A Solitary Battle Another World Fight Stories 5th stage第18話


「う、浮いた!?」

グレリスの目の前で信じられない出来事が再び起こる。

何故なら、今まで地面に立っていた筈の人間が今目の前で自分の斜め上に浮いているからだ。

勿論ワイヤーアクションなんかじゃ無い。

向こうが透けて見える足場になっている透明な板がある訳でも無い。

紛れも無くこれは魔術。

フワフワと空中にアニータの身体が何の支えも無しに浮かんでいるのだ。

「す、すげえええええええ!! なぁなぁ、一体どう言う原理でどうやって身体浮かせてるんだよ!?」

興奮の余り、グレリスが空中に居るアニータに向かって叫ぶ。

するとアニータはスイーッと音がしそうな滑らかな動きで、空中を斜めに移動してグレリスの目の前に下りて来た。

しかも完全に地面に足が着くまで下りるのでは無く、10センチ位空中に浮きっ放しのままで説明を始めた。

「これも同じく風の魔術よ。基礎的なものだけど、意外と役に立つわ」

「すげえなぁ、魔術って本当にすげえなぁ!!」

俺も使える様になりたいなと思いつつ、グレリスはストレートに思った事を口に出して行く。


しかし、次にグレリスが口に出した一言がそのグレリスとアニータの両方に不信感を芽生えさせる事になる。

「俺の世界じゃこんな事が出来たらスーパースターになれるぜ。一見何にも無い筈なのに、しっかり今でも空中に浮いてるんだからよ」

「……えっ?」

グレリスのそのコメントに対して、今の今まで落ち着き払って説明をしていたアニータの顔にハッキリとした驚愕の表情が浮かんだ。

「何も無いって……それ、どう言う事?」

「どう言う事も何も、普通に俺の目には何も見えねえよ?」

「えっ?」

「んっ?」

何だか会話が噛み合っていない様子だ。

「いや、だから俺の目にはあんたの姿は見えてるぞ。けど、それ以外には何も見えねえよって話だよ」

「あ、ああ……私の姿が見えるのならそれは大丈夫よ。一瞬何を言っているのかと思ったわ」

はあーっと息を吐いて、やれやれと言う表情でグレリスが首を横に振るのと同時にアニータもまた落ち着きを取り戻す。


……筈だったが、次のアニータの一言によってまた2人に不信感が生まれる。

「てっきり魔術が発動していないかと思ったわ。だったら、私の魔術が発動している証も見えるわよね」

「……ん?」

「えっ?」

「魔術が発動している証ってどんな証だ?」

「えっ……証は証よ。ほら、ここにあるでしょ?」

「いや、俺には何も見えねえよ?」

やっぱり何だか2人の会話が噛み合っていない様である。

「嘘ついたの?」

「いやいやいや、俺は嘘なんかついてねーよ。その魔術の証明がどうのって話に関しては俺は全く見えないって事だよ!」

「ええっ!?」

アニータには見えるけど、グレリスには見えないものがあるらしいので1度御互いに話を整理して確認する事にする。

「ちょっと待てよ……それじゃあれか? 俺には見えない何かがあって、あんたにはそれが見えている前提で話が進んでいるって事なのか?」

「どうもそうらしいわね。そうでも無ければ、こんなに話が食い違う事なんて無いと思うわ」


一旦話を纏める事にして、何とか冷静になる様に落ち着いた口調を心がけるグレリス。

「ええと、それじゃああんたは何処に何があるって事を言いたいんだ? それが分からないんじゃどうしようもねえ。

魔術が発動している証って事だよな?」

そう問い掛けてみるグレリスに対して、問い掛けられた異世界人の魔法使いの女は自分の足元をぐるっと腕全体を使って指し示す。

「私の足元に、円を描く形で緑色に光っている輪があるのよ。輪の端の部分は青白い光になっていて、それがこの魔術が

発動している証になるって訳」

嘘をついている様子でも無く、真剣な眼差しでそう説明するアニータだがグレリスの顔つきは渋いままである。

「やっぱり見えないかしら?」

「全く見えねえ。あんたが空中に少しだけ浮かんでいるのははっきり分かるんだが、そのあんたの目で見えているって言う緑の

サークル? って言うのは俺の目には何も見えないな」

「そう……なの……」


一体これはどう言う事なのだろうかと思って2人で腕を組んで考えてみるも、結論はまるで出そうにない。

「俺の言ってる事も正しいし、あんたの言っている事も正しいって事になる。どっちかが嘘をついていなければの話だけどな」

「そうね。こんなにお互いの話が平行線で進む訳が無いし、ここまでこんな話を引っ張る程私も暇じゃ無いからね」

「俺だってそうさ」

よっぽどの暇な人間で無い限り、ここまで生産性の無い会話で盛り上がれる人間は居ないだろうと2人は結論付ける。

そしてアニータはこんな事もグレリスに聞いてみる。

「……もしかしてさっき、私がワラ人形を風の魔術で動かした時に私の手のひらから緑の光が出たんだけど、それもまさか見えなかった?」

「緑の光……いいや、それも見てないな。ワラ人形を動かしたから魔術だって言うのは分かったんだけど、光なんて見えなかったぜ」

どうやら、魔術に関しては自分と異世界の人間との間に大きな認識の違いがある様だとグレリスは悟った。


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