A Solitary Battle Another World Fight Stories 5th stage第48話
デジャヴ。
今のこの状況をデジャヴと言わずして、一体何と呼べば良いのだろうかとグレリスの心の中は一杯だった。
(何故だ……何故こんな事になったんだ……)
自分のツキはここに来て最悪の物になっているんじゃ無いのかと思わざるを得ない程、この周りの状況は
グレリスを静かに見つめている。
彼は今、薄暗くカビ臭くホコリ臭い牢屋の鉄格子の内側に満身創痍で放置されている状況だったからだった。
(それもこれも全てあいつのせいだぜ……あの野郎!!)
グレリスは黒手袋に包まれている自分の右手を、シミの付いている床に叩き付ける。
バンッと言う鈍い音と共に、帝都に着いてからの自分の身に起こった苦々しい出来事がグレリスの脳裏に蘇って来た。
乗り合い馬車がガタゴトと音を立てて、帝都に着いたのは確かに真夜中だった。
だが、その真夜中と言うのはグレリスにでは無く「敵」に対して非常に都合が良い時間帯だった様である。
「おい、起きろ。降りるんだ」
「ん〜……んっ!?」
馬車の中で睡眠を貪っていたグレリスが目を覚ましてみれば、視界に飛び込んで来た物は携帯ランプの光に
照らされているナイフの刃先……それもかなり大型の物だった。
「な、なななななな何だ!?」
「良いからさっさと降りろって言ってるんだよ。さもねぇと、あの女がどうなるか分かんねえぜえ?」
一体何がどうしてこんな状況になってしまっているのか、寝起きの今の状態では……いや、例え自分が普段の状況だったと
しても突然の事で理解出来なかったであろうと心の片隅でそこだけ冷静に分析している自分が居るのにグレリスは気が付いていた。
(何だってんだ、一体これは……)
今の状況はとにかく芳しくないと言う事だけは理解出来るグレリスは、素直に声の主である若い黒髪の男の指示に従うしか無かった。
彼がもし「1人なら」グレリスも反撃に出ていたであろう。
しかしランプに照らされている視界から見えるだけでも、馬車の外にはまだ男の仲間が要るのだと確認出来た以上は
下手な行動を起こすと危ない。
今でこそ銃があれば話は別……いや、銃があったとしてもこの状況を打開出来るかどうかは厳しいものがあった。
所詮映画やゲームはフェイク。
実際には出来っこ無い人間の動きや展開等のフィクションのオンパレードなのだから、ここでそんなフィクションと同じ様な
展開に持ち込んでも100パーセント自分に勝ち目が無いと言うのは頭の悪いグレリスにも理解出来た。
だからここは我慢して大人しくついて行くだけである。
幾ら猪突猛進、戦略なんて言葉が自分の頭の辞書に無かったとしても状況判断が出来ない程まで馬鹿だと言う訳では無いのだから。
明らかに武装している……しかし騎士団の装備のそれでは無い男女に囲まれながらグレリスは歩かされる。
ざっと見る限りでは30人は居るであろうか。
そんなに大人数でこうして連行されるなんて、ちょっとしたVIP気分だと思う……いや、思っていなければ気がどうにかなってしまいそうであった。
こんな状況になった事なんて、グレリスが26年間生まれ育ったアメリカの生活では1度も無かったからである。
変な意味でのVIP待遇と言うのであれば、何故にこんな手厚い歓迎を受けなければならないのかと言うのをしっかりと説明して
貰わなければ当然グレリスだって気が済まなかった。
(どーすんだよ、この状況よぉ〜!?)
高い城壁に囲まれている帝都は、真夜中と言う事もあって不気味な程静まり返っている。
フリーパスなのか、それとも元々無いのか分からないが町に入るに当たって特に検査みたいなものはされなかった。
こう言う場所であればそれこそ、1日中昼夜を問わずに検査をしているものだとばかり思っていたグレリスにとっては良いのか悪いのか
分からなかったが、こうして武装している集団に連行されるとなれば良い方向であるとは思えない。
そして、そこでハッと気が付く事もあった。
「お、おいちょっと待て……」
「何だよ?」
「アニータはどうした!? 何処に居る!?」
アニータを返して欲しければ帝都まで来る様に、と言って来たのはそもそもアニータを攫ったあいつ等の方では無いかと思い出したグレリスは、
馬車の中で自分にナイフを突き付けて来た黒髪の男に対してそう問いかける。
しかし、その男の口から出て来たセリフはグレリスを唖然とするものだった。
「アニータぁ? そんな名前の奴なんか俺等は知らねぇよ」
「なっ……!?」
「そいつとお前がどんな関係なのかなんて俺等にはそもそも関係無えんだ。俺等はただ、帝都にお前が来たら「丁重に」これから
連れて行く場所まで案内しろって言われてるからなぁ」
それ以外の事は何にも知らねーよ、と言う男だったが嘘をついている可能性もある。
だけどそれを今のグレリスに確かめる術は無かった。
(ちきしょう!! 俺、一体これからどうなっちまうんだよ!?)
アニータの居場所も分からず、この武装集団に自分が連行される場所も分からず。
グレリスの頭の中には不安と恐怖が渦巻いたまま歩かされるのだった。
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