A Solitary Battle Another World Fight Stories 4th stage第58話
男に案内された場所は、彼の証言通り王都カルヴィスから歩いておよそ20分の場所にあった。
そこは何と湖の近くにある森の中。
大きな山脈から流れ降りて来た川が、長い年月をかけて湖を造って来たのだろうとレナードが考えている
その目の前に「その場所」は姿を現わしたのだ。
「ここは一体何なんだ?」
「最近見つかったって言う古代の遺跡だ。だがここはまだ王国が調査していない。いや……出来ないって言った方が正しいかな」
「出来ない?」
何だか意味ありげなその男の言い方にレナードは首を傾げる。
(普通、古代の遺跡が発見されたと言う事になれば真っ先に王国の調査が入るのが当然の筈であろうし地球であれば
ニュースとしてメディアが報道しても何ら不思議では無い筈なのに、調査が「出来ない」と言うのは一体……)
レナードが大きな疑問の答えを頭の中で考えていたが、結局答えが出そうに無いので男にその理由を尋ねてみる。
「何でこの遺跡は調査が出来ないんだ? 何かそれなりの理由があっての事だと思うのだが」
自分の頭で幾ら考えてもどうしても分からない事であれば、分かる人間に聞くのが手っ取り早い。
そしてその分かる人間である男からはこんな答えが返って来た。
「この入り口には強力な魔術の結界が張られているらしくて、王宮の魔術師でも未だに解除出来ない程
難解な奴らしいんだよ。けど、俺は1つの仮説を考えてみたんだ」
「仮説……」
何だか嫌な予感がするが、黙ってその先を聞いてみる事にした。
「俺の立てた仮説なんだが、この魔術の結界と言う物は人間の体内の魔力に反応してブロックするシステムになっているんだ。
魔術をブロック出来る魔術はあっても、「魔力」までは人間の体内に絶対にある以上完全に無くす事は不可能。
だけど……その魔力が無い人間が魔術の結界に触れたとしたら?」
その先で男が何が言いたいのか、魔力を持たない異端児の存在であるレナードにも分かった。
「つまり、私がこの魔術の結界を通り抜けて入り口を開ける事が出来るかも知れないと言う訳か」
その予想は立てた仮説と一致した様であり、男は盾に首を振った。
「その通り。そしてここだけや無くて、この世界中で同じ様な場所が何箇所も見つかっているらしい。俺は旅人だから
そう言う事はすぐに分かるんでね。だから君にここの入り口を開けて欲しいって訳さ。もしかしたら地球に帰る事が
出来るヒントが見つかるかも知れないぞ?」
地球に帰る事が出来る。
その一言が、レナードに冷静さを失わせてしまう。
「……地球に、帰る事が出来る……」
その誘惑を受けてしまったレナードは、遺跡の入り口であるサビついた両開きのドアに向かってブーツで地面を踏みしめながら歩いて行く。
そしてそのドアの取っ手をグイッと引っ張ってみると、魔術の結界なんて本当にあったのかと思ってしまう位にあっさりと入り口の
ドアが開いてしまったのだ。
「……開いた」
「やっぱりな。魔術も魔力の無い人間相手には無駄だったって事か」
この先に進んでみれば、何か地球に帰る為のヒントが見つかるかも知れない。
レナードは自分の横を通り抜けて遺跡の中に踏み込んで行く男の後に続き、自分も遺跡の中へと用心深さを取り戻して足を進ませ始めた。
薄暗い遺跡の中。
長く放置されていたのかもしれないこの遺跡には非常にホコリっぽい空気が漂っているが、男が何かブツブツと呪文を唱えてみると
一気にそんな空気が浄化された様である。
……と感じたのは男だけらしい。
「……はぁ、これで少しはホコリ臭さが消えたかな」
「ええっ? まだホコリの臭いがそこら中に充満していますよ」
「えっ?」
男はレナードに魔術が効かない事を知らなかった。
厳密に言えば今のドアの前のやり取りで少しだけ分かった様なのだが、その他の魔術も全く効果が無いと言う事はたった今理解出来た様である。
「まさか君、魔術の類が一切効かないのか?」
「そうらしいがな……私にもそこは良く分からん」
男は風の魔術を使って遺跡の中の空気を浄化したつもりだったらしいが、レナードには一切効果が無い様でこのホコリっぽい空気を感じたまま
レナードは男の後ろを歩く破目になった。
遺跡の中には魔物の存在は確認出来ないらしい。
これも男が広範囲の探査魔術を使った事による結果だが、レナードは魔術の知識も無ければ魔術が使える訳でも無いので
男の言葉を信用するしか無かった。
色々な部屋があり、色々な場所があるが手がかりらしきものは何も見つからず。
段々レナードが不信感を抱いて来た頃、ようやく最深部である地下4階に辿り着いた。
「どうやらあそこの部屋で終わりみたいだな」
長めの廊下の突き当たりをレナードと男は見て、その突き当たりにある部屋のドアに向かって歩いて行き部屋に入る。
そこには大きな壁画が、まるで2人を待ち構えるかの様に鎮座していた。
「壁画……?」
一体この壁画は何なのだろうか?
とにかくもっと近くに行って様子を見てみない事には良く分からないので、レナードがその壁画に1歩踏み出して近付いた……その時。
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