A Solitary Battle Another World Fight Stories 5th stage第3話


自分の閉じ込められている牢屋の方向に向かって来る足音は、その音からすると1つだろうとグレリスは推測。

万が一の事が起きた時の為に普段の仕事で愛用している、腰にぶら下げている2丁のリボルバーの

ハンドガンに手を掛けた……つもりが。

(……あれっ、俺の銃が無え!?)

何と、腰にホルスターこそぶら下がっているものの肝心の中身が無いのである。

林の中で用を済ませに行った時にはしっかりあった筈なのに、とパニック状態に陥ってしまったグレリスの目の前に、

その足音の主が姿を見せたのはその時だった。

「あー、確かに魔力が無い人間だ。これは良い実験材料になりそうだな」

「何だお前」


現れたのは、壁に掛けられているランプの光に照らされて青白く光っている、真ん中分けの髪型をしている若い男。

見た所、自分とそんなに歳は変わらないかもしれないとグレリスは推測する。

それにしても初対面の第一声からして実験材料呼ばわりされるとは、グレリスは正直気分が悪い。

そもそも自分の何処に実験材料に出来る要素があるのだろうか?

しかも魔力と言う訳の分からない単語まで出て来て、グレリスのパニック状態は尚も続く。

「人をこんな場所に閉じ込めて、その上材料呼ばわりとはバカにするのも大概にしろってんだ!! こっちは

何が何だかさっぱり分からねーんだから、きっちり俺の今の状況とかお前の事とか説明して貰うぜ!?」


だが、男はグレリスのセリフを「はっ……」とあからさまにバカにした様子で流してしまった。

「そんなの俺が教える訳無いだろ?」

「……っでだよ!?」

「お前の仲間のせいでこのソルイール帝国はめちゃくちゃにされてしまったんだ。騎士団長とギルドトップの

傭兵を殺した奴は、お前と同じ様に魔力を持たない「異分子」の人間だった。そしてお前も同じく魔力を持っていない。

つまり、お前があの「騎士団長殺し」の仲間って可能性が高いからな」

「は、はぁ……!?」

駄目だ、こいつの言っている事はさっぱり分からねぇ。

それがグレリスの率直な感想である。

魔力がどうのこうの、騎士団長が殺されたとか、何とか帝国だとかと次から次へと意味の分からない言葉が出て来て

グレリスは頭痛がして来た様な感覚に陥る。


そんなグレリスを見て、男は予想外の物をグレリスの目の前に見せびらかし始めた。

「これ、お前の銃だろ?」

「あっ!? そ、それ俺のだ! 返せよおい!」

「嫌だね」

鉄格子の隙間から必死に伸ばすグレリスのその手がギリギリ届かない位置で、ブラブラとグレリス愛用のリボルバーを揺らす男。

「っの、返せ……ってんだろ!!」

「嫌だって言ってるだろ。こんな危なっかしい物を持たせたら何をされるか分からねーからな」

意地の悪い笑みを浮かべて男は牢屋から離れる。

「もう少ししたら迎えの奴が来るから、それまでここで大人しくしてるんだな」

「おいてめぇ、待ちやがれえ!!」

血の気の多いグレリスの荒っぽいセリフは、虚しく男の背中と石造りの地下牢に吸い込まれて行くだけだった。


再び静かになった地下牢の鉄格子の内側で、グレリスはガックリと項垂れる。

「何でだよ……ちきしょう……っ!!」

確かにあの林の中で用を足しに向かったのは自分である。

だが、その罰としてはちょっとこれは行き過ぎでは無いだろうか?

こんな訳の分からない場所で、いきなり現れた見知らぬ男に訳の分からない事をペラペラと喋りまくられた挙げ句、

自分の商売道具と言っても過言では無いリボルバーまで奪われてしまっているこの状況。

(夢なら悪過ぎるから早く覚めて欲しいぜ)

こんな気味の悪い夢は初めてである。何で自分がこんな目に遭わなければならないのだろうか?

グレリスの心の中はそんな疑問で一杯一杯だった。


26年間生きて来た中で、正直に言ってしまえば良い事もして来たけどやっぱり悪い事だってして来た。

万引きだってした事もあるし、色々と人間関係で失敗もしてしまった。

暴力事件だって起こした事もあれば、怪しい集団とつるんだ事もある。

それに勉強に関してはグレリスは全然駄目で、器械体操を昔から習っているだけあって身体能力の高さ位しか

自分に誇れる部分が無かった。

だからこの身体能力の高さを活かせる職業に就こうと思って色々思案した結果、今こうしてバウンティハンターとして活動している。

ともかく、何時までもここでまごまごしている訳にはいかなそうだ。

(どうやって出るかな……)

犯人を追い詰めるのは慣れているものの、こんな囚われの身になってしかも脱獄なんてグレリスは26年間生きて来て考えた事が無い。

だけど脱獄をしてさっきの自分の取られてしまったリボルバーを取り返し、そしてここが何処なのかを知る必要があると自分で思う。

ならばすぐに行動だ、と何か脱獄に利用出来る物は無いかグレリスは牢屋の中を探し始めた。

(こんな所で人体実験の材料なんかにされてたまるかってんだよ。俺はまだまだやりたい事が沢山あるんだし、薄暗い牢屋で

訳の分からない内に人生が終わるなんて真っ平ごめんだぜ!!)


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