A Solitary Battle Another World Fight Stories 5th stage第8話
「全く、これだけの騒ぎを引き起こしておいて良く脱出出来たわね」
ピンクがかった赤いショートヘア、明らかに戦闘用に見える茶色の肩当てに胸当ての軽めの装備、
その装備と一緒に腰に取り付けられている矢筒、そして矢筒に入っている矢を射る為に手に
持っている弓……大きさからするとロングボウだろうか? とにかく弓使いのイメージが完全に
ピッタリ当てはまる、グレリスにとっては見覚えがある女が何故かそこに立っているのだ。
「えっ……は? あ、あれ? 何で、え……どうして……!??」
その女は間違い無く、あの地下牢でグレリスが一瞬の隙を突いて閉じ込めた筈の女だったのだ。
(何故だ……あの牢屋に俺はこの女をしっかりと閉じ込めて、しかも鍵まで奪ってから逃げ出した筈だぞ!?)
なのにその女は今、間違い無く自分の目の前にこうして立っている。
となればあの牢屋を壊して出て来たのか、それとも仲間の誰かに牢屋から出して貰ったか位しかグレリスには思い付かなかった。
どうやって出て来たのかを本人に是非とも聞いてみたい所だが、若きバウンティハンターにはあいにくそんな時間は無い。
実験材料にされる前にここから逃げ出さなければいけないからである。
もしこの女が自分の逃走の邪魔をすると言うのであれば、当然グレリスは強行突破を考えていた。
「そこを退け! 俺の邪魔をするなっ!」
警告のつもりで女にそう叫び、この警告でも退かないのであれば強行突破しか無いと決意したグレリスに対して、
女はグレリスが全く予想していなかったセリフをその口から吐き出した。
「そう熱くならないでよ。私は貴方をここから逃がす為にここにこうして居るんだから」
「……え?」
グレリスは一瞬自分の時が止まった様な感覚に陥った。
今、この女は何と言った?
自分を逃がす為にここに居るだって?
時間が再び動き出したグレリスは、鼻で笑って女のセリフに耳を貸そうとはしない。
「はっ、人をバカにするのも大概にして貰いてえな! 俺を逃がす? 一体お前に何のメリットがあるんだよ。
俺を追っている奴等の仲間なんだろ?」
それでも女の態度は冷静なものだった。
「ふうん、それじゃ勝手にすれば良いわ。だけど1つだけお情けで教えてあげる。ここから左斜め前に向かって真っ直ぐ進んで行けば、
大きく生い茂っている植え込みの死角になる場所の塀に穴が開いているわ。丁度人間が1人通り抜けられる位のスペースがね。
そこを抜けたらこの研究所の裏口に続く道に出る。その道を道なりに進んで裏口を抜け、先の林から町に向かって下りる事が出来るわ。
信じるも信じないも貴方の勝手だから、私は案内しないわよ。それじゃ」
謎の女はそれだけ言い残して、騒ぎに巻き込まれないべく素早く立ち去って行った。
「何だったんだあの女……っとやべやべ、俺も逃げねえとな!!」
自分の逃走劇はまだ終わっていないのだと思い直して足を踏み出そうとするグレリスだが、肝心の出口の当ては見つかりそうに無い。
正面玄関らしきこの入り口の前にはそれなりに広い庭園が広がっており遠目に見てもその庭園の中には何人もの見張りらしき
人影が慌ただしく動き回っているのがグレリスの目にも見える。
もしここを無傷で通り抜けろと言われたら無理な話だし、今の今までずっとこの建物の中を駆け抜けて来たので体力もかなり減って来ている。
それに、グレリスは今の女が言っていた説明の内容が気になっていた。
(あの女、1つだけって言ってた割には結構長く説明してくれたもんだな。……けど、初対面の相手にあんなに長々と説明するか、普通?)
デタラメな情報を教えるにしてはやけに詳しく説明してくれた。
しかもまるで最初からこの建物がある場所の事を知り尽くしている様な口ぶりだったし、ルートの説明にも戸惑いの無い
はっきりとした声だったのでグレリスはどうしてもそこが引っかかるのだ。
(もしかして、俺を誘い込む為の罠として俺を追いかけて来ている奴等の手先って言う可能性が……)
かなり高いだろうな、と思っていたグレリスの後ろからバタバタと慌ただしい足音と怒声が響いて来た。
「やべっ!!」
思わず叫んでしまい、咄嗟にグレリスは女が示していた左斜め前方へと駆け出す。
もうこうなったら、あの女のセリフを信じて抜け道があると言うルートに向かうしか無さそうだ。
(くっそ、光に包まれたかと思ったらいきなり変な牢屋みたいな場所に出て来るわ、リボルバーもバッジもあの変な格好の奴に
取られちまうわ、牢屋から抜け出したら今度は追い掛け回されるわ!!)
しかもその前に大事な収入になる筈だった依頼を失敗してしまい、苦労して疲労しか残っていない状況だ。
(あーもう散々だぜ!! 誰か俺に癒しと安らぎの時間を与えてくれ!!)
そんなものを与えてくれる前に、もしかしたらこの先で力尽きるかも知れないと言う思いが頭の中を支配しようとするので、
グレリスはブンブンと頭を強く横に振って嫌な考えを振り払いながら再び走り始めた。
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