A Solitary Battle Another World Fight Stories 1st stage第29話
「……ぐぅっ……!!」
リオスにまたしても、先程と同じ現象が襲いかかって来た。
しかも持ってみたのは今度はさっきの拳銃では無く、壁に立て掛けてあった槍である。
「お、おいおい……」
「やはり俺の仮説は正しかった様だ。一体この現象はどう言う事なんだ?」
便利屋だと自称していたホルガーなら何か知っているかと思いきや、彼はブンブンと首を横に振って
知らないと言うジェスチャーを繰り出した。
「いーや、俺は全然そんな話は聞いた事も無けりゃ今みたいな不思議な現象を見たのだって初めてさ。
逆に俺があんたに説明して貰いたい位だぜ。この奇妙な現象についてさ」
そう言いながら腕を組むホルガーに、リオスもこりゃダメだ……と今はお手上げ状態なのが分かった。
「とにかく、どうやら武器を手に入れるのはあんたには無理らしい。でも何とかして行かなきゃな」
「何とか、とは?」
具体例の提案を促すリオスだったが、ホルガーの答えはあっけらかんとしたものだった。
「ほら例えばさー、その辺りにある物を手当たり次第に投げつけてみるとか、あんたは奇妙な動きの体術を使うから
それだけで戦うとか、後は逃げられるんだったら逃げるとか……じゃないの?」
「……ああ、良く分かった。けどやけにそう言う事に詳しいんだな?」
「だって俺、便利屋だぜ? 頼まれりゃ色々な事をやる。当然危ない橋だって渡るし、それなりに修羅場だって
潜り抜けて来た経験があるからな」
訝しげにホルガーにリオスが問いかければ、若干自慢げに胸を張って彼は答える。
このファンタジーな世界では、便利屋だと名乗るだけでもそこまで苦労するのか……と思ったリオスは、結局武器を
手に入れるのは不可能だった武器屋の外に出てからその便利屋に訊ねてみた。
「答えたくなければそれで構わないし、答えられるのであれば答えられる範囲で構わない。便利屋としての修羅場と
言うのは例えばどんな修羅場があったんだ?」
そのリオスの問いかけに、ホルガーは拍子抜けする程あっさりと自分の今までの事件簿を語り始めた。
「まぁ色々な事があったけど、今までで記憶に残っているのは大火事に巻き込まれかけた事だったかな」
「火事?」
「ああそうさ。ここでも無くさっきの町でも無い別の町の貴族様の屋敷で、2年前に壁の修理を頼まれたんだよ。
でも俺、その時疑問に思った事があってさ。貴族様の屋敷なのに何で俺みたいなその辺りをブラブラしてそうな奴に頼むのかなーって」
何でだと思う? といきなりクエスチョンを投げ掛けられたリオスだったが、率直に思った事を答えてみる。
「……単純に、君にそう言う修理の技術があったからじゃ無いのか」
当たり障りが無いとも言えるリオスのその答えに、ホルガーは胸の前で両方の人差し指をクロスさせてバツマークを作る。
「……いいや、俺が根無し草の便利屋だと言う事がその貴族様にとっては好都合だったんだ。その貴族様はただ壁の修理を
頼んだ訳じゃ無い。その壁の向こう側が問題だったんだよ」
「……まさか」
神妙な顔付きになったリオスにホルガーは頷いた。
「その修理には裏があったのさ。壁の向こう側が1つの部屋になっていてな。ミイラになっている死体や白骨化した死体がわんさかでて来た。
何で分かったかって言えば、俺がその壁の向こう側を覗いちまった……と言うよりも、その壁にちょこちょこ小さな穴が開いていて、そこから
見えちまったんだ。壁の修理を頼まれた部屋が妙に香水臭かったんだけど、それは恐らく人間だった物が腐っているのを誤魔化す為に
香水を撒いてたんだろうよ。だけど臭いを誤魔化せても俺の目は誤魔化せなかったって訳さ」
思わず苦笑いを浮かべながらそう言うホルガーだったが、リオスは冷静に呟くのみだった。
「……ただ単に、その貴族様の考えが足りてなかっただけじゃ無いのか」
はっはっは、とその呟きにホルガーは大きく口を開けて笑う。
「俺も全く同じ事を考えたさ。そんな曰く付きの壁の修理を頼むんだったら、最低限そう言った穴位は塞ぐ努力をしてから頼むべきだったなって。
で、挙動不審になった俺の様子を気付かれて……そこからはもう修羅場さ。修理を依頼して来た貴族様はやけくそになって、これは
貴族の権力争いの成れの果てだーとかって大騒ぎ。まだ騎士団に通報するとも何とも言って無かったのによ?」
何だかハイテンションになっている気がしないでも無い様なホルガーに、リオスは相も変わらずの冷静な態度で疑問をぶつける。
「……通報、したんだろう?」
「勿論さ。けど、その屋敷が火の海になってからの話だったけど」
「と言う事は、そこを脱出する時が1番の修羅場と考えてみれば良い訳か」
ふむ、と顎に手を当てて考え込むリオスに対してホルガーは遠い目をして答える。
「その後が大変だったなー……。その貴族様だけで無く、配下の使用人とかメイドとかも全員結託してたみたいでさ。
武器を持って俺を殺そうと必死だった。だから俺はそばの窓から下に飛び降りてバルコニーに着地して、その下にはバルコニーが無かったから
バルコニーの窓を割って屋敷の入り口まで逃げたんだけど、もう貴族様とその配下は無理心中する勢いで、屋敷中に油を撒いて火を
点けやがったんだ。そのおかげで屋敷中火の海。命からがらで脱出した時にはもう外も大騒ぎだったよ」
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