A Solitary Battle Another World Fight Stories 4th stage第59話
「そこまでだ!」
大声が部屋の中に響き渡る。この声はレナードでも男の声でも無い。
しかし、レナードには非常に聞き覚えのある声。
その声が聞こえて来た、この部屋の入り口方向にレナードと男がバッと振り向いてみれば……。
「貴様等……そうか、内通していたのかっ!?」
武器を構える姿を見たのは、レナードは実は初めてかも知れない。
それ程までに武器を構えたシーンを見た事が無かった、王国騎士団第4師団の師団長であるアンリ・ルイ・ボワスロが
愛用のハルバードを構えて立っていた。
何故彼がここに。
レナードの頭の中はその事で一杯だった。
「あ、アンリさん!? 何故……」
「あんたがその怪しい男と一緒に、倒れている騎士団員達の脇をすり抜けて走り去って行くのを目撃した
騎士団員達が居たんだよ。そして連絡を受けた俺がこうして後を尾けて来てみれば、
まさかこんな事を仕出かすとはな……はっきり言って裏切りに等しい行為だぞ、あんたのやっている事は!」
感情剥き出しでハルバードを隙無く構えるアンリに対して、レナードも何時もの冷静な態度が思わず崩れてしまう程に慌ててしまう。
「ち……っ、違います!! 私がこの男と結託しても、何も意味は無いでしょう!?」
慌てながらも、何とか冷静に確実に自分とこの男は何の関係も無いと否定するレナード。
が、男からは衝撃的な一言が。
「城から脱出する時に魔術を使ってくれて助かったよレナード。あんたのおかげで、ここのロックを解除する事が出来た。
それじゃ俺は先に行くから、この男は君に任せる。君なら何とか出来るでしょ? 向こうで待ってるよ」
そう言って、レナードが反応出来ない内に素早く転移魔術で姿を消してしまった男。
レナードがゆっくりとアンリの方を振り返ってみれば、少し距離があっても分かる程に殺気をみなぎらせているアンリの姿があった。
「あんた……いや貴様、俺を最初から全て騙していたのか!!」
「なっ、ちょ、ちょちょちょ、待って下さいアンリさん!! 全てこれは誤解なんです!」
「何が誤解だ! この遺跡の入り口の封印を解除しただと? そしてあの男を最深部のここまで案内した。
それでどうして内通していないと言い切れる!?」
「そ、それはつまり、ええと……」
レナードは心底後悔した。
自分の「地球に帰りたい」と言う気持ちを利用されたと今更ながらに気がついてももう遅い。
少し考えれば分かる筈だった。なのに、地球に帰りたいと言う気持ちに自分の行動をコントロールされてしまった結果として
倒れていた騎士団員達をそのままにして来てしまったばかりか、自分がこうしてさっきの男と結託していると誤解されてしまっているこの状況。
(まずい。非常にまずい展開だ)
あの男は自分を襲った賊である以上、その賊としてまともな取り引きをする筈が無いと思うのが一般的だったのに……。
ここに来て、レナードは痛恨のミスを犯してしまったのである。
「話はじっくりと城で聞かせて貰わなければな……抵抗するなら容赦はしない!!」
「ま、待って……」
完全に頭に血が上っているアンリは、容赦はしないと言いつつ自分に襲い掛かって来る気満々であるとレナードは判断。
ここは抵抗せずに話し合いに持ち込みたい所だが、どうにかして穏便な方向に持ち込みたいレナードが黙ってしまっていた事で
アンリはレナードに投降の意思が無いと判断してしまった。
「大人しく来ないのであれば、力ずくでも連れて行くっ!!」
「くっ……!!」
じりじりとアンリがハルバードを構えて近付いて来る。
レナードの後ろには壁画が掛けてある壁がある。このまま後ろに下がってしまえば逃げられる訳が無い。行き止まりだからだ。
戦いたくは無い。だけど戦うしか無い。
以前の手合わせでは自分が負けてしまった。でもやるしか無いのだとレナードは気を引き締める。
人間、自分の意思に反して立ち向かわなければならないシーンは一生の中で意外と多かったりする。
そのワンシーンが今、レナードにやって来たと言う訳だった。
「はっ!!」
息を吐き、一瞬の内にアンリがハルバードを構えて間合いを詰めて来た。
今回は負ける訳にいかないのだ。
負けてしまえば、自分があの男と結託している人間だと思われたまま城に連行されてしまう事になるのは目に見えている。
だから、今回だけは勝たなければならない。
その極限までの緊張感が、レナードの身体をスーッと冷めさせて冷静にさせてくれた。
(……そっちだ!!)
今のレナードには見える。アンリが振るう、そのハルバードの動きが。
横になぎ払われて来たハルバードをアンリの元にダッシュしながらのヘッドスライディングで回避したレナードは、その体勢を利用して
アンリの足を手で掴んで崩す。
足は掴んだまま、相手の身体ごと自分の身体を捻って竜巻の様に崩すその動きはプロレス技の中でも1、2を争う程
有名な「ドラゴンスクリュー」だった。
しかも普通のドラゴンスクリューと違い、若干低い位置から掛けられた為無理な体勢でアンリは地面に叩きつけられてしまったのである。
「ぬおっ!?」
自分の無実と、プロレス技は武器にも負けない事を証明するべくレナードのファイナルバトルが始まった。
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