A Solitary Battle Another World Fight Stories 5th stage第7話


そんな大きな罰を与えられたグレリスの逃走劇はまだまだ終わりを迎えそうには無い。

角を曲がり階段を駆け上がったかと思えば、また敵に阻まれるので身軽な動きで敵を押し退けて進む。

息も段々上がって来ているので、人数差を利用されて追い詰められてしまうのは時間の問題だとグレリスは感じていた。

(くそ……このままじゃ殺られるぜ!!)

どうにかして外に出てしまえば……とシンプルに考えた彼は、次の角を曲がった通路を走り出した瞬間に閃いた事が1つあった。

(あっ、そうだ。別に真面目にドアから出なくても良いんじゃねえのか?)

出入り口を探して走り回っていた自分だが、その出入り口が見つかる気配が無い。

だったら、その出入り口を自分で作ってしまえば良いのでは?

(あーっ、逃げるのに必死でこんな簡単な事に何で気がつかなかったんだろ俺!!)

極限状態に追い込まれた人間はなかなか思考が思う様に回ってくれないのだと実感しつつ、後ろの敵を少しだけではあるが

引き離したのを確認してからそばにある窓を黒い手袋をはめた手で全力で開け放つ。

その瞬間強い風が吹き込んで来て一瞬たじろぐグレリスだが、まだ追っ手が来るまでには時間があった。


窓の下を覗き込んでみると、偶然なのか丁度良かったのか真下の階に小さなベランダがついている。

次の瞬間、迷う事無くグレリスは窓の枠に足を掛けてそのベランダ目掛けて飛び下りた。

時間にしては約1秒位ではあったものの、グレリスには凄く長い時間に思えたそのジャンプで外に出る事に成功。

だが、ここはまだ2階部分。

自分が今ジャンプで踏み切ったフロアは3階らしく、下に飛び下りるには高さがあり過ぎる。

しかも今度は真下に何もついていない為に、このまま飛び下りて怪我をしたら今までの苦労が水の泡になってしまうのが目に見えていた。

(ここからじゃ飛ぶのは無理だな……)

ならばしょうがないので、グレリスはそのベランダの窓を開けて再度建物の中へ。

どんな建物なのかを確認したかった所ではあるが、この追われている状況下でそんな時間の余裕は無かった。

それを考え始めると色々とまた疑問が湧いて出て来そうなので、今はとにかく外に出るのを考える。


でも、考える事がまだ他にもあるのをグレリスは思い出した。

「あっ! 俺のリボルバーとバッジ!」

思わず口に出してしまった程の大事な物。自分にとってどうしても必要な物。

あの男に取られっ放しで、今まで逃げる時に必死ですっかり忘れていたのだ。

と言われても、ゆっくり探し回れる程の時間の余裕はやっぱり無い訳で。

(くっそ、これじゃあ諦めるしかねーじゃねーかよ!)

リボルバーはまた買い直せば良いし、バッジもまた発行して貰えるかも知れない。

何よりも今必要なのはここから逃げ出す為の自分の人命なのだ。

その人命第一で再び建物の中へと飛び込んだグレリスは、息を切らせながら下の階段を目指して走る。


一旦休んだ事で運が向いて来たのだろうか? 今度は下に向かう階段がすぐに見つかったのだ。

(よっしゃ、後は出口に向かって突き進むだけだぜ!!)

ようやく外に出られるかも知れないと言う希望を持ったグレリスは、上の階から聞こえて来る怒声を遠くに聞きつつ通路を

駆け回って出口を求めて走る。

(ここを出たらどうやって後は逃げるかだよな)

さっき窓から飛び下りたベランダからの光景は、実際の所は気が動転していて余り覚えていない。

もっと冷静になっておきたかったがこの状況ではなかなか難しい。

(1つだけ覚えているのは、確かこの建物の周りは不自然に高い塀に囲まれていると言う事位かな)

塀に囲まれている建物と言う事は、例えばVIPの豪邸であったり何処かの研究施設だったり工場だったり、他にも色々と考えられる建物は存在する。

でもこの建物の中を突っ走ってきた限りではVIPの豪邸と言う感じはまるでしないので最初の予想はグレリスの中で却下された。


(となれば、考えられる事としては何かの研究施設か工場か……? 実験材料がどうのこうのってそう言えばあの牢屋であいつに俺、言われたっけ)

魔力だか何だか知らないけど、実験材料にされる位ならここから逃げ出してやると言う意気込みで実際にこうして逃げ出す事に半分は成功している。

残りの半分は塀を越えた向こう側へと辿り着く事で達成されるのかもしれない。

やっぱり何かの研究施設じゃないのかと言うイメージが付きまとうこの建物の出入り口が見えて来たのは、牢屋であのムカつく男との

やり取りをグレリスが思い返していたそんな時だった。

(あっ、出入り口だ!!)

半開きになっているので外が見える両開きの赤いドア。無駄に革張りで質感が良さそうだ。

出入り口如きでこんなドアを作るって言うのも何だか不自然な気がするが、それでも出入り口だと分かるって言うのは嬉しかった。

(はっはっは、ざまあみやがれってんだ!! 俺をあんな狭い場所に閉じ込めるなんて1000年はええんだよ!!)

心の中で大爆笑しながらグレリスは出入り口を盛大に蹴り飛ばして脱出したのだが、その爆笑はすぐに驚きの表情へと変わるのだった。


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