A Solitary Battle Another World Fight Stories 4th stage第40話
そんな嫌な気配をグレリスは感じたのだが、集中しているアニータに対しては話しかけるなと言われている上に
話しかける事が出来ない程のプレッシャーを感じていたので、どうするべきなのか自分では判断がつかない。
(くそっ、アニータを置いて逃げる訳には……!!)
まだこの世界に来て2日目ではあるが、色々と自分の世話を焼いてくれていたアニータをこの場でその嫌な気配の
中に置いてけぼりにしたまま逃げる訳にも行かず、かと言ってここから離れない訳にも行かずと言う板挟み状態での
ちぐはぐな心理状況が、グレリスの脳が自分の身体に対してどう行動したら良いのかと言う命令を下せない原因となっている。
その時、心の中であたふたしながらどうするかを迷うグレリスの目の前でアニータの矢が木の上目掛けて
弦を弾く音をさせて飛んで行った。
頭上で風を切る音と葉っぱが飛ばされる音が聞こえて来たかと思えば、その次の瞬間にはグレリスの足元にドサッと
鈍い音を立ててお目当ての木の実が落ちて来た。
アニータの弓の腕がこれで本物であると証明された瞬間である。
しかし、グレリスはその木の実が落ちて来た事を素直に喜べない状況にある事を知っている。
(まずい……非常にまずい展開だぜ……)
その事を証明するかの様に、木の実とほぼ同時に4〜5人の武装した男女が木の上からまるでアクション俳優の如く
着地して、間髪入れずにグレリスとアニータ目掛けて襲い掛かって来たからである。
グレリスはほぼ反射的に、自分の目の前に下りて来た男の顔面目掛けて全力のハイキックを放つ。
器械体操で鍛えられたしなやかな肉体から生み出されるスピードの乗ったキックにプラスして、大柄でパワーがある事も
相まってそのハイキック1発で男はノックアウトする。
更に後ろから殺気を感じたので、グレリスは素早くハイキックの姿勢から片足でしゃがんでぐるっとその片足を使って180度ターン。
つまり、ハイキックからそのままローキックに強引に繋げたのだ。
その強引さが功を奏したのか、グレリスの後ろで斧を振り被って来た女が地面に背中から倒れ込む。
「うらぁ!!」
余り女に手を出すのは感心しないグレリスでも、命を狙われる状況であるとなればそうも言っていられないのが今の話だ。
倒れ込んだ女の両足を持ち上げ、ジャイアントスイングでブンブンとその身体を振り回してから自分に向かって来た男に
女の身体を投げつける。
投げられた女に対応しきれなかったその槍使いの男は、まともに女の身体を全身に受け止める形になってしまい、
2人はもんどり打って地面に倒れる。
(アニータは!?)
自分の身を守る事に必死になっているグレリスだったが、ここでアニータの存在を思い出して辺りを見渡す。
すると、そんなグレリスの目の前に信じられない光景が現れた。
「動くなぁ!!」
「くっ……放してよ!」
「あ、アニータ!?」
何と、アニータが2人の男に捕らえられているでは無いか。
1人は彼女が抵抗出来ない様に首筋に斧を突きつけており、もう1人はアニータの武器である弓を手に持って勝ち誇った顔をしている。
(くそっ、せめて銃があれば……!!)
銃を持っていない自分はこんなにも無力なのかと思わざるを得ないこの状況に歯ぎしりをするグレリスの目の前で、
男はこんな事をグレリスに言い出した。
「この女を助けたかったら、そこの町から出ている乗合馬車に乗って帝都まで来るんだな!」
「ざっけんなおい、アニータを放せ!!」
「だから帝都まで来いっつってんだよ。それじゃあな。ああ、それと今は俺達が見えなくなる前に俺達を追いかけて来たら、
即刻この女をぶっ殺すから覚えておけよ!!」
そう言って、2人の男はアニータを人質にしたまま素早く森の出口に向かって走り去って行った。
グレリスも当然追いかけるべく走り出した……筈が、地面に横たわっていた先程女をぶつけた男がグレリスの足首を掴んだ為に
それは叶わなかった。
「邪魔すんなよ!!」
何としてでもアニータを連れ戻さなければいけないとばかりに、足首を掴んで文字通りグレリスの足止めをしている男の手を
足を振って振り払い、思いっ切り男の顔面目掛けてその足を振り下ろす。
「ぐがっ!」
男の目が虚ろになって焦点が定まらなくなり、気絶した男の口から歯が何本か抜け落ちた。
そんな男には目もくれずに、グレリスはアニータが連れ去られた方へと一目散に駆け出して行く。
「はぁ、はぁ、はぁ……くそっ、何処に行きやがった!?」
息を切らせつつ、辺りを見渡しながら森の入り口の方までやって来たのだが……アニータの姿が見当たらないのだ。
(嘘、だろ……)
あのスピードならばまだまだ全然追いつける筈だったのに、こうもあっさりと見失ってしまうなんて。
そんなにアニータが抵抗しなかったと言う事なのだろうか?
でも、それだとやっぱりおかしいよな……とグレリスは息を切らせつつ考える。
(何をしたんだ……まさか、魔術とか……!?)
そう、ここは異世界。地球とは違う常識がまかり通る世界。
「くそっ……アニータ……アニータあああああああああああああっ!!」
自分の恩人の名前を絶叫するグレリスのその声が、静かな森の中でやけに大きく聞こえた。
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