A Solitary Battle Another World Fight Stories 4th stage第39話


考えてみれば地球でのミッションの帰り道から何も食べていなかっただけあって、グレリスの食欲は半端無いものであった。

それこそ、ジャッキー・チェンの酔拳での食事シーンでの食べっぷりも真っ青な量を食べている。

肉料理とパンから始まり、大盛りのライスに塩を振りかけて食べ、魚にサラダに朝食のヨーグルト、

絞り立ての果実の匂いが香ばしいオレンジジュースも完食。

極め付けにデザートのプリン豪快にかきこみ、フーッと腹をさすりながら非常に満足した表情でグレリスの

ブレックファーストは終了した。

「貴方、結構食べるのねー……」

アニータも普段の冷静な態度が崩れてしまう程に唖然とした表情でグレリスを見つめる。

「まぁな。俺だって普段はここまで食わねえ……いや食えねえ。だって俺、この世界に来る前から何も

食ってなかったからよぉ。だからしっかり食っておかねえと満足に動けねえって」


その言い分に、アニータは少し違和感を覚えずにはいられなかった。

「今もすぐには動けそうに無いわね」

「食ったばっかりだしな。俺の事は良いから、君もちゃんと食べとけよ」

「……ええ」

食べられる時に食べておかなければ、次にまた何時栄養補給が出来るか分からない。

そんグレリスを見つつフォークに巻いたスパゲッティを口に入れ、飲み込んでからアニータはさっきの話に関する

自分の考えをグレリスに述べた。

「でも、帝都周辺にあえてそう言う場所を設置したとするのなら何か理由がある筈よね? 見つかる危険性はかなり高いのに」

どうやら、2人とも考えている事は一緒の様である。

「本当にそんな場所があるんだったら、危険な場所である事は覚悟の上で1度行ってみる価値はありそうだな。

そんな話を聞かされたんじゃあ、俺だって気になってしょうがねえし夜も眠れるか分からねえぜ」

「本当に行くの?」


この話をする前だったとは言え、今日の朝は私に叩き起こされるまでぐっすり寝ていた人間が言えるセリフじゃないでしょ、と言う

顔つきになったアニータに対してグレリスは右手でグッとガッツポーズを作って返答する。

「ったりめーだよ。何てったって地球に帰る事が出来るかも知れないヒントになる可能性があるんだぜ?」

実際問題、少しでも地球に帰る為のヒントがあるならばグレリスは何処へでも行くつもりで考えていたし、そんな話を聞かされた

今の彼の目的地の1つにそこがプラスされた。

だがその前に、残っているミッション2つをやり遂げるのが先の話である。

「まずは木の実の採集と、お金の回収業務の仕事が先よ」

「分かってるよ。この町の周辺で木の実を採って、それから金の回収に向かう。それで良いだろ?」

事実、この宿屋の宿泊代金と今しがた食べた料理の代金でほとんど金を使ってしまったグレリス。

用心深い一面があるが、意外と無頓着な部分もある男だ。

金が無くなったなら稼ぐだけ。

本当にそれだけの話なのだが、この後のミッションでまさかの事態に遭遇する事になろうとはグレリスもアニータも

予想出来なかったのである。


食事の時間も終わり、宿屋を出発した2人は一旦町を出てから近くの森へと向かった。

その森の中に、ミッションで必要な木の実がなっているとの情報が依頼書には書いてあるのだ。

「あー、あれか……」

その緑色をしているりんご程の大きさの木の実は、

森の中に少し入った場所に存在している、恐らく森の中で最も大きな木になっている。

しかし、その木の実がある位置は長い棒でも無ければ届きそうに無い。

目測ではあるが、182cmの自分が3人縦に並んでやっと採れる位かなーとグレリスは思っていた。

いや、自分がそう思っているだけであの木の実はリンゴよりももっと大きいかもしれないし、高さだってもっとあるかもしれない。

そんな憶測で物事を考えているグレリスに対して、アニータはこんな提案をしてみる。

「私の弓で採ろうか?」

「えっ? 採れるのか?」


弓で狙うのは結構無理があるんじゃないかなーとグレリスは思うが、アニータは冷静な口調でその疑問にこう答える。

「簡単じゃ無いし、なかなか遠い距離だけど狙えない事は無いわ。でも話しかけないでね。弓って言うのは集中力が大事だから」

「分かった。頼んだぜ」

普段は口数が多く口も悪い部類のグレリスではあるが、今ばかりはそのおしゃべりな口もミッションコンプリートに向けてつぐむ様に心がける。

その横ではアニータがキリリと弓を引き絞り、無数の枝から生い茂っている葉っぱで視界が遮られる中で慎重に真剣に木の実を狙っている。

しかし、その時グレリスは気が付いてしまった。

(……あれっ?)

自分の周りにだんだんと広がって行く、得体のしれない違和感と恐怖感、そして人の気配に。

アニータがそばに居るから人の気配がするだけの話では無い。

その人の気配は、あからさまにグレリスに対して敵意を纏っている……グレリスに対しては決して歓迎出来るものでは無かったのだ。


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