A Solitary Battle Another World Fight Stories 5th stage第35話
「ぐああっ!」
背の高い男の悲鳴が坑道内に木霊(こだま)する。
アニータの放った矢が上手い具合に男の左足に命中したのだ。
そんな状況になっている一方で、グレリスは自分のドロップキックで未だに立ち上がれない斧使いの男の背中に
馬乗りになり、そのまま頭を抑え込んでいた。
「おーい、アニータ! ロープ持ってねえかロープ!!」
「あるわよ」
背の高い男が反撃して来ない事を確認し、アニータが持っていたロープで徹底的に押さえつけている
斧使いの男を縛り上げる。 また反撃されでもしたら厄介だからだ。
それから斧使いの男だけでは無く、背の高い男もギュッときつく縛り上げて更にその上から2人纏めてもう1度ロープで
縛り上げると言う徹底ぶりを見せておく。
「貴方、結構用心深いのね」
思わずアニータはそんな感想を漏らしたが、グレリスはその行動の理由を説明する。
「前に俺が捕まえたターゲットが、上手く隙を突いて逃げ出そうとした事があった。手を後ろに縛っておいたんだけど、
そいつは自分の柔らかい身体を利用して後ろから前に手を回しやがったんだよ。その時の苦い思い出さ」
「ふぅん……」
興味無さ気な声かと思いきや、その声色には若干の驚きが含まれている事をグレリスは感じ取った。
「何だ、意外なのかよ?」
「まぁ、ちょっとはね。じゃあ先に進みましょうか」
そう提案したアニータは、斧使いの男の近くに落ちていた斧を含めた全ての武器を回収してからグレリスの後について行く。
「これで良いんでしょ?」
「お、良く分かってるな」
武器を奪っておかなければ、足で自分の武器を引き寄せられて脱出に使われる危険性もあるので
アニータの行動はグレリスにとっては正しい物だった。
だが、その時ふと思い出した事があってグレリスは縛り上げた男達に近づく。
「そうだ、ナイフとか隠し持ってたりしたら厄介だからちょっと調べさせて貰うぜ」
アクション映画とかではこうした隠し持っている物が武器になるシーンが珍しくないので、すでに縛り上げてしまった後では
あるものの確認出来る範囲で男達の身体を調べるグレリス。
まさかアクション映画を好んで見ていたその経験がこの様な場所で活かされる事になろうとは思わなかった。
その視聴経験から行われた突然のボディチェックだったが、結局隠し持っている武器の類は何一つ見つからなかった。
「これで良し。ええと、それともう1つ聞きてえんだけど、この先に御前達の仲間は居るか? それからこの先には何があるんだ?」
この坑道で待ち伏せをしていたのであれば、当然この奥の事も知っているだろうと思って問いかけるグレリス。
そんなグレリスに対して2人の男は沈黙を貫くので、ふんふんとグレリスは首を縦に振って納得した。
「そーかいそーかい。何も言う気は無い、自分達で調べろってか。だったらこの先に何があるか、こいつ等も一緒に連れてって
俺達で確かめてみるとしようぜ、アニータ」
「そうね」
だったらこの男2人を一緒に連れて行けば、突然の襲撃にも色々と役に立つかもしれない。それに魔術を使って来なかった所を
見てみると、この2人も魔術は使わないのかもしれないとグレリスは踏んでいた。
そうしてグレリスとアニータは一時的に2人の身柄を拘束したまま洞窟の奥に向かって歩かせていたが、特に何も無く最深部まで
辿り着いてしまった。
「あれ、何にも無かったな」
「何かあって欲しかったの?」
「いいや、拍子抜けしただけだ。何も無けりゃそれで良いさ」
そう、何も無ければそれで良い。
事実この最深部に辿り着くまでに待ち伏せもなければ仲間と思しき人影も無く、トラップが仕掛けられている事も無かった。
やはりゲームと現実は違うと言う事らしい。
でも、その最深部は何かがありそうな場所であった。
今まで岩壁に囲まれていた坑道だったが、最深部で若干開けた場所になっていたからだ。
そしてそこには、明らかにこの世界の物では無いと言える機械のパーツが散乱していた。
「何だこりゃあ……?」
「私もここに入ったのは初めてだけど、こんな場所がここにあったの?」
グレリスもアニータも驚きを隠せない。
岩の壁や地面は相変わらずだが、そこに鎮座していたのはグレリスの地元であるアメリカで記憶に見たものである。
地元と言っても国単位の話であり、直接の地元では無い場所……全米ワースト1の治安の悪さを誇るデトロイトの話だ。
バウンティハンターの遠征ミッションでかなり遠くの場所まで行く事もあり、実はデトロイトにもグレリスのしているバウンティハンターが
行った事があった。
その時に廃墟になった工場に逃げ込んだターゲットを仲間達と追い込んだので、その時に廃墟の中で追い込んで捕まえたと
言う証に廃墟の写真を撮って来たのを見せて貰った事がある。
その時の記憶が今、この最深部の光景と重なり合っているのだった。
(何かあるかもしれねえな……)
地球に帰る為のヒントが見つかりそうなこの最深部を、グレリスは徹底的に調べてみる事にした。
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