A Solitary Battle Another World Fight Stories 5th stage第15話
「まあまあ、みんな落ちついて。まだこの人は何もしていないわよ」
「しかし、アニータさん!!」
「私がこの人は何もしていない事の証人よ。少なくとも、私はこの人の知り合いだしギルドのランクも
Bクラスだから、それなりの発言力はあると自負しているけど」
冷静だが力強い口調でギルドの中に居る人間に対してそう言うアニータに、グレリスとアニータ以外の
人間はうっと言葉を詰まらせてしまった。
本当にアニータは発言力のある人間らしいとグレリスは心の中で感謝しながら、アニータの出方を伺う為に
水晶玉に手を置きっ放しにしておく。
「とりあえず、あなたの魔力が無いと言う事はこれではっきりしたわね」
「って言われても、俺は生まれてからずっとこの身体で生きて来た人間だからよぉ。魔力が何だのって
言われても心底さっぱりなんだわ」
グレリスのそのセリフは本心から出たものだった。
その本心からのセリフに対して、若干ではあるがギルド内のピリピリしていたムードが和らいだ気がした。
「とりあえず、あなたの仕事を何とかしないといけないわね」
アニータはそう言ったものの、現実はそうそう上手く物事が進んでくれないと言うのはここでも同じ事らしい。
水晶玉から手を離して黒い手袋をはめ直したグレリスに対して、ギルドの受付の男からは無慈悲な言葉が告げられる。
「魔力を持っていないとなれば、それだけで出来る仕事は全くと言って良い程無いな」
「え? それはどうしてだよ?」
「そもそもギルドから仕事を貰う……と言うか、ギルドが仕事を紹介出来るのはギルドに登録している人間だけなんだ。
その為には魔力の測定が義務付けられていて、しかもその魔力の大きさによって選べる仕事って言うのも限られる。
魔力が無い人間がギルドに登録出来るかどうかは国次第って事だな」
「そうなのか。でも、俺は国から変な目で見られる可能性が高いって事なんじゃ無いのか?」
グレリスがそう問うと、受付の男は渋い顔をしてうなずく。
「それは確実にそうなるだろう。魔力が無い人間は、俺も含めてこの国の連中からは忌み嫌われている存在でもあるんだ。
災厄をもたらす人間としてな」
その一言で、グレリスがさっきまで聞きたかった事が一気に押し寄せて来た。
「それさぁ、さっきからずっと聞いてるんだけど一体どう言う事なんだ? 何で魔力を持っていない人間が災厄を
もたらすって事で嫌われてるんだよ? 俺は何にも知らねえし、あんた等に何かした覚えもねーよ」
これもまた本心から出て来たグレリスの言葉だった。
災厄をもたらす存在と言われても、魔力を持たない人間だと告げられても、自分は今までこの身体で生きて来た訳だし
何よりこのギルド内部に居る人間に災厄をもたらそう等と言う気はグレリスには一切無かった。
それも今の時点では……と言う事なのだが。
その疑問を解消してくれる事を希望しているグレリスに対して、彼の後ろに居るアニータが一言呟く。
「騎士団長殺しよ」
そう呟いたアニータに対して、グレリスはパッと素早く後ろの彼女の方に振り向いて若干早口で喋る。
「そうそうそれそれ。騎士団長殺しと魔力を持たない人間って言うのがすげー関係ありそうなんだけど、知ってるなら教えてくれよ。
ってか、俺は本当に騎士団長なんて知らねえんだ。そもそもこの科学技術が進歩している時代に騎士団なんてまだあるのかよ?
マルタ騎士団位しか知らねーぞ、俺は」
半ば呆れた様な口調でグレリスがそうぼやく。もう色々と面倒くさいから、さっさと説明してくれと言う気持ちで一杯だ。
だが次の瞬間、さっきとはまた違った空気がギルドの中を満たしたのにグレリスは気が付いた。
今度は怒りや憎しみと言った感情では無く、このギルドに踏み込んだ時と同じ様な好奇の視線や驚きの感情と言うものだった。
「えっ? そっちこそ何言ってるんだよ。騎士団と言えば普通にどの国でもこの世界には居るだろ。そのマルタ騎士団? って
言う騎士団こそ俺達は聞いた事が無い。この国に居る騎士団はソルイール帝国騎士団だ」
またその名前、ソルイール帝国。
その名前に心当たりが全く無いグレリスは、もうこうなったらストレートに聞くしか無いと決意した。
「俺はソルイール帝国って言う国自体知らねえ。何処の地域だよそれ? 名前からするとヨーロッパっぽいけどよぉ」
「ん? ヨーロッパ?」
「え?」
「えっ?」
何だか話が噛み合っていない。
目の前に居る受付の男からは、嘘をついている雰囲気はまるでグレリスには感じられない。
と言うよりも、周りの空気からしてみるとどうやらおかしいのは自分の方では無いのかと非常に不安な気持ちが大きくなって来た。
と言うか、このままこの会話が進んで行くとはっきり言って嫌な方向にしか向かいそうに無い状況である事にグレリスは気が付き、
首筋の後ろを冷や汗が流れるのが分かる。
それでも、これだけは絶対に今この場で聞いておくべきだろうと若きバウンティハンターは勇気を振り絞った。
「なぁ……この世界って、地球じゃ無いのか?」
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