A Solitary Battle Another World Fight Stories 4th stage第50話
「考えてみたのですが……もしかしたら、私には魔術の類が一切通用しないのかもしれません」
「通用しない……」
アンリに言ったそのセリフで、魔術師達も話し合いをストップしてレナードの方に向き直る。
「通用しないだと? 何を言ってるんだ!」
「見えないって言うのも通用しないって言うのも、嘘なんじゃないのか?」
「現にあんたの腕、びっしょり濡れているじゃないか!」
魔術師達が色めき立つのも無理は無かった。
自分達が今まで長い時間をかけて勉強して来た事、それから術が出せる様になるまでトレーニングして来た
努力が全て無駄だ、と言われている様であったからだ。
それを見て、やっと状況が呑み込めて冷静さを少しずつ取り戻して来たレナードは魔術師達が色めき立つのにも
動じずに、自分の状況から推測したこの予想を話し始める。
「私の意見とそちらの意見がそれぞれ食い違っているのは、それぞれが見えている光景が違うと言う事になると思います。
現に、私の感覚としては腕が濡れておりませんし地面に垂れていると言う水滴もまるで見えません。
それに魔術師の皆様が披露されていた魔術のデモンストレーションに関しても先程申し上げた通りで、
私にはどんな魔術がどれだけの大きさで披露されていたのかは全く分かりませんでした」
それを横で聞いていたアンリが、次にこんな提案をした。
「それじゃあんたには悪いんだが……もし本当に魔術が一切通用しないと言うのであれば、あんたには水系統以外の
魔術も効かないって結果になりそうだな」
「そうなりますね」
これはレナードにとっても一種の賭けである。
今の水の魔術の様に、本当に何も効果が無いのであればそれで良い。
しかし効果があるとしたらレナードの指摘は嘘になる。
「だけど、あんたの言っている事が本当かどうかは実際に確かめてみるしか無いよな。怪我は覚悟出来てるか?」
アンリにそう問われたレナードは、若干ムッとしながらも答える。
「プロレスの世界では色々なテクニックをかけたりかけられて来たりしましたからね。怪我に関しては慣れていますよ」
「そうか、そうだったな。それじゃあ小さな魔術でやってみようでは無いか」
「お願いします」
レナードにとっても、それからアンリや魔術師達リーフォセリア王国側にとっても意見がこうして平行線をお互いに辿るままの
状況では非常に気分がスッキリしない。
ならば人体実験を行う事で、実際に魔術が通用しないのであればそれでスッキリする筈だと怪我のリスクを考えてまで実践にお互いが同意した。
「では、まずは火属性の魔術です。偉大なる神アンフェレイアの力よ、我の手に猛き炎を。ファイアーボール!」
少しだけレナードから離れて、魔術師はレナードに向かって手のひらをかざしてそう詠唱する。
その瞬間、魔術師の手のひらからオレンジに近い赤い光が現れたかと思うとその光がボール状になってレナードに
飛んで行き、そしてぶつかった。
ファイヤーボールをぶつけられた方のレナードの反応は……。
「あ、あの……まだですか?」
「えっ!?」
レナードには何も「見えていなかった」。
ファイヤーボールが放たれた事も分からなければ、自分に当たったのも認識出来ない。
そもそも服すら焦げていない様にレナードには見えている。
ならば……と今度は土属性の魔術を別の魔術師が試してみる。
「偉大なる神エンヴィルークの力よ、我に大地の力を与えろ。ストーンアタック!」
空中に大きめの石を取り出し、それを相手にぶつけると言うシンプルな初級魔法。
だがこれもまた……。
「え……と、石が飛んで来ていると言う事で宜しいのです? 見えないので分かりませんが……」
「え、あ、あれ?」
土属性の魔術もどうやら駄目らしい。
こうなって来ると、レナードには本当に魔術が効かないのでは? と言う疑問が魔術師達にもアンリにも浮かぶ。
それでも、まだ試していない属性が1つだけあった。
「ならばこれはいかがですか? 偉大なる神アンフェレイアの力よ、我に風の加護を。ウィンドカッター!」
名前の通りで風圧によって相手を切り裂く事が出来る魔術なのだが、レナード自身から見る限りでは
レナードの髪の毛がたなびいている様子は見受けられなかった。
「まさか、これも効いていないのか?」
「そうらしいですね。ウィンドカッターですから名前からすると風の魔術ですよね? でも、私には風が当たった感触は無いです」
「……信じられん……」
アンリもうーんと腕を組んで悩む。
現にレナードはアンリや魔術師達に熱がる様子も痛がる様子も見せていないのだから、ここまで現実を見せつけられてしまえば
認めざるを得ないらしかった。
そんなレナードを見ていて、魔術師達からは口々に驚きの声が上がる。
いや、どちらかと言えば不気味がる声だろう。視線もまるで化け物を見る目つきだ。
「何だ、あの男は……」
「異世界からやって来たと言う噂は本当の様らしい」
「あの男が生きて来た世界には魔術は無いらしいけど、まさか魔術自体が効かないなんて……」
「これは研究対象にしてもしきれないわね……」
しかし、魔術師達がひそひそと話をするのを見ていたアンリがその時ある事を思い出した。
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