A Solitary Battle Another World Fight Stories 5th stage第56話
アニータが待ち構えている筈のタワーまでやって来たグレリス。近くで見るとやはりその大きさに圧倒される。
それ位の威圧感を醸し出しているこのタワーは、現代のビルとはまるで違う。
(シアーズ・タワーみたいな奴じゃ無くて、もっとこう……ええと……)
円柱を横に引き伸ばした様な、言うなれば楕円型のシルエットのタワーを横長の部分から見ている感じである。
入り口は入り口で、縦長の頂点部分に存在しているので来客に対して遠回りをさせる様なデザインである事に
間違いは無かった。
(……見張りは居るのか?)
外側から見る限りでは入り口に見張りの姿は見当たらない。
だけどタワーの中には絶対にアニータの部下が居る筈であると考え、呼吸を整えてから入り口の扉を開けて階段を上る。
せめて鍵はかけておいた方が良いんじゃねえのかとグレリスは心の中で呟きながら、用心しつつ階段を上に上にと進む。
……が。
「おい、何だおま……うお!!」
さっそく内部の敵に見つかった。
勿論グレリスもはなっからバトルは覚悟していたので、援軍を呼ばれる前にさっさと男の顔面にパンチを
突っ込んでから壁に頭を叩きつけてノックアウトさせる。
見つかったのであれば、もう遠慮する必要も躊躇する必要も戸惑う必要も無い訳だ。
階段を上がった所の踊り場に居る男がナイフを振り被って向かって来たので、エスクリマの要領で弾いてから
男の身体を持ち上げて階段の下に投げ落とす。
「ねえねえ、何……ぐぇ!?」
その異変に気がついた女がそばのドアからダルそうに出て来たので、そのままダルくなっててくれとばかりにグレリスは
通路側に外開きをするタイプのドアを全力で蹴ってドアに女を挟んで気絶させた。
タワーの中の通路はお世辞にも広いとは言えないので、前後を囲まれてしまえばそれだけで逃げ場が無くなってしまう。
それだけは避けたいので、グレリスはさっさと上のフロアに行ってアニータとあの彼氏と私物を探し出す事を1番に考える。
(最後に脱出する時が大変そうな気がしないでも無いんだけどな)
脱出するまでがこのミッションの全部だ。
ギルドから依頼された訳でも無ければ、別に金銭面での報酬がある訳でも無い。
しかし、これはグレリス自身が絶対にやり遂げなければならないミッションである事には間違い無かった。
「ふあ〜ぁ……んっ……?」
その時またもや、ダルそうに通路のそばのドアから出て来た男がグレリスの行く手を阻む。
今度はドアを蹴り飛ばす前に通路を塞いで男が立つ構図になったので、ダルそうな上に眠そうなその男の意識が
回復する前に男の腹を蹴る。
「おらっ!!」
「ぐぅえ!!」
前屈みになった男のアゴを思いっきりその柔らかい股関節を利用して蹴り上げ、意識が一瞬飛んだその男の懐に
飛び込んだグレリスは大柄な自分の体格を活かして男を持ち上げる。
「うおらああああ、ああっ!!」
通路を絶叫しながら走り抜け、突き当たりの木製の大きなドア目掛けて男の身体をブン投げた。
「なっ、何だぁ!?」
「あっ、てめぇさっきの奴か!?」
ドアの先にあった部屋の中では、グレリスをあの地下の壁画がある部屋から逃がさない様に人間リングを作った時の、
いかにも柄の悪そうな男も女も関係無い人間が色々な作業をしていた。
グレリスがふと壁の方を見てみると、そこには恐ろしい事実が記載された張り紙がしてあった。
『今月のエネルギー生成ノルマ:人間200人分』
それを見た瞬間、グレリスの中で自分の何かがブチッと音を立てて切れる。
「てめぇ等……人間の命を何だと思ってやがるんだあああああああああああ!?」
何かに切れてしまったグレリスは、最初に向かって来た近くの女に対して思いっ切りハイキックで顔面を蹴りつけて
ノックアウトさせる。女の身体から力が一気に抜けて、後ろに向かってゆっくりと倒れ込んだ挙句に物凄い音を
立てて後ろにおいてあった木箱を粉砕して気絶した。
「てっ、てんめえええええええっ!!」
残っている男女が作業を中断して一気に襲い掛かって来た。
それでもグレリスは怯まず、次に向かって来た男に向かってジャンプしてドロップキック。
ぶっ飛んだ男には目もくれず、右からやって来た男の顔面に右回し蹴り。
その勢いのまま3人連続で右回し蹴りを食らわせて1人ずつノックアウトして行く。
「くっ……!!」
女がナイフを振り被って向かって来たが、さっきと同じくエスクリマのテクニックで弾いてから女の身体を持ち上げて、
その後ろから走って向かって来ていた男に向かって投げつけて纏めて倒す。
作業の為にテーブルや木箱等が所狭しと並べられており、それで敵の集団の移動が制限されていた事が
グレリスにとっては好都合だった。
だけど、まだ上にも敵は居る。
その証拠に部屋の奥には上のフロアに続く階段が設置されており、上からもバタバタと慌ただしい音が聞こえて来るからだ。
(こうなったらとことんやってやんぜ!!)
もう戻れない。後戻りする事なんて出来やしない。
グレリスはその階段に向かって駆け出した。
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