A Solitary Battle Another World Fight Stories 4th stage第49話
「見えない……?」
一体この男は何を言っているのだろうか、とアンリも魔術師達も驚きを顔にそのまま表していた。
しかし、驚いているのはレナードの方もそうである。
「はい、まるで見えません。ワラ人形が手も触れずに大きく動いたりしていましたから、魔術を使っているのだろうと
言う事は分かりました。しかし、どなたがどの様な魔術を使っていたのかと言うのは全く分かりませんでした」
「本当か……? フレイムバーストもウィンドストームもアクアウェーブもロックスピアも、全てが見えなかったと言う事なのか!?」
「え、ええ……。名前の響きからある程度は予想する事は出来るんですけど……魔法に色とかはついています……か?」
何処かためらいがちにそう尋ねるレナードに、アンリは唖然とした表情を未だに崩せないままである。
「そ、そりゃあついているさ。炎系統だったら赤くて、水系統だったら水が出るから青っぽいし、土だったら色は無いけど
岩とかが見える筈だし、風も色は無いけど空気が震えているのが見える筈なんだが……」
しっくり来ない感じの口調を隠そうともせずにアンリがそう言うのだが、レナードにはやっぱりピンと来ない。
だって、見えないのだから。
「見えない以上、口で説明されても申し訳ございませんが理解出来かねます」
「だよなぁ……どうすりゃ良いんだ……?」
せっかく魔術を披露したのに、これではレナードにとってはただのオカルト現象と言う事で終わってしまう。
見えないと言う事がそもそもアンリにも魔術師達にも理解出来ない。
自分達にはしっかりと、王国騎士団の剣となり盾にもなる魔術がワラ人形に向かって飛んで行くのが何時もの通り見えている。
どうにかして魔術の存在をレナードに知らせたいとアンリは考えていたが、レナードからこんな提案がもたらされた。
「……では、1つ思いついた方法があるのですが」
「何か提案があるのか?」
「はい。私に、実際に魔術を当てていただくのです。そうすれば自分の身を持って体感出来ますから。最小限の威力の魔法で
あればさほど身体へのダメージも無いかと思いますし。聞くよりも自分の身体で実際に感じた方が早いかもしれませんからね。
こうするのはいかがでしょう?」
「うーん……怪我のリスクがあるからなぁ……」
さすがにそこまでさせる訳にはいかない、とアンリはNGを出そうとしたもののレナードからアンリにこうセリフが投げかけられた。
「アンリさんは私に魔術をお見せしようと思って、ここに連れて来てくださったんですよね。しかし、このまま私の言い分が通ってしまえば
せっかく連れて来ていただいたのに無駄に終わってしまいます。魔術師の方々も、体内にある魔力を消費してまで私に魔術を
お見せして下さったんですから、私は魔術の存在を認識出来る様にしたいと思います」
「あ、ああ……それならそれで良いけど……」
レナードは意外と、こう言う人間関係の部分はおろそかにしない性格なんだなーとアンリもそれから今しがた出会ったばかりの魔術師達も思っていた。
そこまで言うのであればと言う事で、魔術師の1人に頼んでレナードは自分の身体に魔術を当てて貰う事にした。
「水の魔術にしておきましょう。炎は危ないですし、土は地面から飛び出るものがあったり砂埃を発生させたりしますから広範囲に
被害が及びます。風も同じ理由です」
「分かりました」
魔術師に説明され、腕まくりをして筋肉質な前腕を露出したレナードのその前腕部分に対して水の魔術を当てて貰う事にする。
「それでは行きますよ。偉大なる神エンヴィルークの力よ、我の手に水を集めたまえ。ウォーター……」
ブツブツと呪文を唱え、水の魔術を詠唱する魔術師。
だが。
「……この魔術はどの様な効果があるのですか?」
「えっ?」
「特に何も起こらないのですが……」
「え、ええっ!?」
明らかに演技では無いそのびっくりした表情の魔術師に対して、レナードは非常に困惑している。
「一体これはどう言う事だ?」
「わ、分からない。確かに腕は濡れている筈なんだが……何故だ?」
魔術師達が騒めきつつ、内輪でひそひそと話し合っている。
それを見ていたアンリも、信じられないと言う表情でレナードに問いかける。
「な、なぁあんた、本当に何も感じていないのか?」
「感じる……とは?」
「だって今のあんた、腕がびっしょりと濡れているんだぞ?」
「はい?」
濡れている? そんな筈は無い。
自分の肌から伝わって来るこの感触が、レナードにはそれこそ自分の肌なのだからはっきりと分かる。
「濡れていませんね……。濡れているんですか?」
「濡れているも何も、水滴がほら、こうしてポタポタって地面に……えー!?」
アンリもこれ以上どう説明すれば良いのかパニック状態なのがレナードには分かった。
でも自分の腕の、魔術を当てられた部分が濡れていると言うのは分からないままである。
しかし、その中でもしかすると自分は……と頭に浮かんだ1つの仮定がレナードにはあった。
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