A Solitary Battle Another World Fight Stories 5th stage第17話


「ええと、魔力って言うのはこのヘルヴァナールの世界を司る要素の事ね」

一旦他のギルドの客や受付から離れて、この世界での案内役になってくれると言うアニータから

グレリスは教えを請う事にした。

「私達人間を始めとして、この世界に存在している生物であれば必ず持っている要素、それが魔力よ」

「じゃあ、俺みたいな奴は異端な存在って事か」

「そう言う事になるわね。それで、その魔力がある事によって私達には魔術と言うものが使えるのよ」

「魔術ねぇ……」

正直言って、グレリスにとっては胡散臭いもの以外の何物でも無かった。

ファンタジーな世界観のゲームの中ではそう言うものを目にするのは当たり前の事であるのだが、現実にこうして

目の前で魔法がどうのこうのと言う現実味がまるで無い様な話を口から出す様な人間が居るとしたら、

鼻で笑って一蹴してしまうだろうと思っていた。


実際、今のグレリスは自分でそう思っていた通り鼻で笑ってしまったのだから。

「ははっ、随分突拍子も無い事を言い出すもんだぜ。魔法とか魔術とかって言われても、さっきのあの水晶玉位で

俺はまだ信じられねえよ」

自分で先程認めた筈の、この今自分が居る町がある世界が地球では無いと言う絶望感。

その絶望感を吹き飛ばしてしまう程の、アニータからの魔法が云々と言う話を聞かされてグレリスの心に僅かながら希望が戻って来る。

だって、魔力も魔術もグレリスは1度も今まで見た事が無いのだ。

「だったらさぁ、俺に見せて欲しいもんだな。その魔力とか術とかって超常現象をよぉ?」

見せられるものなら是非とも見せて貰おうじゃねえか、と言う気持ちでそう言い放つグレリスに対し、アニータは冷静な

顔つきを崩さずに手招きする。

「分かったわ。幾ら口で言った所で魔法を知らない人には説明出来ないだろうし、実際に見て貰った方が確かに早いわね」


グレリスはアニータに一旦ギルドの外へと連れ出されてしまう。

(場所を変えるのか? でも、それだけすげーもんが見られるのか?)

一体、どんな魔法を見せて貰えるんだと内心では物凄くワクワクしているグレリスの目に、この後信じられない光景が飛び込んで来た。

ギルドの外にグレリスを連れ出したアニータは、そのギルドの建物の裏側へと回り込む。

「あれっ、何で裏に行くんだ?別にギルドの入り口の前でも良いんじゃ無いのか?」

裏に回り込んで行くアニータの背中に向かってグレリスは声をかけるが、声をかけられた方のアニータはグレリスの方を振り向く事無く答える。

「裏の方には魔術や武器術の練習が出来るワラ人形が置いてあるから、そこでならジックリ見せられるのよ。

それに万が一、表通りで魔術を使って他の人に当たったりでもしたら色々と面倒な事になるでしょ」

「あ、なーるほど」

手袋をはめた手でパチーンと器用に指を鳴らして納得したグレリスの目の前に、そのワラ人形が姿を見せたのはすぐの事だった。

「おっ、これだな。さてさて、一体どんな魔術を見せてくれるのか楽しみだぜ」


未だに魔法と呼べば良いのか魔術と呼べば良いのか定かでは無いにせよ、自分の知らない世界を見せてくれるのだろうと

グレリスはアニータの動きを食い入る様に見つめる。

そんな興味津々の顔つきを見せる若きバウンティハンターの目の前で、アニータは手袋をはめている手を前に軽く突き出しつつ

ブツブツと何やら口を動かしている。

これはもしや……とグレリスが考えた次の瞬間、彼女が手のひらを向けていた先に吊るされているワラ人形がブワッと大きく揺らめいた。

「おおっ、今のが魔術か!?」

「そうよ。簡単な初級魔術だけどね」

「それでもすげーよ。今呪文唱えてたんだろ!? 俺そう言うの見た事ねーもん!!」

ファンタジーな世界観の創作物の中の出来事でしか無かったものが、今こうして現実となって自分の目の前で起こった。

これだけでもグレリスにとっては感動で胸が一杯になりそうだった。

(あー、まさかこんな体験が出来るなんて、今の俺マジで輝いてるかもしれねー!)


はたから見れば、別にお前が輝いている訳じゃないだろうと言う突っ込みをされそうなグレリスの脳内コメントだったが、アニータはグレリスが

そんな事を考えているとは夢にも思わずに次の魔術の実演に移る。

「それじゃあ次に行って良いかしら?」

「え? あ、お、おーおー。じゃあどんどん見せちゃって!」

魔術を自分の目で見られた事でによって何だかテンションが上がって来たグレリスと、あくまでクールな態度を崩さないアニータ。

そんな彼女を見てクールな女だなーとグレリスは思いつつも、まだ色々な魔術を見せてくれる様なので胸がドキドキしてワクワクしっ放しだった。

まるでこれから、ずっと心待ちにしていた休日にそれこそ待望の遊園地に連れて行かれる前の子供の様な目つきでグレリスは

次の魔術をアニータが出してくれるのを待った。

(次は一体どんな魔術を見せてくれるんだよ、この異世界人の魔法使いは!?)


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