A Solitary Battle Another World Fight Stories 4th stage第47話
『何故だ……詠唱が失敗しているのか? いやそんな筈は無い……さっきは現に何事も無く
侵入出来たのに? しかも効力が切れるまでの時間の余裕もまだまだある筈だ。だがこの男は見えている……』
あの時にブツブツ呟いていた男の言葉も、まだレナードの記憶に新しい。
その事をアンリに伝えると、腕は組んだままで更に険しい表情になって唸りを上げる。
「う〜〜〜〜〜ん……その男が魔術を使っていたと言う事はどうやら確定したみたいだけど、
そんな事を呟く意図が俺には見えないな。まさか、あんたには魔術が通用しないと言う事なのか?」
「そうなんですか……ね?」
コンピューター並の頭脳で25歳で大尉に昇進したエリート街道のレナードでも、正直に言って分からない事が
存在するのは当たり前である。
物事の理解をするのは早くても、基本的な事を知らなければ何も分からないのは当たり前。
魔術に関してもそれは同じである。
魔術の事を何も知らないレナードは、知っている限りで構わないからとアンリに色々魔術の事を聞いてみる。
「本当に少ししか知らないぞ、俺」
「構いません、お願いします」
「分かったよ……。ええと魔力って言うのはこのヘルヴァナールの世界を司っている、この世界にとっては必要不可欠な要素の事なんだ」
この世界の事についてまだまだ知らない事が沢山ある以上、この世界で30年以上生きて来ているアンリからレナードは教えを請う事にした。
「俺達人間もそうなんだけど、この世界に存在している生物ならどんな小さな小動物だって、それからその辺りに生えている
草1本や木1本だって必ず持っているのが魔力って奴さ」
それを聞き、今の自分の立場をレナードは再確認する事が出来た。
「じゃあ、私みたいな魔力を元々持っていない人間はこのエンヴィルーク・アンフェレイアと言う世界では異端な存在と言う事になるんですね」
「そう言う事だ。その魔力が体内にある事で、俺達は魔術と言うものが使えるんだ。勿論トレーニングは必要だけどな」
「魔術ですか……」
胡散臭い、と言ってしまえばそれだけの事である。
しかしながら、この世界にやって来て初めて見た存在であるワイバーンや明らかに中世ヨーロッパの風景、そして国王に謁見したり
色々と検査を受けたりと言う事でさすがのレナードでも認めざるを得なかった。
そこで、もう1度この世界が地球では無いと言う事を確認する為にレナードはアンリにこんな事を頼んでみた。
「では、私に実際に魔術を見せて頂きたいです」
「魔術を?」
「はい。この世界の魔術と言うものを私はこの目で確認したいのです。魔術と言うものは私の住んでいる地球では作り物の中の
世界でしか無いと言う認識ですからね。それに、襲い掛かって来たあの賊の男が口走っていた事も気になりますし」
魔術が通用しないとか、自分の姿がレナードには見えているとかと言われてもレナードにはまるで実感が湧いて来ない。
ならば城の人間に顔が利くアンリに頼み込んで、色々と魔術を見せて貰うのが手っ取り早いと判断したのだ。
それに対して、アンリからレナードに意外なセリフが投げ掛けられる。
「分かった。明日は城下町を少し案内しようと思っていたのだが、その前にやるとしよう」
「城下町を?」
レナードはてっきり明日も仕事があるのかと思っていただけに、きょとんとした顔つきでアンリに聞き返した。
「ああ。襲われたって言う事があった様だし、事実確認の為に色々と調査をせねばならん。かと言ってこの城に居続ければまた襲撃される
可能性もある。侵入して来た賊が誰を狙ったのかは分からないが、もしかしたらあんたを狙ったと言う可能性も否定出来ないからな」
「私を狙う……」
アンリの説明を受け、レナードは自分の頭で導き出した狙われそうな理由をピックアップしてみる。
「私が狙われる理由ですか……。考えてみれば色々浮かびますね。まず私は魔力を持たない人間ですから色々と調べ甲斐があるでしょうね。
それから、私が異世界からやって来た人間だと言うのがもし何処かから流れてばれていると仮定して、私から色々と地球の事を聞き出したい
人間が居る可能性も高いでしょう。後は他の国でも異世界からやって来たかも知れない人間が居るのであれば、その人間がこの世界の
人間から恨みを買っている可能性もあります。その矛先が同じ異世界人と言うだけで私に向けられているかもしれませんしね」
ちょっと頭で考えてみただけでも幾つもこうして狙われる理由がポンポンと浮かんで来る。
なら逆に城の中に居た方が安全では無いのかとレナードは思ったが、そこにはアンリなりのちゃんとした理由がある様だった。
「賊に城の中に侵入されてしまった以上、警備体制の見直し等が必要だ。それに城の中に魔力を持っていないあんたが居るって
知られてしまったんだ。もし俺が賊だったら、警備体制が強化される前にさっさと忍び込んでまた城を狙う」
「ふむ……」
アンリの言う事も分かると思い、レナードは言葉に甘えて城下町を案内して貰う事にした。
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