A Solitary Battle Another World Fight Stories 5th stage第16話


「地球って……そんな世界の名前なんか聞いた事は無い」

受付の男がグレリスにとって絶望的なセリフを吐き出すと、それに続いてアニータも思い出した事があったので口を開いた。

「そう言えば貴方、さっきも私に同じ様な事を聞いていたわね。確かアメ……リカ? とか何とか。

それもかなり必死だった様子で。その地球って言う言葉と関係があるのかしら?」

悪気は全く無かった。

むしろ、アニータはストレートに自分のさっきの経験と今の受付の男にグレリスがしていた質問を横で聞いていて

自分も聞いてみようと思っただけだったのだが、問いかけられた方のグレリスに悪魔の宣告にも似た様な響きを

もたらすのにはそれだけで十分だったのである。

「何だよ、これ……。なぁ、こんなタチの悪いジョークは幾ら俺でも勘弁して欲しいぜ!?」

「冗談だったら私達はここまでしていないわよ。どうも色々と、それも私達の想像を遥かに超えるレベルの事態に

貴方は巻き込まれてしまったみたいね」


冷静な口調ではあるものの、明らかに驚きの感情がアニータのその声で表現されているのがグレリスにも分かった。

グレリスは対照的に、顔だけでは無く体全体までがっくりと肩を落とした状態で落ち込み様を表現していた。

しかしこのままでは話が進まないし、複数人の人間達の前で自分がどうやら違う世界から来てしまったらしいと言う事を

暴露してしまった為に、グレリスは自分の今までの経緯や地球の事等を説明しなければならなくなった。

「……もう、こうなったら認めるしかねえのかよ……」

まだ認めたくない気持ちで頭の中が混乱状態にあるグレリスだが、周りの空気を感じてみれば嫌でも認めるしか無さそうである。

「この世界は俺の知っている世界じゃねえみてえだ。俺にとっては、この世界は異世界って奴じゃねえかって今は思ってる」

「い、異世界って……何訳の分かんない事言ってるのよ?」

またもや周囲の空気が変わったのをグレリスは感じ取った。

それは哀れみか、それとも呆れ返っている空気なのか。

いや、どっちの意味もミックスされた空気と考えるのが最も自然な結論である。


(うっわ何だよこの空気……。でも良く良く考えてみれば、もし俺が逆の立場だったらこいつ等と同じ気持ちになる事は

簡単にイメージ出来るぜ)

そりゃーそうかとこの時点でグレリスの中で何かが吹っ切れてしまい、今ここに居る人間達にだけ話す事を決めた。

「俺だって実感出来ねーよこんなシチュエーション。だけど、俺以外のここに居るみんなが嘘をついている様には見えないからな。

それに今更やっぱ違うんですって立ち去るのも無理な話だから、もう潔く話すわ」

ただし、とそこでグレリスは一旦セリフを切って条件をつけておく事を忘れない。

「口約束だけでも約束して貰いたい。俺が異世界から来たって言う事は秘密にして欲しい。それと、俺はこの世界について

全く知らないしこの世界の人間に恨まれる様な事をした覚えも無いから、このエンヴィ何とかって言う世界の事も俺みたいな

魔力が無い奴ってのが何でこんなに非難されてるのかって事、後は騎士団長殺しの話についてもしっかりと俺に教えて貰わねえと

お互いにいがみ合ったままになるだろ?」


グレリスがそう言うと、アニータからはこんな返答が。

「それは確かに言えているわね。けど、全てを約束するのははっきり言って不可能に近いわよ」

「はあ!?」

いきなり自分の意見を否定される様な事を言われてしまい、グレリスは思わずカッとなってしまった。

だがそんなグレリスの口から追及のセリフが出て来る前にアニータが更にセリフを続ける。

「この世界の人間を含む生物達は絶対に魔力を持っている事が当たり前なのよ。そしてそれはお互いに近づいた時点で

どれ位の魔力があるかって事まで分かるから、貴方が魔力を持っていない事はこうして今もここに居る全員が理解しているって訳」

そう言われてもグレリス自身は実感が無い。

「前にも言った様な気がするけどもう1度言っておく。俺は生まれてからずっとこの身体で生きて来たし、そもそも俺の世界に

魔力なんてものは無いんだ。だからまず魔力ってものについて教えて貰う所から始めないと、俺にとってはさっぱり何の事だか分からねえ」


グレリスも確かにファンタジーなゲームは結構プレイするタイプだ。

しかしあくまでそれはゲームの中の話。現実には存在していない架空の世界の話。

現実は1人のバウンティハンターとして働いている若者である。

自分でもゲームと現実の区別はついていると思っていたし、勿論今の様な状況に遭遇した事も無かったしそんな事を考えた事も無かった。

だが、こうして今の自分に起こっている事はどう考えても現実に起こっている事態なのだとグレリスは認めざるを得ない。

だったらこの現実を受け入れて行動するしか無いのだと思い、グレリスはまずこの世界の事を教えて貰う事から改めてスタートする事に決めた。

ゲームの世界では無い、このファンタジーな世界でのこれから先の旅路で生き残る為に。そして地球に何としてでも帰る為に。


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