A Solitary Battle Another World Fight Stories 4th stage第52話
結論から言ってしまえば、すでに満身創痍の状態に近くなっているレナードを受け入れてくれる武器は1つも無かった。
全ての武器で同じ反応が現れてしまったからである。
訓練用では無く、実際の戦闘シーンで使われるれっきとした武器にも関わらず、レナードは使えない。
町の武器屋と提携して製造から販売、そしてアフターメンテナンスまで全て城の武器を手掛けて貰っている以上、
その町の武器屋で同じ様に武器を試してみても変わらないだろうとアンリや魔術師達は言っていた。
そして、他の魔術師からはまたもやレナードの身体を酷使する実験を提案される。
「武器が使えないとなると……防具はどうなのでしょう?」
「はい?」
「武器が駄目でも、防具があれば身を守れる筈です。しかし魔道具と武器が駄目なら、防具も同じ事が起きる
可能性があるのでは無いでしょうか?」
「……」
さすがにプロレスで鍛え上げた肉体を持っているレナードでも、少し休憩させてほしいとばかりにストップをかける。
「え、ええとその前にちょっと休憩……。ここまで身体を酷使したのは久しぶりです。この現象、かなり身体へのショックが大きいんですよ」
と言う訳で、レナードの要望で新鮮な牛乳を持って来て貰って休憩する。
「これじゃあ私、戦いになった時にかなり不利になるのは間違い無いですね」
「そうだな。武器が全く使えない、魔道具も身に着けられないじゃあ……素手でも限界があるだろう」
魔術が通用しないとなれば魔術師相手には何とかなるかもしれないが、それを超える程の不利な条件が自分に
存在している事をレナードはその身で今しがた思い知った。
言葉が通じる、文字が読めるだけでもありがたいと思い、戦いにならない様な状況を自分でチョイスして行くしか無いとこの時悟っていた。
「よっし、それじゃあ続きやるか」
「えっ?」
「防具の実験さ」
同時に自分はここで倒れてしまうのでは無いかとも、この時レナードは悟ってしまった。
「ぐぅ……はぁ……」
「やっぱり駄目か……」
肩当て、胸当て、脛当て等々全身の防具を試してみた結果として防具に触る事は出来た。
しかし身に着ける事は出来ない。これは魔道具と同じ結果である。
「何だろう、これは……」
「この人の体質が関係しているのは間違い無さそうだけどなぁ」
「でも、こんな事見た事も聞いた事も無いぜ」
すでに瀕死状態になりつつあるレナードと、そのレナードを介抱するアンリの横で魔術師達が顔を見合わせて困惑している。
「ん……ひとまず、誰か治癒魔術をかけてやってくれないか」
「では僕が」
1人の魔術師が歩み出て来て、ぶつぶつと呪文を唱えながらレナードの腹に手を置く。
そして呪文を唱え終わったのだが、魔術師は怪訝そうな顔をしている。
「……おい、どうした?」
「まさか……治癒魔術も駄目なんじゃあ?」
「えっ、嘘だろ?」
アンリも訝しげな表情をしてレナードを見つめる。
ここまで来るとさすがにざわめきは起こらない様であるが、魔術師達が困惑しているのは攻撃魔術や魔道具、そして武器の時と変わらない様である。
確かに、治癒魔術をかけたにしては疲れが回復していない様子だ。
「もう1度かけてみてくれ」
「はい」
アンリに指示されて治癒魔術をリトライしてみる魔術師だが、結果は変わらずまるで効いている様子がレナードには見られない。
それを疲れ切っている身体で見ているレナードに対して、アンリが無情なセリフを投げかけた。
「なぁ、これが最後の頼みなんだが……あんたにもう1つだけ試してみたい事があるんだ」
「な、何ですか……?」
「防御魔術をその身体にかけた後で、俺のパンチを食らって貰う。加減はするから心配するな」
「……分かりましたよ」
どうせ嫌だと言っても結局何時かやる事になるのかも知れないなら、今もうここでやって貰った方が精神的なプレッシャーを残さなくて
済むと判断したレナードは、足に力を入れて起き上がる。
「ぐぅ……も、もう無理です……」
防御魔術は時間制限があるものの、その一定時間の中で相手の物理攻撃も攻撃魔術も絶対にシャットアウトしてしまう奇跡の様なものであった。
が、その奇跡はレナードには起こってくれないらしい。
アンリに貰った体重の乗った重いボディブローは、レナードに防御魔術の効果が無い事を実感させるには十分だったのだ。
「ともかくこれで武器も防具もあんたは何故か身に着ける事が出来ないし、武器全般に至っては手に持つ事すら不可能らしいな」
「それに、魔術も使えない上に治癒魔術も防御魔術も私には効果が無いとなるのは……困りましたね」
城下町に出て、色々実験をさせたお詫びにとアンリがお勧めの食堂に連れて行ってくれるとの事で2人は歩いている。
そして、朝の鍛錬場での出来事を通してレナードにははっきり分かった事がある。
この世界で生き残る為には、必然的に素手で戦わなければならないのだと。
それかもしくは、プロレスの展開でお馴染みとなっている身の回りにある物を使った凶器攻撃に踏み切るしか無いと。
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