A Solitary Battle Another World Fight Stories 5th stage第44話
そのフィリピン部族の武術が元になり、スペイン人のレクチャーによって完成されたエスクリマが
何故アメリカで今大人気なのか?
それは1898年にパリ条約によって、フィリピンの統治権がスペインからアメリカに譲渡された事が発端である。
フィリピンの支配者がスペインからアメリカになった事によって、フィリピンからアメリカに渡ったフィリピン人によって
エスクリマが伝えられた。またその逆パターンで、アメリカ人がフィリピンにわたってエスクリマを習得してから帰国し、
そこからアメリカにエスクリマが広がった事もある。
こうした相乗効果によって、フィリピン発祥のエスクリマは今やアメリカで大人気の武術となっているのだ。
アメリカの警察を始めとする法執行機関で採用されている上に、軍隊格闘術やFBIの格闘術でも一部の
テクニックにエスクリマのエッセンスが入っている。
アメリカの海兵隊では、銃剣術をエスクリマの棒術をベースに制定されている例もある。
勿論アメリカのみならず、この武術発祥の地であるフィリピンの特殊部隊でも国技として認められている事もあって
採用されているのがエスクリマだ。
こうした法執行機関で採用されている事例が多い背景には、エスクリマに「武器を持った相手」との戦いを
想定したテクニックが多い事がある。
「ディスアーム」と呼ばれる相手の武器を払い飛ばしたり奪ったりと言うテクニックが素手に存在しているので、相手が武器を
持って掛かって来たとしてもその武器を奪ってしまえば相手は素手になるからこちらに有利に戦いを進められる、と言う結果になる。
事実、あの坑道でグレリスがナイフを持った相手に対してディスアームを披露したのがグレリス本人の中では記憶に新しい。
(やってて良かった、エスクリマ……)
まさかこんな場所で役に立つ時が来るなんて、と器械体操の時にも出て来た心の声が再びグレリスの頭の中に響き渡る。
そして1つの決意を彼にさせるのだった。
(アメリカに帰ったら、もっとエスクリマのトレーニングをするべきだな)
実際の話、エスクリマのまだ基礎の基礎位のテクニックしかグレリスは習得出来ていないのだ。
でも、この世界に来てからその基礎の基礎のテクニックでも危機を脱する事が出来たのを思い出し、自分がアメリカに
無事に帰る事が出来たらエスクリマのインストラクターの資格を取る為に頑張ってみよう、とこの時決意する。
8年のキャリアがあるとは言え、テクニック的に言えば素人に毛が生えたレベルでしか無い今の状態で、
このままズルズルとバウンティハンターの仕事を続ける事に不安を感じた事もあるからだ。
(こんな事なら、しっかりエスクリマを身につけておくべきだったぜ……ちきしょう!!)
今までずっと愛用のリボルバーに頼って来ていたツケが、今こうして回って来ている。
ラッキーパンチ的な勝ち方もあった様な気がするのだが、アニータが居なければ確実に今のグレリスは存在せずに
この異世界エンヴィルーク・アンフェレイアで息絶えていただろう。
銃と言う装備はアメリカではもう当たり前に普及している。銃社会と呼ばれる所以だ。
それが当たり前だとグレリスも思っていたし、実際に銃を使って仕事をして来たのだから尚更である。
だけど、その愛用の銃が無くなってしまった今の状況。
アニータも連れ去られてしまった今の状況。
この状況を打開する事が出来るのは、間違いなくこの器械体操とエスクリマを習っている自分の身体だけなのである。
(銃が無い、そしてアニータもあいつ等に連れ去られてしまった以上、俺が頼る事が出来るのは俺だけなんだ。
俺には銃以外に……ん?)
そう思っていたグレリスは、ここでもまた基礎の基礎的な事に気が付いてしまう。
(あーーーっ!! お、俺もこの世界で武器を使えば良いんじゃねえかよおおおおおお!!)
そうだ、何も銃だけが武器では無い。
この世界には剣を始めとして弓、槍、斧、それから魔法と言う便利な物があるじゃないかと今更ながらに
気が付いてしまったグレリス。
気づくのが遅すぎると自分で思いつつ床を拭く為に絞った雑巾をきつく握りしめてみれば、更に残っていた水が水滴になって
バケツの中へとポタポタ音を立てて落ちた。
どうしてこんな初歩的な事に気が付かなかったのだろうか。
何も、リボルバーに頼るだけが戦う術では無いのである。
戦術面では自他共に期待されていない為、グレリスはこの世界の武器を色々と試してみようと考えた。
勿論、騎士団員達が扱っているロングソードを少し自分の手で振らせて貰う為である。
自分の手に1番馴染んでいるのは確かにリボルバーではあるのだが、他の武器にもチャレンジしてみれば自分に
またフィットする武器が見つかるかもしれないと言う願望もあっての考え。
なので武器のチャレンジをさせて貰う為に、残りの雑用をグレリスはハイスピードで終わらせる。
だがこの後にグレリスは、自分が絶望してしまう程の思いもよらない事を知ってしまうのであった。
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