A Solitary Battle Another World Fight Stories 5th stage第10話


「うおわっ、とっ!?」

エスクリマを習得しているとは言っても、実際にその習得したテクニックを使った事がこれまでに実戦経験の中で

2〜3回程しか無いグレリス。

しかもエスクリマは人間相手の武術なので動物相手に戦う様には教えられないのもまた事実。

更に言ってしまえば、グレリスはあの男に取られてしまったままの自分のリボルバーをターゲットに向けてホールドアップさせて

決着をつけるか、器械体操で培ったその身軽な動きで逃げるターゲットに飛び掛かって地面に押さえ付けて逮捕すると

言うやり方位でしかミッションをこなして来ていないので、格闘戦は実はそこまで得意では無いのである。

あいにくバジリスクは動物……それも大きなトカゲ。

それに今回は自分がターゲットを追い詰めた上で戦うのでは無く、自分がターゲットになっているシチュエーションと言う違いがある。

何故この様なシチュエーションになっているのかと言えば、グレリスはバジリスクを相手にしないでさっさと脇をすり抜けようと

早足で駆け抜ける気持ちで一杯だった。


だがバジリスクの方は腹が減っていたのかそれとも機嫌が悪かったのかは定かでは無いが、自分達の脇を通り抜けようとした

グレリスにいきなりタックルを、それも2匹同時に仕掛けて来たのだ。

だから今グレリスは、自分の中では空想上の生物と言う認識でしか無かったこのバジリスクとバトルをする破目になってしまっている。

もちろんこんな生物と戦った事なんて無い。

そもそも何故自分が狙われるのかすら分からない。

バジリスクの顔面を蹴ったり器械体操で身につけた柔軟性を活かして頭部目掛けてかかと落としを決めてみたりするが

そこそこの効果しか無い様子。

それでもこれだけ戦えている理由としては、バジリスクの攻撃がタックルか噛み付きくらいしか無い上に動きも全然遅いので

グレリスのスピードの方が圧倒的に勝っているからその分攻撃を多く当てられるのだ。


逃げられるものならさっさとグレリスは逃げたい所だが、上手い具合に挟み込まれた状態でバトルしているのでなかなか逃走の

チャンスがやって来ないのが現状だ。

「こ……っのぉ!!」

前方空中回転かかと落としと言う非常にアクロバティックなテクニックをバジリスクの頭部に繰り出すグレリスだが、何とかもう1匹の

バジリスクがかかと落としで狙ったバジリスクをタックルで突き飛ばして避けられてしまった。

(嘘だろ!?)

声にこそ出さないものの、明らかに上手い連係プレイを見せた空想上の生き物にグレリスは驚きと称賛と若干の恐怖が混ざった

表情を浮かべながら素早く立ち上がる。

そして一旦バジリスク達と距離を置き、体力を回復して息を整えながら出方を窺う。


(くそっ、何てこった! これがもしゲームだったら必殺技とかがあるんだろうが、俺にはそんなもん無えぞ!?)

アクション映画も見るし、ゲームもそれこそアクションからRPG、FPSまでワクワクドキドキする様なジャンルをプレイするグレリスだが、

所詮ゲームの中の世界はフェイクであり、実際にこうしてモンスターと戦ってみるとこのレベルの敵でも大きな苦戦を強いられる事を

今まさに身を持って実感させられている。

そしてそこで、グレリスはさっきから覚えている違和感についてバジリスクから目を離さずに考えてみる。

(まさか……まさかだけどよ、こんな異常なナリをしてる様な奴等が普通に居るなんて地球じゃ考えられねえよ。しかも誰かのイタズラって

訳でも無さそうだし、そもそもイタズラならここまでしねーだろうし、したとしても何処かでストップがかかる筈なのに、それをしねーって

言うかそもそもこれはイタズラでも何でも無い……)

むしろ、これは流石にジョークでは済まされない事態なんじゃないか?


そんな事を考えるグレリスの頭の中を見透かしたのか、再びバジリスク達は牙を剥いてグレリスに襲い掛かって来た。

「……ああくそっ!!」

こうなったら隙を見て逃げ出すしか無い、とグレリスが心に決めたその時だった。

何処からか風を切る音がした。

ヒュッと風を切って飛んで来たのは1本の矢。その矢が命中したのはバジリスクの片割れ。

ギエーッと悲鳴を上げて矢が命中したバジリスクが倒れ込む。

(な、何だぁ!?)

一瞬動きを止めてしまったグレリスはもう1匹のバジリスクに反応するのが遅れてしまい、タックルを食らってしまいさっきの

バジリスクと同じ様に地面に倒れ込む。

更にグレリスに追い討ちをかけようとしたバジリスクだが、またもやヒュッと風を切って飛んで来た矢に身体を射抜かれる。

(何だ、何があったんだ!?)

突然の出来事に頭が全くついて行かないが、バジリスクが2匹とも矢が刺さって絶命してしまった事だけは確認出来る。

となればこの矢を放った人物が何処かに居る筈だと、グレリスは周囲をキョロキョロと見渡した。

そんなグレリスの前に矢を放った人物が現れたのは、それから数秒後の事だったのである。


A Solitary Battle Another World Fight Stories 5th stage第11話へ

HPGサイドへ戻る