A Solitary Battle Another World Fight Stories 5th stage第55話


研究所の中にはまだあのアニータの部下が居る可能性が高い為、グレリスはここでも用心しながら急ぐ。

実際途中で何人かの部下とエンカウントしてしまったのだが、グレリスはその度に隠れてやり過ごしたり、

または相手の頭を壁にぶつけまくってノックアウトして難を逃れる。

ここで無駄なエネルギーを消費する訳には行かなかった。

でも、エンカウントしたのは研究所を出るまでに多く見積もっても4人か5人程度。

(あいつ等、ほとんど全員そのタワーに向かったんだろうな)

早くしなければアニータがそのタワーで何かをしでかしてしまうだろう。

地球に帰れなくなってたまるかと鼻息も荒く、グレリスは研究所からさっさと脱出する事に成功した。


(ファーストステップはクリアか……)

自分にとってはここからが改めて本番だろうと思うグレリス。

一体何をしようとしているのか。

そしてこの世界を最終的にどうするつもりなのだろうか。

自分の持っていたリボルバーを始めとした私物の件だってあるし、とにかく今はタワーに急がなければならない。

真夜中に辿り着いた筈の帝都から見える空は、既に色が青白く変化し始めている。

早くしないと夜が完全に明け切ってしまい、帝都の人間達に自分の姿を見られる事になってしまう。

アニータが言っていた事が本当ならば、あの騎士団員達みたいに一部に良い人間は居るにしても

それ以外の人間については敵か味方か分からない状況だった。

(アニータとかその彼氏とかは間違い無く俺の敵だけどな)


だったら、その敵から自分の大事な物を取り戻さなければいけない。

だが、帝都の入り口には見張りの騎士団員が居るのだった。

高い城壁に囲まれたこのランダリルでは、城壁の上の見張り台からも騎士団員が監視の手を休めていない。

(朝方だと言うのに、こう言う時まで仕事熱心だな)

感心の感情と邪魔をしないでくれと言う感情がミックスしている

今のこのモヤモヤとした気持ちを振り払うべく、グレリスは脱出ルートを見つける為に動き出す。

南の出入り口の正面突破は無理だと判断し、何か隠し通路みたいな物が無いかどうかを探してみる。

(この辺りじゃダメだな……何か見張りの目も厳しそうだし闇に紛れてって言うのも無理そうだぜ)

入口から離れて何か抜け穴みたいなものは無いかを帝都を歩き回って探してみる。


するとその南の出入り口から少し離れた場所の裏路地から見える位置で、城壁が崩れているのを

発見する事が出来た。

(ちょっと小せえけど……無理すりゃ通れない広さって訳でも無さそうだな……)

城壁は少し高い位置にあるが、自分のジャンプ力であれば届きそうだと判断したグレリスは監視の目が無い事を

周囲に確認してから城壁に向かってダッシュ。

そこから足を使って壁を蹴り、上手い具合に城壁の出っ張りにグッと手を掛ける事に成功した。

黒の革手袋をはめていた事で手汗で滑る事も無ければ、城壁の突起部分等で手を怪我する事も無かったのも幸いだろう。

そのままグイグイと出っ張りを探して、ロッククライミングの要領で壁をよじ登るグレリス。

気分はどこぞのアメリカンコミックのヒーローである。

吊り輪に掴まって身体を支えていた器械体操の経験や、それによって培われた握力が今のグレリスを支えてくれている。


その甲斐あってようやく穴に辿り着き、見張りに見つかる事無く城壁の反対側へと着地したグレリスはタワーのある

方向に向けて走り出した。

(待ってろよアニータ! 今行くからな!)

ヒーロー的な発言にも取れるこの心のセリフだが、今のグレリスはその意味合いで使った訳では無い。

もしかしたら死ぬかもしれない。だけど行かなければ自分にとってこの先に進めない。

その思いだけを心の支えにして、ショートブーツを履いた足でまた少しだけ明るくなった空の下をグレリスは駆け抜けた。

体感距離にしておよそ3キロ。

遠くに見えているカルブラット山脈のシルエットを頼りにしながら走り抜けたグレリスだったが、流石に3キロも走り抜けると

息も上がってしまった。


「はぁっ、はぁ、はぁ……ちょ、ちょっと休憩……」

何時までも走り続けられるのはゲームの中だけの話。

食事もそう言えば摂っていなかった気がするが、ここまで来て今更それを考えたって仕方が無い。

(今はとにかくあそこに向かって進むしか無え!!)

息を切らせつつ見上げる先には、そのタワーのシルエットがまるでRPGの主人公を待ち構える魔王の城の如く

グレリスに威圧感とその存在感をアピールしていた。

無事に私物を取り返してから存分に祝杯を挙げよう。

いや、この世界では独りぼっちだけど祝杯どころか盛大にパーティをしてみるのも悪くないかも知れない。

その為にも、タワーの中に居るであろう自分を裏切ったあの女……いや元々敵だったのかもしれないあの女と

その彼氏に会いに行く為に、もうひと踏ん張りだとグレリスは気合を入れ直した。

(何が待ち受けているか分からねぇ未知の領域だが、俺の目指す場所は今はとにかくあそこだけだからなぁ!!)


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