A Solitary Battle Another World Fight Stories 5th stage第4話


だが、現実は厳しい。

牢屋の中には吊りベッドと悪臭漂う排泄用の木製の小さな桶以外に何も無く、出入り口は普通の鍵に

プラスして南京錠で封鎖されているおまけ付きだ。

鉄格子の隅には食事を受け取る為であろう小さい隙間が空いているが、とても身体を突っ込んで抜けられそうには無い。

つまり、脱出に使えそうな物は見つけられなかった。

(ちきしょう!! 後は俺の持ち物……あっ!?)

何かを自分の服から発見した訳では無い。

むしろズボンのポケットに入れておいた筈の財布や家の鍵、それから着込んでいる茶色い革のベストの内ポケットに

入れておいたバウンティハンターの身分証明やバッジも無くなっている。

(あの野郎か!? きっとそうに違い無ぇ!!)


さっき自分の愛用のリボルバーをこれでもかと言う位に見せびらかせられてバカにされた事を考えると、他の持ち物が

全て無くなっている今の状況を作り出したのもさっきのあの男の可能性が非常に高いとグレリスは考えた。

(くそっ!! 行きつけのバーの女からやっと手に入れたシークレットナンバーの書いたメモとか色々財布に入ってたし、

何より身分証とバッジが無けりゃバウンティハンターの活動が出来ねーじゃねーかよ!)

前者はともかく、後者の2つは自分の仕事で無くてはならない必須アイテムである。

だったらなおさらの事、仕事に必要な道具である以上返して貰わなければいけない。

それには何としてでもまずはここから脱出して、あの青だか黒だか微妙な色合いの髪の色を持つ男を探さなければ

いけないのだが、今しがたこの牢屋を探しても自分の服を漁っても脱獄に利用出来そうな物が見当たらない事を

若きバウンティハンターのグレリスは知ったばかりである。

明かり取り用に小さな窓が牢屋には備え付けられているものの、鉄格子の隙間と同じく脱獄に使える大きさでは

無いのでここから逃げ出すと言う事は出来ない。

(となれば、多少危険だがあの手で行くしか無いかも知れねーな)

1つだけ思い付いた方法があるのだが、ハイリスクハイリターンの賭けである。

幸いにも目が覚めた時は吊りベッドに寝かされているだけで縛られていなかったのが幸いしたが、それでもハイリスクな事に変わりは無い。

そのハイリスクを冒してでも、脱獄出来るチャンスが見える筈だと確信して止まなかったグレリスは早速その脱獄方法を実行し始めた。


その脱獄方法を準備してからおよそ10分。

カツコツとブーツで歩く様な音がグレリスの耳に聞こえて来た。

(良し、来たな……)

耳に入って来る音に全神経を集中させて、ブーツの音の主がどんな行動をするのだろうかと息を潜める。

チャンスは1度きりしか無い。失敗は許されない。

絶対にここから逃げ出すと心に決めたグレリスの耳に、鉄格子の外側から声がかかった。

「起きろ」

これは明らかに女の声である。

そう言えばあの男は自分が迎えに来るとは言って無かったっけ……とグレリスは気が付いたが、どんな人間が相手でも

計画に支障は無い筈だぜとも考えた。


グレリスはその命令には従わず、ただじっと横たわってその瞬間を待っていた。

「ねえちょっと、聞こえてるの? ねえ!?」

呼び掛けてもグレリスが何も反応しない事に苛立った女の声が聞こえて来るが、グレリスはそれでも無視を貫いていた。

「ちょっと……ねえ、い、生きてるの!?」

段々苛立ちから焦りの声色に変わる女だが、グレリスはやっぱり無視。

逆に言えば、ここで無視を貫いておかなければ計画も何もあったものでは無くなってしまうのでひたすら我慢比べが続いていた。

「くっ……こうなったら予定変更!!」

ガチャガチャと錠前を外す音が聞こえ、グレリスは口元に薄く笑みを浮かべてほくそ笑んだ。


(よーし来い来い。俺に近づいたその時がお前の最期だ!!)

牢屋の扉が開けられ、声の主がすたすたと足音を立てて中に入って来るのが気配もプラスして分かる。

その声の主がグレリスの様子を確かめる為にブーツを地面から浮かせた瞬間、横たわっていたグレリスの身体が

グルッと回転して声の主の両足を払い飛ばした。

「きゃあっ!?」

どたっと音を立てて尻餅をついた声の主はやっぱり女。

年相応の若者であるグレリスは恋愛に興味が無い訳では無いし、女は好きな方である。

だが、今はそんな事を考えている場合では無い。

足払いで尻餅をついてしまった女の手から落ちた錠前の鍵を素早く奪い取って、グレリスはさっさと牢の外に出る。


「ちょ、ちょっと!!」

「ははっ、こんな見え見えの死んだ振りに引っ掛かるお前が悪いんだよ! 俺はここから逃げ出させて貰うぜ!」

女が体勢を立て直して牢の扉に近づいた時には既に遅し。

グレリスによって鍵をかけられてしまった扉が彼女の行く手を阻んだ。

「ははっは! アディオス!」

非常に元気の良い声で、そして爽やかな表情でグレリスは牢の中から叫び声を上げる女を尻目に出口を探して

駆け足で進み始めるのだった。

「ちょっと、ここ開けなさいよ!! ねぇ、ねえってばーっ!!」


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