A Solitary Battle Another World Fight Stories 5th stage第54話


しかし、ノコギリを作ったは良いもののこれでどうやって脱出するかである。

下手に動けば見張りの男に見つかってしまう。

鉄格子の隙間には自分の腕が通るだけの隙間があるからまだ良いものの、身体全体を通り抜けさせられる位の

隙間は無いので結果的に脱出は不可能である。

「……しゃあ無えな」

ぼそっと一言呟いて、少し危険ではあるもののこの方法しか無いとグレリスは考えた。

そう考えたのであればすぐに実行。

まずはノコギリで、牢屋の扉をロックしている錠前をギコギコと切り始める。

「……おい、何をしている!!」

当然見張りの黒髪の男がそれに気が付き、壁にもたれ掛かっていた身体を起こしてグレリスの元に

つかつかと歩み寄って来た。


だが、それこそがグレリスの狙いであった。

男がノコギリを奪う為に手を伸ばした所で素早くそのノコギリを鉄格子の内側に引っ込める。

その代わりにノコギリを持たずにもう1度手を鉄格子の外に出して、男の服を大柄な体躯から生み出される

そのパワー任せに引っ張った。

「ぬおっ!?」

男がよろけて鉄格子に近づいた所でもう片方の手を出し、男の胸倉を掴んで思いっ切り鉄格子に向けて引っ張る。

「がはっ!?」

鉄格子に頭をぶつけた男だったが、グレリスはお構い無しに2度3度ガツンガツンと男の頭を鉄格子にぶつけまくる。

両手を使って鉄格子に何度も何度も男の頭を頭突きの体勢でぶつけさせれば、ずるずると男は力無く

鉄格子の前にがっくりと膝をついて倒れ込みそうになる。


「おおっと……」

その前に貰う物を貰っておかなければならないので、男の身体を床と平行の向きになる様に鉄格子の中から

引っ張って位置を上手く調整。

そうすると、男の身体が鉄格子の前に左半身をくっつける形で横たわる姿勢になった。

男の下半身にも手が届く様になった為、グレリスは男の腰のベルトにぶら下げられている錠前のカギをゲットする事に成功した。

それを使って錠前に手を伸ばし、グレリスはガチャガチャとカギを開けて脱出に成功。

(さってと、あいつ等を追うぞ!!)

あの青髪の男、それからアニータを追いかけてグレリスは色々と聞かなければならない。

しかし、そのグレリスの足をまた引っ張る存在が。

「んぁ!?」

黒髪の男が意識朦朧としながらもグレリスを逃がすまいと足首を掴んだのだ。

これもまたあの襲撃された時と同じ展開。2回目のデジャヴ。

また振り払ってさっさとここから脱出しようと思ったが、その前にグレリスは1つある事を思いつく。

いや、思い出したと言った方が正しいだろうか。


「……そうだ、お前に聞きたい事があるんだけどよぉ」

「な……んだ……」

「あのお前等のリーダーみたいなアニータって女と、それからその彼氏の青髪の男が何処行ったか知らねえか?

それと、俺の私物の場所も知ってたら教えてくれや、なぁ?」

私物を回収するのを今までのゴタゴタですっかり忘れていたグレリスだったが、あの私物の行方も聞いておかなければ

この国から出ようにも出て行けない。バッジとかについては元々この世界に来てから持っていなかったのかもしれないが、

少なくとも自分が愛用していたリボルバーは間違い無くあの男が持っているのを最初の牢屋の時に自分の目で

しっかりとやり取り含めて確認し、記憶に残っているのだから。

だからこそ、あの青髪の男の行方をどうしてもグレリスは知る必要があるのだ。

武器として持って行った方が良いかもしれないと言う理由から回収したあの手作りノコギリを男の顔面に突き付け、

言わなければどうなるか分かるだろうとの雰囲気と威圧感で男が口を開くのを待つ。


「へっ……知らねえよ、そんなの」

「何ぃ!?」

グレリスだって必死である。

こうなったら仕方無いとばかりに実力行使に出させて貰う事にした。

男の頬にノコギリの刃の部分を当て、少し力を込めてスパッと横にずらす。

「うぎっ!」

変な声を上げた男の頬から血が流れ出すが、グレリスはその男の髪の毛を掴んで今度は目の部分に押し当てる。

「次は目玉抉り出す位の事してやろうか?」

「ひ、ひぃぃ! 分かった言う! 言うから!」

「嘘ついたらどうなるか分かるな。さぁ、言え!」


完全に怯えた目つきになった男にそう忠告したグレリスは、男のセリフを聞き逃すまいと集中した。

「うう……あ、いつ等は帝都の南から出て……そこから東のカルブラット山脈の方に向かうと20階建ての

タワーがあるから……そ、そこに居る筈だ」

「そこの何処だ? それと俺の武器は?」

「1、1番上……!! お前の私物は多分……ドゥルシラが持ってる筈、だ!」

「ドゥルシラって誰だよ?」

「お、お前が逃げたあの研究……所の、警備隊のっ、リーダーだ。アニータの彼氏……だ」

「そうか、ありがとよ!!」

情報の礼代わりに思いっ切り男の顔面を踏み潰して気絶させたグレリスは、男の上着で男の手を後ろ手に縛り上げ、

更に牢屋の中にその身体を放り込んでから走って脱出を開始した。

自分を裏切ったあの女に追いつき、そしてその彼氏から自分の私物を取り戻す為に。


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