A Solitary Battle Another World Fight Stories 5th stage第2話
(うー……頭が痛ぇ……)
酒を呑んで2日酔いになってしまったのは今に始まった事では無い。
だが、眠りから覚めて意識が段々と覚醒して行くに従ってグレリスの痛みを覚える頭が少しずつ現実を認識し始めた。
(あれ……? そう言えば俺、昨日酒呑んだっけ?)
そんな疑問を覚えたグレリスの視界に、古いシミの着いている見慣れぬ天井が飛び込んで来た。
「……はぁ!? ど、何処だよここは!?」
見覚えの無い部屋だった。
天井は元より、壁や床まで全て石造りの冷たい材質で統一されている部屋の汚い吊りベッドで
目を覚ましたグレリスが驚くのも無理は無い。
何しろ、自分の住んでいる家は小汚なく色褪せたシック調に統一されている部屋であれど、ここまで汚く
温かみが無い場所では無かった筈だ。
そもそも、自分はどうしてこんな場所に居るのだろうか?
まだ痛みがあるものの、眠りからは完全に覚醒した頭でグレリスは考える。
普段は茶色いテンガロンハットを被っている、黄色に近いボサボサ金髪が生えている頭に右手を置いて、
グレリスはここに至るまでの経緯を必死に思い出し始めた。
(確かあの時、俺は……)
自慢の愛車であるハーレーをかっ飛ばし、ハイウェイを時速100キロでひた走るグレリス。
しかし今回の遠征先から自宅まで丁度1時間、つまり100キロ先の自分のねぐらへと戻る為に他の車や
大型トレーラーを避けつつ長い道のりのライディングだった。
ここまで遠くに繰り出す事は実は割とある事で、今回もまた長距離の帰宅となったのだが、報酬を貰う筈だったのに
貰えなかったストレスがたまっていたせいなのか途中でトイレに行きたくなってしまったのである。
……が、あいにくその時に走っていた場所は周りに何も無い様な場所。ハイウェイも夜遅くなっていたせいか、
遠くに他の車のテールランプやヘッドライトが見えるだけで非常に空いている。
(うーん……、良しっ!)
この状況なら仕方ねーよな、とグレリスは決心してハイウェイから脇道に入り、木々が生い茂っている林を見つけて
そこにハーレーを停車させる。
そしてそそくさと用を足しに向かう。
酒を呑む時は先にこうした用を済ませ、自宅近くのバーまでハーレーで走ってそこからハーレーを押して帰るのだが、
今日は酒を呑んでいないのでまさか途中で尿意が襲って来るとは思っていなかった。
それでも生理現象なのだからやっぱり仕方が無い。
誰かに見られない内にさっさと済まして、とっとと家に帰って寝て気分をリフレッシュさせればそれでイライラしたこんな気分とも
おさらばだぜ、とグレリスは林の中を歩く。
「ふぃ〜」
林の中で迷ってしまう位に道路から離れる程グレリスも馬鹿では無い。
エンジンが掛かったままのハーレーのライトが見える位の距離で小さい方の用を済ませ、いざハイウェイに戻ろうと
歩き出したその瞬間だった。
「……うおっ!?」
歩く方向に停めてあった自分のハーレーがまばゆく光り出す。
誰か別の車が近くにやって来たのだろうか?
それとも警察に見つかってしまったのだろうか?
しかし、それにしては明らかにこの眩しさは異常である。
「うう、ぐあっ!?」
余りにも眩しいその光に、思わずグレリスは片腕で目の部分を覆って足を止めてしまう。
そしてその瞬間激しい頭痛に見舞われながら、意識がブラックアウトして行くのを感じていた。
(で、俺はこうしてここに居る訳なのか……)
ベッドから起き上がったその頭を左右にゆっくりと見渡してみて、自分がどうやら牢屋の様な……いや、牢屋に居るのだと判断した。
(ここは何だ……牢屋か? って事は俺は捕まったのか?)
何で自分がこうしてここに居るのかと言うのもそうなのだが、こうして捕らえられてしまったと言う事は幾つか思い当たる節がある。
(やっぱりあそこで用を足してたのがまずかったのかなー)
いやきっとそうだろうと思うグレリスだが、この牢屋は現代の様なきちんとした留置場の様な場所では無さそうだ。
何だか、中世の世界観で犯罪者を一時的に拘束しておく為の場所と言った方がしっくり来そうである。
でも、自分が住んでいるのはアメリカだし自分が仕事をしているのもやっぱりアメリカ。
中世のこんな雰囲気はヨーロッパの方に行けばあるだろうとは思うグレリスだが、こんな場所に何時の間にか
連れて来られたのなら自分が誘拐されてしまったのが濃厚に考えられる。
(俺なんか誘拐してどうするんだよ。一応まっとうに仕事をして稼いでるつもりでは居るけど、別に大金持ちって訳でも無いんだぜ)
むしろ完全に出来高で決まるシステムの仕事に就いている為、今回の様に失敗して収入が無いケースもあるので
不安定な収入の働き方をする労働者だ。
(だったら別の何かを目的にして、俺がここに連れて来られたって言うならまだ納得出来るぜ)
ともかく、ここに自分を連れて来た奴が居る筈だから話を聞かせて貰わないと困るグレリスが牢屋の鉄格子に近付いて行くと、
同じ様にグレリスの方に近付いて来る足音が彼の耳に届いて来る!
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