A Solitary Battle Another World Fight Stories 4th stage第48話
翌朝。
アンリに案内され、レナードは魔術のトレーニングをしている魔術師が多数集まっている訓練場へとやって来ていた。
とは言うものの、前にレナードが自分のトレーニングの為に使わせて貰っていた鍛錬場の一角に魔術を当てる為の
ワラ人形が置いてあり、そこでトレーニングしている時間帯を狙って来たのでレナード1人でも来ようと思えば
来られたのだが、前日の事もあったしアンリに単独行動は危険だと言われて一緒にやって来たのである。
更に言えば朝食もなるべくアンリから離れない様にする為に食堂で向かい合わせに食べていたので、妙に窮屈さを
感じてしまってレナードは落ち着けなかった。
それでも、これは自分の安全の為に我慢するべきだと心の中で思い直す。
(せっかくアンリさんに案内していただいたんだし、今は一旦あの時の賊の事は忘れておこう)
余り考え過ぎるのも良くない。
事実、ズルズル引っ張り過ぎた結果としてレナードは上官であるアルジェントに殴られてしまったと言うのはまだ彼の記憶に新しい。
なので、今は魔術と言うものがどんなものなのかを実際にこの目で見て、自分の肌で感じてみる事に意識を集中させようと決意する。
アンリと魔術師達が何やら話し込んでおり、時折りレナードの方を振り向いて段取りを計画しているのがレナード自身の目にはしっかりと見えている。
これから一体どんな魔術が自分に披露されるのだろうかと言うワクワク感が半分、魔術と言うものに対しての疑惑が40パーセント、
魔術が自分に対してどの様な影響を与えるのだろうかとの恐怖心が10パーセントの気持ちがグルグルと頭を駆け巡るレナードの元に、
魔術師達との話し合いを終えたアンリが戻って来た。
「待たせたな。それじゃあ色々と魔術を見て貰うとしよう」
「分かりました」
色々な感情が入り混じっているレナードだが、いざこうしてアンリから言われてみると頭の中がスーッとクリーンになって行く感覚に陥った。
もしかして緊張し過ぎていたのだろうか?
見た事の無い光景をこれから見ると言う事は、人間誰しも少しは緊張するものだがそれは自分自身も例外では無いとレナードは再認識した。
そう再認識しているレナードの目の前では、魔術師達が横一線で並んでそれぞれワラ人形に杖や本等を携えつつ手のひらを向けている。
「それじゃ、よろしく頼むぞ」
アンリの指示によっていよいよ魔術のオンステージが幕を開けたのだが、次の瞬間レナードは信じられない光景を目の当たりにする事になる。
(……あれ……?)
ワラ人形に向かって、魔術師達が色々と魔術を繰り出す。
炎が熱風を生み出し、水の弾がワラ人形を水浸しにし、土の槍がワラ人形を串刺しにして、生み出された風がワラ人形を激しく躍らせている。
レナードの横ではアンリが魔術師達を見て、小さく「すげー……」等と感嘆の声を上げているのだが、当のレナードは終始困惑した表情のままであった。
「……」
「どうした、凄すぎて声も出ないか? 超一流の王宮魔術師達だからな。色々と生活に必要な技術の開発にも貢献してくれている、
この国……いや、この世界にとって欠かせない存在なんだ」
先程から黙ったままのレナードを見て、アンリが王国で最高峰のテクニックと魔力を持っている魔術師達の説明をする。
が、レナードの困惑の理由はアンリがイメージしているものとは全く違うものであった。
(……まさか……)
そして、レナードの頭脳がある1つの可能性にたどり着く。
(もしかして、私は……)
自分のこの見えている世界が、本当に現実のものであるとするならば。
(ひょっとすると私は、今とんでもない光景をこの目に、この記憶に焼き付けているのかも知れない)
目の前の光景から困惑と驚きの余り声も出せず視線も逸らせずに、レナードはそのオンステージが終わるまでただ立ち尽くすしか無かったのだった。
「どうだった? 魔術を実際に目の前で見て」
自分の国の魔術師だからだろうか、アンリが若干誇らしげにレナードに感想を求めに来た。
だが、感想を求められている方のレナードは非常に複雑そうな気持ちが顔に現れてしまっていた。
「……おい、どうしたあんた?」
自分達とは違う世界……それも魔法や魔術と言うものが存在していない世界からやって来ただけあって、初めて見たこの魔術に言葉も出ない程
驚いているのだろうかとアンリは思っていた。
自分なりにそう考えているアンリに対して、レナードは自分のその口から正直に自分のその目で見えた事だけをはっきりと口に出した。
「いえ、それが……魔術を使っているんだろう、と言う予想しか出来ませんでした」
「は?」
キョトンとした顔つきになるアンリを見て、魔術師達もレナードとアンリの元に集まって来た。
そんなアンリや魔術師達に構わずにレナードは続ける。
「魔術の結果がまるで見えないんです。何かを唱えていたり、何かを飛ばしたりしているのは分かったんですけど、一体何をどうやって
撃ち出しているのですか?」
そのレナードのセリフに、アンリだけで無く魔術師達の表情も固まった。
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