A Solitary Battle Another World Fight Stories 5th stage第6話
「あいつは居たか!?」
「向こうも探してみろ!」
「そっちに回れ!」
大騒ぎになっている建物の中。
と言うのも、今のグレリスは窮地に追い込まれている身になっていたからだった。
(あーちっきしょー、こんなのってありかよぉぉ!?)
今の状態から遡る事およそ7分前。
グレリスの不運はそこから始まった。
あの見張りを避けて開いたドアの部屋に飛び込んだまでは順調だったのだが、その部屋そのものがまずい場所だった。
(……げっ!?)
多数の視線が自分の方に向くのが分かる。
それもその筈、グレリスの視線の先には鍛練に励んでいる大人数の男女の姿があったのだ。
鍛練用の武器なのか真剣なのかは分からないが、招かれざる客としてロックオンされてしまったらしいグレリスは
その部屋の中に居た人間達に追い回される結果になってしまった。
しかも追い回されるだけの理由がグレリス本人にはさっぱり分からないので困惑したままの追いかけっこが幕を開けたのだ。
武器を振りかざして向かって来る大人数の人間。グレリスにとって友好的な存在では無いらしく、応戦しようにも武器が無い。
弾丸こそベストの内側にぎっしりと詰め込んである感触があるものの、その銃弾を発射する為に必要なリボルバーは
あの男にとられてしまったままだ。
更にバウンティハンターとなってからは、犯人逮捕の為にアメリカ各地で普及しているエスクリマのレッスンを18歳から
受けているグレリスだが、それでもこの人数差を相手にするのは不可能。
アクション映画の中の格闘シーンと、実際に自分で格闘のスパーリングをして比較してみると
「やっぱり作り物の世界なんだな」と感じる事が今までに多々あった。
今の状況で出来るのは、とにかくこの大人数の団体から逃げ切るかもしくは身を隠す事。
と言ってもこの建物の中の土地勘が全く無い以上、信じられるのは自分の身体能力と運だけだ。
グレリスの場合、運が絡む事は結構有り得るパターンだと思っている。
特別自分が運の良い人間であると思った事は無いものの、実際に運が味方してくれたり敵になったりとバウンティハンターの
生活の中でそうした経験が何回もあったのだ。
例えば、何年も逃げ回ってなかなか捕まらない事で有名なターゲットをひょんな事から捕まえる事が出来た。
それこそ、この不気味な場所で目が覚める前に自分が狙っていたターゲットを警察の手柄と言う形で捕まえる結末になってしまって
結局は体力と時間とバイクのガソリンの無駄に終わってしまった。
後者の事例は1番最後に経験した最新のものである以上、自分の実力だけではどうにもならない事だって存在するのを
グレリスは身を持って思い知って来たのだ。
今だってそれは同じ。
幾ら武術の達人でも、出来る事と出来ない事があって当然と言えよう。
ここは突っ込んで袋叩きにされるのは目に見えているので、突っ込む振りをしてグレリスは器械体操で培った身軽な動きを
最大限に活かす事にした。
「っ!!」
突っ込んで来た1人をスライディングの足払いで転ばせ、続けて向かって来た1人を床を転がって回避。
更に前方回転のハンドスプリングでけん制しながら立ち上がり、一目散に自分が入って来たドアとは別の方向の出入り口へと向かう。
そっちの方の出口は別の部分の通路に繋がっており、とにかく運任せでグレリスは狭い通路を駆け抜ける。
そんなグレリスの前方からは新たな敵が手に鉄パイプやロングソードの様な物を持って出て来たので、それが振るわれる前に
両手で力任せに押しのけて何とか通過。
突き当たりの直角コーナーを曲がり、また前方から出て来た敵は壁に取り付けられている窓枠に足をかけて敵の横を通る形でかわして回避。
別にアクロバットなアクションは必要無い。必要なのはここから逃げ切れるだけの体力とテクニックと運だ。
(何時まで体力が持つか分からねえ!!)
パルクールのアクションも本や動画投稿サイト等色々なメディアで見た事はあるが、あれは器械体操のテクニックも入っては
いるもののまた違うテクニックで構成されている。
そのパルクールのアクションシーンも思い出しつつ、見よう見真似でグレリスは通路を駆け抜けながら現れる敵を退ける。
本当は倒して進む事が出来ればもっとゆっくり出来るのだが、この建物の構造が分からない上にどれだけの敵の数が自分を
待ち受けているのかすら不明な今の状況ではゆっくり出来そうに無かった。
それでもこうなってしまった以上は何としてでも逃げ切るしか無い。
武器を取られ、敵に追われ、そして今こうして逃げる状況になってしまった若きバウンティハンターは心の中で神への恨み言を呟く。
(くそぉ!! 俺が一体何をしたって言うんだよぉ!? 俺が用を足した場所はきちんと掃除するからそれで良いだろう!?)
切実に訴えかけるグレリスだったが、その訴えは神には届かない様である。
こんな事になるなら、家まで何とか頑張って我慢すれば良かったか。
そう後悔してももう遅い。神はどうやら、グレリスに相当な罰を与えてしまったらしい。
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