A Solitary Battle Another World Fight Stories 4th stage第53話


アンリに連れられて、レナードは裏通りにあるまさに隠れ家の様なレストラン……と言うよりは場末の

バーと呼べる古びた建物に辿り着いた。

貴族階級の出身であるが故に、てっきりもっと高級な店に連れて行ってくれるのかと思っていたレナードは

肩透かしを食らった気持ちである。

それに今から自分達が入ろうとしているこの料理屋は、アンリが色々と関わっていたと言うアルジェルの町の

あの酒場に何と無く雰囲気が似ていた。

それを思い出したレナードは、店に入る前にアンリに確認する事に。

「アンリさん、このお店ですか?」

「そうだ。城の食堂とは似ても似つかない雰囲気だけど、元々城のシェフだった店主がここをオープンしたから味は保証出来るぞ」

城のシェフだった人間が経営している料理屋ならば確かに味は保証出来ると思うのだが、それでも何だか

妙な不安感をレナードに覚えさせる店の佇まいだ。


(何なんだ、この不安感は……)

幾ら頭脳明晰だ、コンピュータ並みの頭脳だと周りから言われた所で未来を予測出来る訳では無い。

出来れば店主の人があのアルジェルの町の様にイレギュラーな存在では無い事を願いつつ、アンリに先導される形で

レナードは料理屋の中に足を踏み入れた。

(ほう……)

レトロチックなイメージ、それから木目調で統一された床に壁といかにも落ち着ける雰囲気を醸し出している店内。

(アンリさんはこう言う雰囲気の場所が好きなのか……?)

不安感を払しょくしてしまう位の店内の雰囲気に、レナードも冷静さを完全に取り戻してアンリに案内された長方形のテーブルに一緒に座った。

肝心の店主はと言うと、レナードよりも10歳位上であろう渋い大人の……。

(女性か……)

レナードのタイプでは無いものの、美人かと問われれば間違いなく美人と言えるであろうその店主とアンリが

慣れた口調で会話をしている所を見れば、アンリがここの常連である事に嘘偽りは無いとレナードも判断出来る。


「あんたは何を食べるんだ?」

「私は……そうですね、朝はさっぱりした物が食べたいので、サラダやパン等のモーニングセットみたいなメニューがあればお願いします」

「分かった。ならその辺りの物を適当に持って来てくれ」

女店主に料理を頼んだアンリは、これからの予定をレナードに伝える。

「これから王城内部での仕事をメインにして貰おうと思っているのだが、王城に忍び込まれた事を考えてみると、城下町メインで

働いて貰った方が良いのかとも思ってな……今、俺は真剣に悩んでいるんだ」

あの時レナードと格闘戦を繰り広げた賊は、王城に侵入する位なのでやはりそれこそ王城に何かしらの目的があったのでは

無いかとレナードもアンリも考えている。

だから王城に狙いがあるのであればレナードの身の安全を考えて王城に居させる訳にはいかないし、逆に王城以外で遭遇する

可能性もあるかもしれないので城下町で迂闊に行動させる訳にもいかない。

つまり、どっちの方法をとってもリスクがあると言う事だった。


それに対して、レナードは少し考えて結論を出す。

「私は王城内部での仕事をメインにしたいと考えています」

「そう考える理由は?」

「王城の内部であれば騎士団員の方々がいらっしゃるからです。今回の襲撃事件があった事で王城の警備が強化される筈ですから、

それを考えるともしまた私と賊が遭遇するリスクが低いのは王城内部に居る方が低いでしょう。それに、あの賊が単独行動では無い

可能性もありますから、城下町をむやみやたらに動き回って賊の仲間に襲撃される可能性も無いとは言い切れません」

どっちに転んでもリスクがあるのなら、よりリスクが低い方を選ぶのはほとんどの人間がそうであろうと上でのレナードの判断だ。

王城の警備が強化されれば、それだけでレナードに賊が近付ける可能性は低くなる。

「分かった。それだったら食事が終わり次第、すぐに王城に戻るとしよう。最初にあんたにどうしたいかを聞けば良かったな」

「いえ、アンリさんのおっしゃっていた事も分かると思ったのは昨日の私ですから。ですが今の会話を通して、やはり王城に居た方が

良いのでは無いかと思い直しました。アンリさんが今おっしゃった通り、食事が終わり次第王城に戻るのが私も良いと思います」


2人が考え直して、やはりこっちの方が良いと判断した結論が王城の中に居る事だった。

事実、あの賊は結局城下町で見つかる事は無かったと言う。

何処かに転移したのでは? と色々と転移の痕跡を探し回ってみたもののそれすらも見つからず、明け方まで捜索活動が

進められて収穫がゼロだった結果がそれを物語っている。

となれば、城下町にまだあの賊が潜んでいる可能性は大きい。

「賊が捕まるか、1か月経っても再度襲撃されないと判断した場合には警戒態勢を通常の状態に戻す。それまで我慢してくれよ」

賊の目的が不鮮明な以上、しばらくは警戒態勢を強化したままにするべきだとアンリがこれからの予定として述べていた……その時。


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