ、うっ!」

「えいっ!」

再び回転したナイフを避けたグレリスだったが、勢いづいたアニータのもう1回転からの足払いをかけられて後ろに転倒。

「やあーっ!」

そのまま倒れ込んでナイフをグレリスの心臓目掛けて突き刺そうとしたアニータだったが、グレリスは足のリーチの長さで

アニータを上に向かって蹴り飛ばす。

「ぐえ!」


お互いに床に倒れこんだが素早く2人共立ち上がりバトル続行。

再びナイフを振るうアニータだが、グレリスは弾いても効果が薄いと判断してそのナイフを持つ右手の手首を掴んだ。

「っ!?」

「るぅあああ!!」

アニータの右腕の下をくぐって背中側にアニータを移動させ、その手首を掴んだまま自分の肩を使ってグレリスは

彼女の右肘の関節を真逆にへし折った。

「あぎゃああああっ!!」

物凄い絶叫が部屋中に響くもグレリスは構わず、今度はアニータの背中側へと回って彼女の腰を掴んで持ち上げ、

そのまま自分の背中側に彼女を頭から叩きつける。

「ぐぇうっ……」

グレリスの手が彼女の腰から足首までをスルスルっと滑り終わった時には、後ろから彼女の首の骨が折れる音と

奇妙な声が聞こえて来た。


「はぁ、はぁ、はぁ……くっ!!」

だけどアニータを絶命させた所でまだ問題は解決していない。

まずは自分の私物であるリボルバーやバッジ、ベストの下に詰まっていた弾丸等を全てテーブルから回収。

これで1つの目的は達成されたので、グレリスはタワーの屋上へ。

そこには黒光りする、重厚感溢れる砲台が斜め上に向かって伸びている。

その横には何かの機械……見た感じ、機械の制御システムか何かだろうか。

慌ててグレリスはそれに駆け寄り、設置されたディスプレイを覗く。

「これは……!!」

ディスプレイに描かれている地図の場所によれば、第1砲撃目標は南東のエスヴァリーク帝国。

その帝国はグレリスは知らない国だが、それでもこの砲台からエネルギービームを発射されればただでは済まないだろう。


「くそっ、止まれ、止まりやがれえええええええええ!!」

砲台に取り付けられたシステムを止めようと、そのシステム制御台を蹴ったり殴ったりを繰り返してみるものの、

まるでびくともしない砲台。

「くそっ!!」

思わずバンッと自分の太ももを殴りつけるグレリス。

そんな彼の二の腕に何かが当たる感触があった。

「…………」

それを見て、グレリスは腰にぶら下がっている物を両側から引き抜いて構えた。

そうだ、自分にはこれがあったと思い出す。

何処まで効果があるかは分からないが、回収した弾丸を全て使い切るつもりで腰のホルスターから引き抜いた

2丁のリボルバーを砲台の横にあるシステム制御台に向かって撃ちまくる。

「くそぉおお!! くそっ、くそっ、くそっ、くそっ、くそっ、くそくそっ、くそっ、くそおおおおお!!」

両手が塞がった状態で連射し、両方とも弾丸が切れれば片方をホルスターに収めて弾丸を一旦補充。

それからまた制御台に向かって撃ちまくる。


すると、次第にタワー全体が揺れ始めて来たでは無いか。

カチ、カチ、カチ、カチッ。

銃弾が切れた事にも気がつかない程連射しまくっていたグレリスは、その異変には気がついた。

「……え、あ、あれ?」

それと同時にエネルギーの逆流によって砲台から煙が上がり始め、小さくではあるが砲台が爆発し始める。

発射態勢に移行した訳では無い。むしろ明らかに異変が起こっている。

そしてその爆発は段々とタワー全体に広がって行く。

制御システムの画面で見た情報によれば、このタワーを支えている柱の大多数にエネルギーを内蔵出来る材質が

使われておりそこに発射エネルギーを溜めているらしく、このままではタワーが崩壊してしまう。

「ちっ、やべえ!!」

さっさと階段の下へと向かい、アニータとバトルを始めた部屋まで戻って来たグレリス。


だけど1階まで下りている時間は無い。

このままではこのタワーと一緒に自分も爆死してしまうのが結果として見えている。

(何か無いか何か無いか何か無いか何か無いか!?)

パニック状態になりながら部屋の中をグルリと見渡すグレリスの目に、あのドゥルシラと戦う前に見たものと

同じ設備が飛び込んで来た。

「……!!」

迷っている時間は無い。

脱出設備であるネットを取り出し、窓を全力で蹴り割って破壊。

そこからネットを下へ向かって垂らし、地面に向かって伸びている事を確認。

「う……うらああああああああっ!!」

気合い1発、グレリスは助かる可能性が1パーセントでも多い方にかけてそのネットの中に身を滑らせた。

上からは大きな爆発音が響いて来る。

その爆発音をBGMにしながら、グレリスは1階部分の途中でネットが切れていたのでその勢いのまま地面に

叩きつけ……られそうになったが、寸での所でネットを掴みながら勢いを殺して滑り降りた為に大した怪我もせずに済んだ。

「ひっ、う、うわあっ!!」

情けない声を上げながらも、爆発して倒壊して行くタワーを背中にグレリスは全力で走り続ける。


そのタワーが燃え盛るのを遠目に見ながら、安全圏内まで逃げて来たグレリスは地べたに座り込んでフーッと息を吐いた。

「や、やったぜ……」

どうやら世界の危機は去ったらしい。

結果的にこう言う結末になってしまったが、グレリスにはまだ別にやらなければならない事がある。

「さて、それじゃあ俺も行きますか……」

後は地球に向かって帰るだけだ、と決意してグレリスは歩き出す。

あの砲台の第1目標に設定されていた、南東のエスヴァリーク帝国しか印象に残っている国が無かったので次はそこを目指す事にする。


若きバウンティハンターの旅は、まだまだ終わりそうに無かった。



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